DOORA

---SIDE STORY---

#9.「蜘蛛の糸1〜ハンティング〜

 

 

「こちらキング、カメラ、センサーをセット完了」
「はえーな。こちらレッド、マイクロトラップを55%設置完了。これを抜けられる奴がいたら神か悪魔かって感じだよ」
「ラジャー」
「はいはーいホワイトだけどー、キングの言うように電源が1つだけ生きてるよ。それとサブコンピュータも。ワイヤーにコネクションしとくねー。」
「よし。サブコンピュータは掌握できたか」
「まだだけどまかせてポリ仕様だから楽勝ねん。んで、今調べてるんだけどさー・・・ねーキング」
「どうした」
「彼ってさー余程のバカなの?それともよぽっどの自信があるのかなー、センサーやトラップはおろかなーんにも設置してないよ。パソパソもまんまポリス仕様で強化されてないし。侵入者が来たらどうするつもりなんだろね」
「ふふっらしいな・・・自信なんだよ。小細工は必要ないという自信だ」
「へ〜キングは随分と奴の肩を持つんだにー」
「そういうわけじゃない」
「ふーん・・・ま、いいや。これからパソパソを接続してハックかけるから。完全掌握まで3分ってとこかな」
「ラジャー。時間はあまりない各自急げ」
ドーラ達が向かった先はドロイド工場跡地。
しかも、ここはかつて銀河警察向けに使用されていたドロイドメンテナンスの専用工場であった。ここほどジークの拠点とするに適した場所はない。こういった工場は、公的にはそのものが極秘であり場所を含め一切が一般のネットワークには知られていない。それは例え廃棄されてからも同じだ。とはいえ、銀河警察の数多くある秘密工場のうち全てが完全に、かつ頑強に秘密が保安されているわけでもなかった。
その中でもさまざまな因果関係から不要に建てられた上に、半端に破棄されているのも少なくはなかった。無駄に建設され、一度も稼動することなく計画的に廃棄される工場。ここはそんな無駄の一つであり、よって忘れ去られた施設の一つ。

「ねーキング、とっても重要なことなんだけど」

「どうしたホワイト」

「私のコードネームってイヤくない?キュートにかえてくんないかな」

「え?・・・」

ホワイトと名乗るとても背の低い少女ニューマンはそう言った。暗闇の中、少女はラップタイプのコンピュータを胡座をかいた足の上に置き器用に正確かつ速いタッチでキーボードをたたいている。叩く度にショートカットの髪がタ小刻みに揺れた。背中には身体に似つかわしくない大きな布製のバックパックを背負っている。
彼女はこの身長と顔からは想像出来ないがギルドに登録されているハンターだ。名前をトウといいコンピュータに精通しているトラップ外しのスペシャリストだ。ギルドから依頼され、特別な任務として参加した。と、言ってもギルドにとって特別な任務等は日常茶飯事だが。

「うわっ。お前言ってて恥ずかしくないのか」
「煩いなー」
「どこをとればキュートなんだ」
「見たまんまじゃないの。この大きな瞳、コンパクトで均整のとれたボデー」
「そして、哀れな胸か・・・」
「レッド!」
レッド言われたこのレイキャスト。レイキャストととしては標準的なボディサイズ。真紅のカラリーング、背中に身体より大きなバックパックを背負い、漆黒の闇となった工場内を疾走している。手に持っているのはマイクロトラップ。どうやら、バックパックはトラップを満載しているようだ。廃虚と化した工場内を滑るようにように走り、止まることなく巧みにトラップを設置している。彼もトウと同じくハンターでトラップのスペシャリスト。名前をアカイという。
「レッド、ホワイト、作戦に集中してくれ」
「ブラック、テレポーター及びワイヤーガン設置完了。電源部に接続後、ホワイトに設置データを転送する」
「あいあい」
「ラジャー、ブラック」
この口数の少ないレイマーはスマイソンという。胸部装甲を除き全身を黒のタイトスーツで覆っている。常にメットを被っておりその素顔を知るものはいない。驚いたことにハンター証にもそのメットのままで写っている。ギルドでは有名人の一人らしい。というより知らない者はいない。ドーラがギルドに依頼した時に真っ先に紹介されたのがスマイソンだった。彼はその身なりからダークハンターと呼ばれている。任務成功率が100%というありえないタイトルをもつが、この男には謎が多い。ハンターは実力こそが全てであり、素顔や経歴等は意味をなさない為にこうしたことも可能なのだろうが・・・。
「はえーなー。ホワイトも見習えってーの」
「何がよ。一番仕事が遅れてるのはあんただかんねー」
「じゃかましー。俺が設置量一番多いんだよ、チビ」
「!」
「オーケーオーケー、二人ともその辺りで止めてくれ。無声音声とは言え敵に聞こえそうで気が気じゃない。文句は終わってから全て聞こう」
「こちらホワイト!キング言ったね。覚悟しときな」
「おーおーお可哀相に。奴が喋りだしたら24時間は止まらないぜ。自覚ねーだろーが、男に振られる原因がそれだからなー」
「!」
「待った、わかった。24時間でも48時間でも付き合うから。今はミッションに集中してくれ」
「わーりました。レッドーいつか自爆装置押してやる。通信終了!」
「んなのねーっつーの。通信終了」
なんなんだこの二人は。
命を失っても不思議ではないミッションだ。到底無駄口をたたく心境ではない筈だ。第一赤き凶器、コードネーム=バーサークがターゲットという時点でそれはプロなら言われなくてもわかる筈だ。それがなんなんだ。ドアーズ時代のミッションを考えると、こんな素人のような対応は到底理解出来ない。部隊を危険にさらす行為と言える。零コンマ零1秒に生死がかかっているのに・・・。
ハンターズというのは警察を含め軍部もあまりおもわしく思っていないものが多い。しかし、今のラグオルの状況がそれを到底許さないから公的に認められているだけで、本来なら排除したいと言われている。わかるような気がする。こんな些細な規律すら守れないで何がハンターズだ。犯罪者と紙一重じゃないか。隊長・・・本当に彼はらプロなんですか。
ドーラがそう考えるのも無理はなかった。ドアーズ時代、時折その必要性からハンターズギルドに協力を依頼することは度々あった。だが、そのミッションのどれしもがドーラにとっておぞましいものだった。裏切り、スパイ行為、敵前逃亡、報奨金の上乗せ等、犯罪者と何等大差ない。いや、むしろ正義面しているだけおぞましい。度重なる事件でドーラには嫌悪感が植え付けられら。アイデンティティを確立し除隊したドーラが、多くの除隊者がたどる道の一つ、ハンターズにならなかったのもその為である。だからあえて宇宙船修理工などになった。ハンターズと呼ばれる人種は信用出来ない。警察内部の人種は特にハンターズを思わしく思っている人間は少ない。ジョニー隊長と雅龍教官を除いては。
「ハンターっていう連中はユニークなんだよ」
「ユニーク?」
「個そのものなんだ。ルールは自分にしかない。ろくでもないルールも持っている奴はろくでなしだし、俺達より遥かに理想も高く強い者もいる。ユニークなんだ」
「規律を乱す機関かと思いますが」
「規律・・・うん。確かに規律は重要だ。だがなドーラ、本来規律ちゅーのは個の能力が充分に発揮する為に存在はしても、個を扱い安いように封じ込めるもんじゃないんだ」
「全体が最大の効果を発揮して、初めて個ではないのですか」
「ふふ、まードーラ。機会があったらハンターと仕事してみろ」
「ミッションで何度かあります」
「そうじゃない。肩書きを捨て正面からよつに取り組むんだ。あれがまさしくカオス。あれがまさに人間だよ。ドーラならきっと好きになる」
「信じられません。しかし隊長がそうおっしゃるのでしたら・・・メモリしておきます」
まさに今回のミッションがその時と言えた。
今までの戦闘で1人では限界であるのは明らかだった。かといって、海のものとも山のものとも知れないような者達と組むにはいささか相手が悪い。傭兵という選択肢もあるが、ある意味ハンターズより始末が悪い。到底ミッションになる筈もないと言えた。腕が確かでそれでいて命を失うことを臆さない人種・・・もはや選択肢は残されていなかった。
「キングからカラーズへ、ターゲット確認、距離300」
ドーラは工場の2階部分に位置する窓に小型カメラを数台設置していた。
そのカメラを有線で接続し、ドーラは工場内より外の様子を伺っている。無線ではその電磁波で気付かれる可能性がある。
この工場には入り口が一つしかない。もとより相手はジークだ。こそこそと裏門から入るような奴でないことは十分承知していた。そう、奴は必ず正門からやってくる。

その通り奴は正門へ向かってやって来た。
「こちらキング、各自状況を報告せよ」
ドーラの暗視スコープにはドアーズで共に闘った頃と同じ姿がうつっていた。女性のようにしなやかで、流れるような美しいボディ。
ジークはまるで自分の家にくつろぎに帰ってくるかのような足取りだ。
銀河手配されていると思えないほど堂々としていた。
「こちらホワイト、パソちゃん完全掌握。各自ネットへ接続してロードしてちょ」
「ラジャー、ホワイト。レッドどうだ」
「あいさー。トラップ設置完了。我ながら芸術的だぜ」
「ラジャー、レッド。ブラックは」
「こちらブラック。配置についた。ロード完了マップ展開。カウントを待つ」
「ブラック了解した。他ポジションへ急げ」
「うっそ、はえーな。ネットへ接続してロード中。ポジションへ向かっている」
「急げレッド」
「わーってる、遠いんだよ」
アカイは空となったバックパックを静かに切り離し、広々とした工場の1Fフロアーを滑るように走っている。
「相変わらずどんくさいねー」
「うるせー、お前もまだだろ」
「ふふん」
鼻で笑うとトウは小型スーツケース型のコンピュータを閉じ、素早くバックパックに収納。そしてコンピュータルームを出ると、音もなく工場のほぼ中央まで駆ける。まるでカマイタチだ。ニューマンにしか出せないしなやかなスピード。中央に着くと間髪入れずに左手にワイヤーガンを握る。そして、天井へ向かって射出。ワイヤー弾が着弾すると一気に30メートル上空へするすると上った。天井に到達したトウは、一回反動をつけ軽々と天窓に取付く。正確で一部の無駄もない。前世は猿か。特殊グローブにより四つんばいに天井に張り付き、辺りの気配を伺いながら慎重にしかし素早く天窓を開ける。その姿は猿と言うより蜘蛛に近い。
「ポジションについたよ。マップ展開、メインプラグラム作動、モニター確認。いつでもどうぞ。・・・ふふ〜んレッドちゃんはどうかな〜」
「クソ、いちいちムカツク奴だなー。もう少しだ」
「キングだ。ターゲットは正門についた急げ。」
「急いでるんだって、スケーティングじゃこれが限界だ」
レイキャストの移動は主に3種類の方法がある。足で歩く、バックパックを使用する、足のフットバーニアを使うの3種類だ。レイキャストはその構造上重量が重い。その為、作戦中に歩くということはほとんどない。スケーティングバーニアとは足のスカートに装着されているバーニヤで地上高スレスレに浮かび、足で大地を蹴ることで進む方法だ。足で走るより速い上に、パックパックを使用するよりパワーを消耗しないで済む。
「ミッションカウントに入るぞ、レッド」
「おーし、ポジション到着。マップ展開・・・さすが俺、計算通り」
入り口の正面に位置し最も奥にあたる壁面に伏せ、長銃ウォルスを構える。
「むっくっくっく」
パソコンを叩きながら笑いを堪えるトウ。
「なんか文句あっか」
「別に〜」
「ホワイト、シンクロ開始」
「あ、はいはーい。ガイド役の美人ちゃんが勝利へ導くよーん。カラーズ全員のデータをモニターで確認。接続良好。カウントゼロと同時にワイヤー銃を充電・・・外は月が奇麗よー。終わったら月見で祝杯かな」
「おーいいねー、祝杯はキング様のおごりだな」
「カラーズ、ミッションカウントセット」
「セット・・・」
「セット」
「せーっと」
「3・2・1、GO!」

死闘は静寂と共に始った。
ギッツギッツギッツギギーーッツ。
入り口が洋館の錆びた大扉を開けたのような音をたてた。

ゆっくりとスライドした。扉はドロイド用に作られている為、ヒューマンのそれと想像するに2倍から3倍もある大きさだ。ヤツは電源が供給されていない扉を力ずくでこじ開けている。
アカイは、赤き凶器と言われたヒューキャストに興味を抱いていた。今まで報道ではさんざん聞いてきたが映像で捉えれれたことは無い。一体どんなヒューキャストなのか、その姿を最初に捉えたいと思い、このポジションを志願した。そいつは300メートルほど先にいる。
ズームをし、その姿を捉えようと気がせった。
そいつは確かにいた。
両側に手を突っぱね立っているその姿は月光でシルエットとして映った。
その姿はアカイの想像と全く異なり美しいものだった。しかし、その印象に反して今までに無い畏怖心が湧くのを感じた。
ギッツギッツギッツギギーーッツ。
届いた一筋の光は消え、工場内は再び闇に閉ざされる。

2階踊り場からもれる月明かりだけが微かに見える。ドーラの言った通りその真紅の死神はあらゆるセンサーモニター上では捉えられていない。電子の目では存在していないかのようだ。しかし、確実に凶器はそこにいた。
コツ、コツ、コツ。
それは女性のヒールのような軽い足取りで歩みよる。
向かう先は恐らく工場の最も奥ににある、そうアカイの左横に位置するかつての職員専用メンテナンスルーム。そこにドロイドをメンテナンスする一式の設備があった。
コツ、コツ、コツ。
その姿を見ているうち、突然全身に虫が這いずり回るような味わったことのない感覚が襲う。
狩るのは自分達で奴は狩られる立場にある筈なのに。なのにコツ、コツ、コツという反響音は、自分が死刑台に向かっているような錯覚をおぼえさせた。
心の中でわずかにこのポジションについたのを後悔した。ドーラの作戦ではここはスマイソンのポジションだった。
コツ、コツ、コツ。
ジークの接近と共に恐怖という虫は徐々に数を増した。
コツ、コツ。

コツ。

 

工場内の全ての明りに火が灯る。
「アンチジャミング作動確認」
ホワイトの声と同時に全員のモニターは工場内中央に、バーサークの姿を捉えた。
赤き凶器という名の死神が降臨した瞬間だ。
それは同時にこちらの存在が相手に知られた瞬間でもあった。
「全トラップ起動」
冷静なドーラの指示がとんだ。
「あいさー、ぽちっと」
工場内のトラップが一斉に浮き出た。

上空からみるとそれはまるで蜘蛛の巣のような網目に見えた。
「おーし網は完成したよ」
網の中央付近にはジークが立っていた。
ジークは一瞬周囲を見渡すと、瞬間に置かれている立場を理解した。
全く動じる気配はない。
手をだらんと下げ二王立ちとなった。
ジークは微かに笑った。
正面に捉えているアカイは恐怖した。
「あいつ全然ビビッてねーぞ、どういう電子頭脳してんだ」
「きたきたきたー。奴のセンサーがそこらじゅうをまさぐってるよ」
「わかったホワイト、頼んだぞ」
「うっそ・・・うそうそうそ、もう全員補足されちゃったよ。こいつ速いよ!」
凶器は踵を返すと、正確にドーラがいる方向、ドーラのいる角度で見上げた。
「待ちきれずに会いに来たか」
ドーラは入り口の真上にあたる2階踊り場付近にいた。
しかし、目視出来る場所ではない。
工場内2階付近は工作用機械が移動する為のレールが縦横無尽に伸びている。レールにはかつての工作機械の残骸がいたるところにあり、ドーラはその工作装置の裏にいた。肉眼では見えないポジションだ。
「クックックッ」
全く急く様子もなく悠々と腰にぶら下げているハンドガンに手をかける。
「ホワイト、まだか」
「待って待って待って・・・」
工場の屋根上では、月明りに照らされたトウが信じられないスピードでキーボードを叩いている。
「えぇー待って、待ってよー」
三面鏡のように開いているパソコンのモニターには、ドーラ達が見ているのと異なるマップも展開されている。そのマップに次々と赤い点が浮かび上がる。
「・・・あちゃー」
「どうしたホワイト」
「センサーカットが間に合わなくて、起動しているトラップも全部掌握されたっぽい・・・なんなのコイツ。速い、速いよ。こっちはサブコンとデュエルなのにー」
そう言いながらも必死にキーボードを叩く。
右側のモニターには数字と文字が凄い勢いで流れている。
「おいおいおい、まだ始ってもいねーのにいきなり雲行き怪しいんじゃねーのかー」
「こちらブラック、待機中」
「各自備えろ」
凶器は赤のハンドガンを握ったまま身じろぎ一つしない。
「えい、えい、えい、えい・・・どうだ!」
「ホワイト・・・」
「ひー・・・バーサークのセンサーカット完了。無力化したよー」
「よっしゃー!」
「でもなんなのコイツ、こんな相手初めてだよ。今のペースなら計画の30分は無理よー。もって20分、いや15分でけりをつけてー」
「了解したホワイト」
「わわわっ」
「ホワイトどうした」
「バーサークの逆解析が始ってる!もの凄い勢いよ」
「ラジャー。キングよりカラーズへ。ミッションスタート!」
全センサーをカットされ電子の目を失ったジーク。
目視による補足しか出来なくなっているにもかかわらず悠然としていた。
それはアカイ達を動揺させるに充分な姿と言えた。
「クックック」
左手に赤のセイバーを・・・握った。
「GO!」
ドーラの掛け声と同時に、いきなり踵を返し走り出すジーク。
走りながらハンドガンで無数にあるトラップを正確に落とす。
その先には・・・アカイが。
「嘘っ!目視だけで俺のトラップを」
恐怖で背筋が凍り付き、トリガーが引けない。
今だかつてこれ程のプレッシャーは受けたことがない。
「GO!GO!GO!」
ドーラの声が凶器の呪縛から開放させた。
「クソッ!」
一心不乱にトリガーを引いた。
長銃職人と言われたかつての名工ウォルスの作った傑作が光を放つ。
しかし、正面に赤のセイバーを構え突進したまま弾光を弾いた。
「トウ!」
ドーラはレールの上の障害をものともせず飛ぶように一気に間合いを詰める。
アカイは更に続けて3弾打ち込む。
「クソが、クソが、クソったれがー」
一瞬静止したジークは次々とセイバーで弾光を弾く。
弾かれたフォント弾は工場内を暴れまわっては消える。
そして、再び走りだそうとしたその時。
一瞬スパークした。
「ギャァァァァァァァッツ!」
かと思うと、ジークはカラスの断末魔のような声をあげガタガタと全身を震わせた。
「今だレッド」
レッドは足元に置いてあるワイヤーガンを手に取り間髪入れず射出する。
ワイヤーの先端は凶器の胸部に張り付いた。
「くたばんな。ゲス野郎」
ワイヤーガンのスイッチを入れる。
「ギャァァァァァァァッツ!」
スイッチと共にジークの身体はまるで落雷した、いや、し続けている避雷針のように青い閃光に包まれた。
断末魔は、金属を引き裂いたような音を上げ一際大きな声で工場内に響き渡る。
「よっしゃー!」
「やったねー」
「・・・」
「まだだ、10秒だ」
第一段階の作戦はこうだ。作戦開始と同時にトラップを起動し、まず出足を止める。そう、あのトラップは初めから落とされるのを前提にセットさせた。足を一旦止めさせるのが目的だった。ジークなら目視で充分トラップを落とせることは予想できた。しかし、起動させていないトラップはセンサーを断たれてしまえばわからない。しかもそれが手動で起動させたのでは尚更だ。トラップを起動させたトウは、工場の屋根上で細く笑んでいる。
「いや・・・来るぞ!」
ジークはセイバーを満月の形に一振りした。
ワイヤーは一刀で切断され、電気うなぎのようにのたうちまわっている。
「ホワイト、ポイント1電源カット」
「あいさー」
うなぎは静かになった。
「どうだ」
「3秒だよ。全然足りない」
凶器の体表から煙が上がっている。しかし数秒もしないうちに消えた。
じっと立っている。
首は下を向き、両手は前にだらんと垂れ、ただ立っている。
直接流されたにもかかわらず両手の武器は落としていなかった。
「オイ・・・立ってるぞ・・・」
「第2ポイントだ!」
「え?」
「レッド、第2ポイント!」
刹那、ハンドガンのフォトン光がアカイのいるポイントを貫く。
工場に不吉な破壊音が響き渡り、ポイントは一瞬で瓦礫と化した。
右手を真っ直ぐ伸ばした凶器がトリガーを引いた形のまま硬直している。
上体はのけぞり、セイバーをもった左手はだらんと垂れ、顎を前に突き出している。
「ウリィィィィィィィィィィッ!」
両手を天へかかげ天空へ向かって咆哮した。
ジークの怪鳥音が工場を恐怖で満たす。
「レッド・・・ちょっとレッド!」
・・・瓦礫が盛り上がる。
「急げレッド!」
フォント光が再び貫く。
「このビチクソがーっ!」
一気にバーニアを噴射して瓦礫ごと飛び出した。間一髪逃れた。
「ウリィィィィィィィィィィッ!」
再び両手を広げ天を仰ぎ唸るジーク。
凶器はその怪鳥音が鳴り止む前に動いた。
メンテナンスルームへ弾丸となり走った。
すかさず2階のレール上よりドーラのスコープがジークを捉える。
1発目がボディーを滑り、
2発目はボディーを掠り、
3発目で赤き凶器と言われたジークは足を止めた。
「ウルルルルルルルルルッ・・・」
獣ののような動力音を響かせ、ドーラを見上げる。
狩りが幕を開けた。

 

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