DOORA

---SIDE STORY---

#8.「点と線」

 

 
カンナと別れた後のドーラは、雅龍にことの顛末を報告し今後の方針について綿密に打ち合わせた。隠し事を嫌うドーラは、カンナの言う今後起るであろう事象を聞いたままに伝える。そして、自らの判断を詫びた。
「いいのよ。でも・・・気になるわね」
「はい」
「よく言ってくれたわ」
「申し訳ありません」
「だからいいの。自分の身は自分で守れないで何が教官ですか。ね、そうでしょ。それより、その黒い物体のサンプルは入手したわよね」
「イエッサー。何時でも発送出来る状態にあります」
「じゃーそは何時も通りあそこに送って。とりにいくわ。そして、その時空震の件も併せて調べてみる。気になることがあるのよ。映像データを含めて全て極秘回線で送って」
「イエッサー。そちらはお変わりありませんか」
「まぁね。相変わらず毎日が戦争ね。なんだか最近奇妙なことが続いてね・・・。そうだ、この前のミッションでLAGUNA隊が全滅したわ」
「ラグナ隊が・・・まさか」
「現在、ラグナ隊長他近衛兵の数名が行方不明。」
ラグナ隊は実に殺伐とした隊であった。大破する同胞のレイキャストを容赦なく盾とし、人間もドロイドも大破=死とみなした。そして、平気で戦場で処分してくる。署内でもピリピリと神経を尖らし、目が合っただ合わないだまるで子供のようさ諍いを度々起こした。部隊内では些細なミスでも容赦無い制裁がとんだ。その為、ラグナは部隊内外から「THE TOP OF THE DEATH」=「死の頂」として恐れられる。本来なら処分されてもおかしくないラグナ隊の奇行も、その役目と多大なる功績から黙認され続けていた。
「・・・奇妙とおっしゃる件と関係があるのですか」
「そうなの。それがね、今回の件もミッションそのものは終了していたの。それが、帰還する時に襲撃されたらしくてね。それが最近、そういったケースが増えてるの。時々だけどね。でも今回はさすがにトップ隊にも衝撃が走ったわね。ラグナ隊といえば、ジョニー隊なき後ドアーズきっての要だったから。今署内ではトップ隊の再編成でてんやわんや」
「教官、その時の映像とデータを送信して頂けませんか」
「いいわ。何か全てが関係あるような気がするのよ。あなたも気を付けて」
「イエッサー。通信終了」
ドアーズの中でもトップガンナーズ、略称トップ隊と呼ばれる銀河警察の精鋭が属する強襲狙撃隊の一つだ。ジョニー隊もトップ隊で、ラグナ隊とは龍虎双璧と呼ばれ銀河警察に名を知られていた。トップ隊は、銀河警察内に10チームあり、1チームは隊長を筆頭として30数名に及ぶ大きな部隊である。それぞれに役割があり強襲狙撃隊は、フロントミッションいわば前線の中の最前線に出る最も危険でかつ重要な部隊と言えた。隊の隊長ラグナはジョニーの警察学校時代の後輩にあたる。ジョニーに遅れること2年、このデーモンズゲートに就任。瞬く間に頭角をあらわしトップ隊の隊長へと昇格した。しかし、警察学校時代とは異なり、デーモンズゲートに来たラグナは非情な人間で、とかくジョニーを敵視した。周囲は、先に昇進していったジョニー隊長が思わしくなかったのではと噂しているが真実は定かではない。もう一つは、ジークの編入が原因とも言われている。
ヒューキャストのジークは元々ラグナ隊に属していた。ラグナ隊で抜群の能力を発揮していたジークだが、あるミッションで些細なミスから大破。その為、計画の狂ったラグナ隊は危機に陥ったことがある。ミッションそのものはなんとかクリア出来たが、ジークはラグナ隊長によって戦場で廃棄されそうになる。そこをジョニー隊が通りかかった。
「上層部の許可なく廃棄は許されていない筈だぞ」
「・・・動かないスクラップを持って帰還する方が危険も高い上に、コストもかかるでしょう。メモリチップさえ回収すれば問題はありません。ジークはボディが大破でメモリ回収。なんの問題もない。」
「問題大ありだ。廃棄には許可がいる。それに、ここで直せば、まだ動ける。フォトンは貫通しているんだ他の機関には何の問題もないじゃないか。修理を要請する。」
「ここへ来ても先輩顔ですか・・・ジョニー、さん。ジークは俺の隊員なんだ、外部の隊長さんが、かつて先輩だからってしゃしゃりでていい問題じゃありませんよ。ジョニー隊長様は、後ろのウスノロデカブツや女形オナペットロボット共相手に楽しくやって下さいよ」
ドーラがピクっと動く。
ジョニーはチラッとだけドーラに目線を送る。
「修理するのか、しないのか聞きたい」
「くどいですね。ジークは私の兵隊だ。第一この大穴見て下さいよ、このボディーは無理だ。新しく卸した方がこいつの為だ。どのみち、こいつにとやかく言わせないし。こいつの責任で危ないところだったんだ。このスクラップが・・・少々腕がたつからって、誰かさんみたいにいい気になってんじゃねーぞ」
そう言うと、胸部に大穴が空いたジークへ向かって2・3度蹴りを入れる。
それを見たドーラの右手が銃へ。

「ドーラ落ち着け。奴は俺を挑発しているだけだ。この場は俺に任せろ」

「しかし隊長・・・」

「俺を信じろ、悪いようにはしない」

「イエッサー」

二人は無声通信で黙ったまま話し合った。
「ラグナ隊長、それでも隊員の命を預かる隊長ですか」
「隊長ですよ・・・。隊長様ですよ私は。銀河警察トップ隊の隊長様ですよ。そんなに欲しいなら、このスクラップはジョニーさんに上げますよ。ジークは大破、ラグナ隊とはぐれジョニー隊が回収、以後ジョニー隊はラグナ隊のお下がりを頂く。いいシナリオじゃないですか」
「ラグナ隊長、了解した。ジークは本日この時間をもってジョニー隊へ編入」
「くっ・・・・。」
ラグナの顔が一瞬歪む。しかし、すぐ元に戻る。
「ときにジョニーさん、夜は相変わらずお励みかな。といっても噂ではドロイド相手じゃないと満足に出来ないとか聞きますが・・・」
それまで握り拳をつくっていたドーラの両手がマシンガンに手をかける。
「ドーラ!蘇生装置用意」
「イエッサー」
一瞬送れてジョニー隊のカーゴへ向かって走り出す。
ジョニーはラグナをじっと見据えている。
「相変わらず不細工極まりないねあの後ろ姿は。白い汚物と呼ぶに相応しい。ところで、いつものオナペット隊が見えませんが、隊長様の帰りをベットでお待ちかねかな」
それまで無表情に見据えていたジョニーが急に笑いだす。

「ふはっはっはっは、案外そうかもな」
そこ声を聞いた時、ラグナの自制心が音もなく崩壊した。
「何が可笑しいーっ!」
サプレストガンをジョニーに向かって構える。
それまで静観していたラグナ隊のメンバーが一斉にジョニーの周囲を囲む。
そして、ジョニーを中心に巨大な岩のホログラムが形成され、全員の姿が岩の中に消えた。
「これで他からは見えない。ジョニー・・・俺に指図するとはな・・・随分偉くなったもんだよなオイ・・・おめえ何様だ」
さっきとはまるで別人のような顔をしている。整った顔には不釣合いに、こめかみに太い青筋が浮き出ている。目の周囲、眼輪筋がぴくぴくと動く。
ラグナは足で穴の空いたジークの胸元を踏み、ゆさゆさと揺する。その度にジークの身体がガタガタと痙攣しているのがジョニーから見える。
「ラグナ・・・やめろ」
それを聞いたラグナは一層神経質にゆすり、次第にジークの痙攣が異常なまでに小刻みに震え出した、まるで人間の死後硬直のようだ。銃を持つ手が怒りに震えている。その顔はもはや正義を行う警察隊の隊長とは思えない、殺人鬼そのものの顔だ。
「い、い、命乞いしろーーーっ!」
強い蹴りを一つ入れるとジークはガクガクと震えたまま1回転した。そして、ジョニーに歩み寄り、額に銃を押し付ける。
「命乞いしろーっ!」
サイレンサーをグリグリと額に押し付ける、それでもじっと見据えるジョニー。目線はラグナではなくジークに注がれている。額からわずかに血がにじむ。
「こいも、お前も廃棄だ!廃棄処分だ!俺様が刑を執行する!」
周囲を囲んでいるラグナ隊のメンバーがざわつく。トップ隊の隊長をミッション終了後に諍いから銃殺等あってはならないことだ。そんなことをしたら極刑は免れない。ましてやそれを止めなかった隊員にも相当な刑罰が想像出来た。
「びびんじゃねー。俺はやるって言ったらやるぜ・・・なぁーわかるだろジョニー隊長さんよー。」
トリガーに力を込める。
ジークを見据えるジョニー。
「死んで妹に命乞いしろっ」
ジョニーにしか聞こえないような小さな声でささやく。
バン。
「にっ!」
銃が宙を舞い、同時に擬態の岩が映像の乱れとともに消えた。
ラグナの目線の先には、銃を構えるドーラが。
「ラグナ隊長、お許し下さい。冗談にしてはいささか行き過ぎかと思いまして」
ドーラの登場で一層ラグナ隊の隊員がピリピリと神経を尖らせた。見られてはいけない所を見られてしまった。ラグナ隊の隊長がジョニー隊の隊長へ向かって銃を向ける。しかもドーラはそのいきさつを知っている。恐らく記録しているだろう。擬態まで作って隔離したとなるとこれはこの時点で相当な処分は決定的であった。今ならジョニー隊の隊長と隊員のドーラのみ、今ならあるいは。皆がそう思った。命懸けでデーモンズゲートに就任し、命がけでミッションをクリアしてきた。そしてトップ隊の一員にまで上り詰めた彼らにとって、こんなわけのわからないことで今の栄誉と金を手放す気には到底なれなかった。この空間はどす黒いもので満たされた。
ドーラの視野は警告で真っ赤に染まっている。連中は信じられないことに始末しようとしている。ラグナ隊のヘッドヒューキャストTITANやレイキャストのマコーニックは人間と異なりしかける気がなさそうだ。そうかもしれない。ドロイドにとって地位や名誉なんてなんの価値もない。しかし、他のレイマーやハンターのアドレナリン数値からいってもまさに攻撃色で染まっている。自体は一触即発。ただ、まさかの事が起れば単なる部隊同志のいざこざでは済まないに違いない。
「・・・」
ドーラは先ほどから隊長へ向けて無声通信で本部への連絡の許可を要請していたが、拒否されていた。
「ドーラ、早く奴の修理を」
「イエッサー」
ドーラは覚悟を決め救急キットを両手に持ち、ズカズカとジークへと歩みよった。ジークは激しく痙攣していたが次第にそれも弱まっている。ラグナが揺すったことにより有機神経回路が急速に崩壊を早めていた。それは時間が少ないことを意味していた。ジークの横に緊急用の簡素な修理機器をセットする。
「またせたなー兄弟。俺の名前はドーラ。ジョニー隊のレイキャストだ。俺が来たからには安心しろ。俺の手の中で死んだ奴はいない。言わば戦場の女神様だ。嫌な女神だろ。わっはっはっは。」
そう語りかけ、大きな体躯には似合わない軽快な動きで次々とセットする。ドーラのモニターには次々と問題のある箇所が映し出され、救急キットの指示通り修理を始めた。

パチン。
ラグナが指を鳴らすと、ラグナ隊全員の銃がドーラとジョニーへ向けらた。

しかし、ドーラは無視した。戦闘モードも完全に解き、ドーラは修理に集中している。
次第にジークの痙攣がやみ、静かになった。
それを見た誰かが引き金を弾こうする。
「おーっと、お前はそれで本当にいいのか」
そう言うと、ドーラは手を休めずチラッとだけ上空を見上げた。
なんと、上空にはブーストアップした十数機のレイキャシールが、まるで蝶のように音も無く静かにそして優雅に舞っている。その銃口はラグナ隊全員に向けられている。
「ちっ・・・・面白くねぇ。全員、ミッション終了撤収するぞ」

ラグナの号令と共に全員が一斉に銃を下ろし、まるで何事もなかったように静かにその場を後にした。
「・・・ドーラ・・・、ジョ、ジョニー・・・隊長、感謝する」
ジークはそう言って敬礼をする。
こうしてジークはジョニー隊編入した。
編入したジークが、ジョニーの指導の元で今まで以上の能力を発揮しトップ隊随一のハンターとなるのにそう時間はかからなかった。

 
「あのラグナ隊が全滅・・・何が起きたんだ」
映像を再生する。
映像は砂嵐でほとんどが写っていない。ただ、微かに見える隊のメンバーの様子や、脈拍データ等を見る限りでは確かにミッション終了後の落ち着きを見せていた。ここまでは問題ない。ところが、微かな、本当に微かな時空震が1つ。リューカー反応にしては小さすぎる。日常的にも計測されうる数値だ。しかし、どこか奇妙だ。
その直後。
「うぁーっ」
「どうした!」
「なん、なんだこいつ?」
「なにっ、消えたゾ」
「こっちだ、なんだ・・・たぞ。また、・・・何処だ」
「撃てー撃てー・・・。うそだろ、・・・が効かねー・・た、・・・助けて・・・あーっ」
「撃てー・・・・あ、バカ・・・落ち着け、隊を乱すな!・・・・そっちは・・・」
「・・・隊長は、ラグナ隊長は・・・・ぐあっ、助けて」
「寄る・・寄る・・じゃねー・・・・あーーーーーっ」
乱れた映像の中から微かに見てとれる惨劇の図。いる筈の隊長の姿は見えず、信じられない勢いで隊員の生体モニターが次々に消えていく。
「なんだ、一体何が起きている」
ドーラがモニター解析をしようにも画像は98%がた砂嵐で見えない。他のセンサーカメラは動作していない。ラグナの生態フォトンが異常だ・・・、それに近衛兵のフォトン反応も。あとのモニターは殆どが真っ白、つまり死だ。
「こちらラグナ隊、タイタン。UMA・襲撃を・・・ている。通常兵・・全く・・・ない。推・2分で・・・は壊滅と思われる。各個・・・する回収・・・を頼む」
「ザーーーーッツ」
この通信を最後に終わっている。
生体モニターの様子と現地の検死レポートからすると、敵に遭遇し絶命した隊員は一瞬で命を失っているようだ。不思議なことに外傷が全くない。損壊の激しい隊員は恐らく同士撃ちの結果と思われる。弾痕が全て隊の正式採用されたフォトンと残留フォトンから一致している。

「未確認生物か・・・」
胸騒ぎがする。
先日の姿なき敵を思い出した。
ドーラは目視も、センサー映像にも捉えていなかった。もし、あの時のような奴なら銃器は効かないかもしれない。いや、あの時はそれ以前の状態だった。まるで赤子と大人の戦闘だ。赤子が、素手で核兵器に戦いを挑むようなものだ。
「・・・戦闘とは呼べない。虐殺だ。これは一方的な虐殺だ」
奥底からえもいわれぬ固まりがシコリとなって沸き上がってきた。
あの時の奴とはまた違う何かが襲撃したのかもしれない。あの時とはどこかレベルが違うような気がした。かといって、決してそのラグナ隊が遭遇したUMAに勝てるとも思えなかった。しゃくであるが、ラグナ隊は恐い程に強い部隊だった。恐怖に支配され恐怖を支配した部隊と言えた。それが2分で全滅・・・2分・・・120秒か・・・。
「このラグオルに何が起きようとしているんだ。」



「皆準備はいいか。」
「いいぜ。」
「お好きに。」
「ああ。」
「よし、作戦の最終確認だ。」
「待った。ドーラさんよ。始まる前に聞きたいことがある。」
「なんだ。」
あれから1ヶ月が過ぎた。
今だかつて無い1ヶ月と言えた。
ジークの事件からまだ2ヶ月しかたっていない。まるで映画を見終わったような充実感だ。他人の一生を2時間で見てしまった。そんな気分だった。しかし、この映画はまだ終わってない始まっているのかもドーラにはわからなかった。ただ、あの日以来不思議な落ち着きを取り戻していた。
「ドーラいいか、機械も人間も完璧なんてありえないんだ。完璧な人生も完璧な結果もない。完璧な真実も無い。正義を過度に振りかざす奴わ、悪党とニアリーイコールなんだよ。」
「といいますと」
「つまりだ、おーんなじってことだよ。悪を極端に毛嫌いする奴も正義、正義と正義を振りかざす人間も、ごく悪人と大差ないないんだよ。わっかるかなー」
「おっしゃっている意味がわかりませんが」
「わかんねーだろーな。てなーっ。あーっはっはっは」
「どうしたらいいんですか」
「考えるな。行動しろ。他人と比較するな、他人に結果を求めるな。内なる声を聞いて内なる声の通りに行動しろ」
「宗教ですか」
「ちっがーよ。内なる声だって・・・ミーモンおかわり〜。」
「もーやだー、ジョニー飲みすぎよ」
「いいじゃねーかよ、減るもんじゃねーんだから」
「隊長、お酒は飲めば減ると思いますが」
「ちっがーよ。そうじゃねーよ。もードーラちゃんカッワイイ」
その時、ジークは隊長の横で酔いつぶれいた。
あの時の言葉、今も隊長の言った意味はよくはわかない。ただ、今は出来ることをする。そういうことだと解釈していた。あの言葉を思い出し冷静になった。見えない驚異は、見えないのだから横に置いておけばいい。今必要なのは、自分がまず見えていることをするということだ。何が見えていて何が見えないかを把握するということだ。見えないことはどうしようもない。見えることを、やれることやろう。そう電子頭脳に刻んだ。
「あんさー、これだけの装備あんたどこから仕入れた?」
「それは言えないと言った筈だ」
「ああ、言ったな。だがよ、実際眼にすると気になるんだよ。マイクロトラップ90、ウォルスが3。スターアトが40、チャージ用ブレットが40、ブレイドが1、カットラリが3、それに・・・」
「アカイ、もう言うな」
背の低い小人のような少女が言った。
「・・・これほどの装備、シングルのハンターが直ぐに揃えられる代物じゃねーぞ。俺はお前があっさり揃えたウォルスだって手に入れられなかったんだ。・・・背後に誰がいるんだ。お前は誰の命令で動いている」
「誰の命令でもない。私は私の為に動いている。それに、この件ではハンターズギルドや政府からも援助金が・・・」
「しょんべんみたな額だろ!とてもとても買えないぜ」
「・・・多少金はあるからな」
「多少か!この装備が多少なのか!」
「アカイ・・・何が知りたい」
「真実だよ」
「うぷぷっ。アカイがビビッタ」
「黙れ座敷童!」
「はいはい・・・ククッ」
「私が言えることは少ない。嫌なら今すぐ降りろ。命の保証は出来ない。だから報酬も弾む。以上だ」
「ふぅー・・・正直言ってさ、この報酬は嘘みたいに魅力的なんだよ。うけてーんだ。しかし、犬死にもしたくねー。情報が少なすぎる」
「ドロイドの癖に死を恐れるか・・・」
「黙ってろっていったろ!」
「あーそうだったね。ククッ」
「アカイ。なら、降りるしかないな」
「ドーラさんよ、あんたも頑固だな」
「ドロイドだけに」
アカイは少女を睨みつける。
「あーっと、口が勝手に」
「・・・わーったよ。受ける、受けるさ。くそー」
「くく、そりゃそうだわな。並のハンティング報奨金じゃないし。まーそれだけヤバイってことなんだろうけどさ」
「あんたはどうなんだよ」
アカイと呼ばれた赤のレイキャストはそう言うと、黒いレイマーに声をかけた。全身が黒尽くめ。恐らく人間だろうが顔も装甲メットで覆われて見えない。
「あの噂に高い黒いレイマー、スマイソンさんだったよな」
「・・・」
「だんまりかい・・・」
「沈黙は肯定なり、とね」
「あーくそー、何もかも胡散臭すぎだぜ。まず、ターゲットだ。あの報道の有名人、赤き凶器だろ。銀河警察が追い、ハンターズギルドも追ってる赤いヒューキャスト。お前ら知ってるよな。アイツは元銀河警察の特務機関ドアーズなんだぜ。しかもトップ隊だ。まともにやりあったら顔を見るまもなく首とオサラバだよ。ギルドの履歴見たかお前ら?あいつを追ったチーム48チームが全て消息不明だ。全てだよ、全て。それを見習いハンターのドーラさんがいきなり狩りしようってんだぜ。レイキャストがヒューキャ狙おうっていうだけでも無理あんのにNランクだぞ。それなのにベテランの俺や、TOW、しまいにはスマイソンさんまで招集されるったーどういうことだよ。そしてこの武器、ギルドですらそうそうお目にかかれないぞ。それにだよ、これほどの狩りなのに俺達は1度もチームを組んだことがない。それで、やろうってのか?何の説明もなく。疑うなつー方がおかしいだろ。」
「まあね。アカイの言いたいことはわかる。不安が無いと言えば嘘になるけど、あたしはチャンスだと思ってるよ。誰も仕留められなかった赤き凶器を仕留めるんだ。一気にランクアップは確実。そうなれば報酬もうなぎ登り。地位も名誉もいい男もあたしのもの。丁度地味な仕事に飽き飽きしてたんだ。あたしはやるよ」
「トウ、捕獲だ。ターゲットは、ほ、か、く」
「何言ってんのよ。仕留める前提がなきゃ捕獲なんか無理にきまってるっしょ」
「そうだけよ、何にしても命あっての金だし、男だろーが」
「じゃ、アカイは抜けるのね」
「受けるって言ったろーが」
「作戦の確認を・・・」
「よし、決まったな。確認をするぞ。」
私はドーラ、元銀河警察特務機関ドアーズの隊員であり最も危険な強襲狙撃隊でジョニー隊の一員。ジョニー隊は、隊長のジョニー・ビー・ジョウ、そして私、ヒューキャストのジークの3人をコアとする30人のチーム。私はドアーズ製の特殊合金に包まれたヘビータイプレイキャスト。体躯は2メートル強、白いボディは私の銀河警察としての誇り。あらゆる重火器を使いこなしあらゆるミッションをクリアしてきた。しかし、2ヶ月前まだ記憶に新しいジークの暴走により全てが変わった。ジークの大量殺戮、残した謎の言葉、そして強制的廃棄処分。その後のジョニー隊長の失踪。私は名誉除隊し、隊長を探したが、処分された筈のジークと遭遇。しかも、ジークのターゲットはジョニー隊長。何もかもが点だ。要素でしかなく線として繋がらなかった。だが私はサムライ一族の末裔と名乗るカンナとの出会いによってある確信を得る。それは、銀河警察もかねてより追っていた謎の団体、EOFとの接点だ。トップシークレット中のトップシークレットZ−ファイルにわずかに掲載されている。団体と言ったが、その構成員は不明。便宜的に団体と言っているに過ぎない。1人なのか1000人なのか何一つわからない。ただ、時折このラグオル星系の星々に現れては殺戮を繰り返す。いや、殺戮と言うにはあまりにも奇妙と言える。被害者に全く外傷はない。にも関わらず死んでいる。脳がそっくりなくなっているケースも多数あった。狙われるのはヒューマー。もしくはヒューマーの脳を持ったドロイド。脳だけが初めから無かったかのように奇麗に、そっくりなくなっている。争った痕跡はおろかフォトン反応も硝煙反応も全くない。ただ、言えるのは亡くなった者達の生態フォントが異常だったということぐらいだ。目撃者は一切なかった。ラグナ隊の絶滅にもしEOFが絡んでいるとしたら映像としては初めてといえる。
そこで点と点が繋がり初めて一本の線が出来た。そうジョニー隊長は以前から上層部の指示を無視して任務とは別にEOFを追っていた。当時、EOFと仮称で呼ぶ団体を真剣に追うものなど誰一人としていなかった。数年間のことだ。
「EOFは何か引っかかる。このまま放っておいていけない気がする。」
「しかし、あれはトップで動いている筈では?」
「ドーラ、あんな娯楽放送のネタにしかならないような事件に警察のトップが時間をさくと思うか。調査中という名の放置だよ。よくあることだ」
「そんな、あれだけの被害規模で放置なんて」
「そんなもんだよ。病原体説はあまりにももっともらしい」
当時、その死因は突発性の病原体と発表されていた。
「ドーラ、確かに規模は規模だが、わりと辺境エリアが多いだろう。特に要人がやられたわけでもないしな。つまりだ、今現在は誰にとっても大して痛くも痒くもない、対岸の炎ってことだ」
「じゃ、どうして隊長は拘るんですか」
「わからん。ただな、引っかかるんだよ、俺の琴線にやたら引っかかる」
「でも、これ以上続けると最悪除隊命令が下りますよ」
「今回で26回禁固処分です。本来ならとっくに不名誉除隊ですよ。」
「まー俺は生きる英雄だからそうそう処分はしないさ。ところで、これで26回目か。26と言えば俺が26の時はなー最高の女が3人もいてなー。あの頃は酒池肉林だったぞー。考えてみろ最高の女が3人だぞ」
「隊長、またその話ですか。これで38回目ですよ。」
「いいから聞けって。っと、その前に俺の26回目の禁固処分を祝して乾杯だ。」
「隊長、祝うようなことでは・・・。」
「26回目を祝してかんぱーい!飲むぞー。」
隊長は飲んだ時にしかEOFの話はしなかったが、断片的には聞かされていた。当初は警察関係者なら誰もが閲覧出来たEOFに関する情報も、少しするとは内部の者でも一部の者でしか閲覧出来ないようになった。そしてドーラが除隊する頃には、Z−ファイルに指定され極秘扱いとなった。その理由について公に説明されることはなかった。また、気にするものもほとんどいなかった。何せ銀河警察には解決しなければならない問題が天文学的にあったのだ。開拓から今でもラグオル星系は決して治安の行き届いた処ではなかった。
ジョニー隊長とEOF、まさかこんなところで奇妙な接点を見出すとは思ってもみなかった。ただ、ドーラは既に腹をくくっている。ジークを捕獲、もし更正可能なら電子頭脳を再構成させ共に隊長を追う、そして隊長と合流しEOFの謎を追う。もはや私も部外者ではなくなった。EOFに狙われているという点では隊長と同じなのだ。3人が揃えば我らは無敵だ。真相を突き止めてやる。その結果として、カンナの言う死が自分とジークにあったとしても構わないと思っていた。その為にはまずはジークだ。これが全ての始まりだ。
「OK、OK。ドーラさんあんた軍師だねー。」
「ふふ、こいつぁいけそうだ。んー武者震い。」
「わかった。」
「トイレ行ってくんねー。」
「俺もトイレっと。」
「来るな変態!ドロイドだろお前は。」
「冗談だよ。誰がお前のを見て喜ぶかってんだ。なあ、ドーラさんよ。」
「ふふ、女性を愚弄するのは頂けないな。」
「おーおートウが女性だとよ。フェミニストなのね〜ドーラ隊長さんは。」
「作戦開始は、宇宙時間2200時、準備出来次第乗車。」
口数の多い赤いレイキャストはワールドハンターランクBのレインジャー。ギルドでは、チーム契約をせず自由契約で様々なチームと共に作戦に従事している。トラップのスペシャリスト。任務成功率よりむしろ自主帰還率がに注目したい。これは重要だ。肌が透き通るように白くて髪が短髪、やたら背の低いハニュエールはトウ。複数のチームに所属し、見かけによらず相当なやり手らしい。アカイとも何度か同じチームで任務にあたったことがあるようだ。トラップ外しにかけては特筆すべき点がある。そして全身黒づくめのレイマーがスマイソン。アカイと同じくチームに属さない。ギルドでは有名人らしい。顔は明らかになっておらず、一説にはドロイドだとも言われる。過去の履歴では任務で失敗しという記録はない。自主帰還率が異常に高い。ドアーズでもこれほどの数値は見たことがない。しかし、気になる点が一つ。彼は滅多にチームを組まないが、チームを組むと決まって数名のロスト者を出している。スマイソンがつくミッションは困難なものが多いので当たり前と言えば当たり前だが、気になる。以上。暗号化強度最強、ワームトラップ設置メモリー送信。宛先、雅龍教官。
「よし、時間だ。いくぞ!」

 

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