DOORA

---SIDE STORY---

#10.「蜘蛛の糸2〜レインジャーの力〜

 

 

最愛の者を失うことは、死より恐ろしい。
最愛の者を手にかけることは、世界の終わりより恐ろしい。



「逃げて!」
閉塞された工場内を地鳴りと共に破壊音が満たす。
「またか、ポイント5ロスト!ブラック援護頼む」
「わかった」
「レッド、バーニヤを使え。追いつかれるぞ」
「バーサーク急接近、奴の射程に入っちゃうよー」
「クソーッ」
「レッド、バーニヤだ急げ」
迫る赤いボディ。
そして、逃げる赤いボディ。
「次、いくよ!」
二つの赤いボディの間合いが一気に詰まる。
閃光、そして同時に唸るセイバー。
トラップが起動と同時に両断された。
直後、小さな爆風。
バーサークの振り向きざまの一刀は正確にトラップを捉えていたのだ。
ミッションモニター上のバーサークには「正常」の印。トラップはロストを告げている。
「なんでわかるの!」
「あいつ後ろにも目でもついてるのか!」
その様子を静かに見守る冷たい視線。
その目線は壁を背にしウォルスを構えるレイマー。男は人々から尊敬と畏怖の念を込めてダークレイマーと呼ばれていた。
スマイソンである。
動き出そうとしたバーサークへ向け、間髪いれずウォルスを打ち込む。
フォトンは激しい閃光を伴い襲いかかった。
着弾寸前、赤いセイバーが猛る炎のように唸る。
全く異なった部位へ食らいつこうとしたフォトンは同時にセイバーに焼き消される。
モニター上で見たセイバーは、速すぎて映像処理出来ない。
それほどのスピードでありながら、バーサークの腰は安定し全く揺るぎ無い。
目を細めフォトンが射出された方を見て呟く。
「ほう・・・」
それは、先ほどから何度も繰り返された光景だった。
工場1Fフロアー前衛は、コードネームレッドことレイキャスト・アカイ。後衛のブラックことダークレイマー・スマイソンはその援護を。2階レール上の自分、キングことレイキャスト・ドーラはフォローと攻撃を。屋根上にいるホワイトことハニュエール・トウは、トラップの起動と、ターゲットのセンサーを制圧をしている。
ターゲットは赤いヒューキャスト・ジーク。コードネーム・バーサークただ一人。
このドロイドは、過去に48チームのハンターを消し去っていた。
それが事実として、実感として、今の4人に重くのしかかる。
ファーストコンタクト以来1度もワイヤーコネクションに成功していなかった。
全く気の抜けない攻防が既に9分が過ぎ、リミットまで残すところ6分とモニターは告げている。
「センサーを封じられているとは言え、面と向かえば弾かれるか・・・」
ドーラは決断を迫られていた。
レッドとホワイトは、プライドをこっぱ微塵に砕かれ、本来の動きが出来ずにいた。
ブラックだけが、静寂に身を置いている。
3人は明らかにドーラの予想値を遥かに上回る動きをしていた。
にも関わらず押されていた。
「なんでなのよー」
屋根上でホワイトは目を見開く。モニターを凝視する瞳が一際大きい。
額には汗。
汗をかくには外はやや肌寒い。
手は小刻みに震えている。
「ホワイトーおま手抜いてんじゃねーのかー!」
疾走するアカイのボディは表面のあちこちが焼けただれている。それは直撃は免れているものの、近くを高出力のフォトンが掠めたことを意味していた。
「なわけないでしょー!」
その表情には動揺以上のものが含まれているように見える。
「じゃーなんでこうも俺のトラップが避けられるんだ!」
「知らないわよ!セッティング甘いんじゃないの!」
「バカ言え、お前の起動タイミングが・・・」
「来るぞ」
アカイは咄嗟にのけぞる。
コンマ1秒で大きく鋭い閃光が頭の近くを掠めた。
「クソーーっ、また掠りやがった!なんて出力だ。ブラックもっとしっかり援護しろ!」
「第2段」
「おぉぉぉーー!」
ゴーッッッ、ゴーッッッ、ゴーッッッ。
仰向けに倒れる込んだ直後、眼前を純度の高い緑のフォトンが通過する。
すぐに倒れた身体を右手で支えた。
そして、そのままの姿勢でバーニヤを噴射。一気に立ち上がった。
あの音はさながら嵐の岸壁に耳を当て、叩き付ける波の音を聞いているのに近い音だった。
腹に響き、命どころか魂すら揺さぶりそうな音。
この戦闘で何度となく聞かされた。
フォトンが過ぎる音は徐々に潜在的恐怖とし染みてくる。例えそれがドロイドであっても。
「クソーーッ!」
ウォルスを発射する。
「今度こそ!」
トウの絶妙なタイミングでバーサーク真横のトラップが2つ同時に弾けた。
フォトンの初弾をセイバーで弾けば、トラップ効果でパラライズをくらい硬直し、2弾、3弾が命中する。トラップを両断するばフォトンが全弾命中する。
筈だった。
バーサークはその場で風車状に回転し、トラップを足で蹴り離す。
回転しながら、同時にセイバーでフォトンを叩き落とした。
「うそよ・・・」
フォトンが花火のように円状に散り、射程外でトラップが炸裂する。
「クソ、クソ、クソ、クソーッ!」
「嘘でしょ・・・センサーカットしているのに、なんでわかるのよ!」
何事も無かったようにバーサークがその場にたっている。
風車蹴りの前から1ミリもずれがない。
天井から照射される強烈な電光を受け赤いボディーが輝いている。
アカイのボディは黒くくすんでいた。
「ホワイト・・・パターンが完全に見切られてんだよ。タイミングをズラせって」
レッドのダメージは確実に蓄積されている。
「やってるわよさっきから!ズラしても・・・避けられるのよ!」
震えている自分に気付き、白い腕に爪を食い込ませる。
「・・・センサーは本当にカットしてるんだろうな」
「くどい!カットしてるって言ってるでしょー!」
餅のように白くきめ細やか肌に不似合いな赤い筋が流れる。
「落ち着くんだ!カットされていなければこの程度で済む筈が無い」
ミッションモニターを見ればカットされているはアカイにもわかっていた。
「じゃーなんでなんだよ!なぜこうも避けれられる」
追いつめらていた。

ファーストコンタクトの失敗からドーラの頭の片隅にある言葉がちらついている。
「破壊」
そうバーサークの破壊である。ギルドから与えられたミッションポイントは3つ。
完全な状態で確保。Sランク報酬100%。
メモリ及び電子頭脳確保、他不問。Aランク報酬70%
メモリ確保、他不問。Bランク30%
ロスト。Cランク10%。
ロストとは、メモリの大破をさす。メモリが破壊されてしまえば他がどんなに完全であってもロストとみなされる。
今回のミッションは、そのCランクでさえも並のミッション以上の報酬が約束される。そう、全員が重傷もしくは大破でもそれなりの報酬を得られる額といえばわかりやすい。だからいかにSランクによる捕獲が莫大かは容易に想像がつくさろう。それもこれも48チーム192名の未帰還という事実が物語っている。そうでなければこれほどの危険なミッションを受けるものはいない。事実、未帰還者の増大と共に報奨金は上がっていった。
だが、ドーラの目的は金ではない。
ジョニー隊長の救出へ向かうためにジークを捕獲したいのだ。
無論それだけでもない。
ドーラにとってジークは血縁同然その存在だった。単なるパートナーではないのだ。
更に、ジークを正気を戻す方法をドーラは既に得ていた。
その為には捕獲する必要がある。可能な限り完全な状態で。
「無傷の捕獲は不可能か・・・」
ジークに同じ作戦が通用しないのは、共に戦ったミッション経験から理解している。
完璧にこちらの作戦は読まれている。しかもタイムリミットまであまり時間がない。
もしリミットを過ぎ、センサーが回復されればどうなるか。その惨劇は容易に想像がつく。
電子頭脳が震えていた。
「破壊するつもりじゃなくちゃ捕獲も出来ないにきまってんじゃん!」
作戦前のトウの言葉が浮かぶ。
重なるようにかつてのジークの言葉と姿が頭を過ぎった。
そこには彼の懐かしい声と姿があった。
「あーにき」
「え、もう帰るのか。残念だな」
「またな、アニキ!」
「兄貴とコンビなら無敵だな」
「マシンガンブラザーズここにありだ!」
「このジークが討ち取ったりー!」
「さすが兄貴だ、助かった」
「あにきー行こうぜー」
「あはははは」
「あにき〜」
「ジーク、私は・・・」
「あ〜にき、何してんだ」
「ジーク・・・」
「まかせろ兄貴!」
「ジーク・・・」
「おう!」
「ジー・・・ク」
「・・・ドーラ・・・、ジョ、ジョニー・・・隊長、感謝する」
「・・・」
有機神経が引き千切られるような感覚と言えばいいのだろうか。
「駄目よ、レッド離れて!」
ハッとしたドーラの目に映ったのは、ジークへ突進しようとするアカイ姿だった。
「俺が隙を作る、ブラック・ワイヤーを頼む!」
「わかった」
その時、両手をハの字に開いたジークは、獲物をまつ獣のように軽快なステップを踏み出した。
「アイツ・・・笑ってやがる」
「レッド、止めろ命令だ!」
バーニヤを最大出力で噴射したのが見えた。
「まずい!」
レール上にいたドーラはジャンプで踏み越す。そして空中に飛び出すと、その巨体をムーンサルトに捻った。
フロアーでは大きなフォトンの花火が1つ散る。
それを目視し、捻りながらウォルスのトリガーを1度引く。
捻りが1回転し頭が下を向き、バーニヤを噴射したと思うと一気にフロアーへ隕石のように突っ込んだ。大質量が落下したとわかる大音響と地響き、フロアーは砕け散り粉塵にまみれる
その時アカイは後方へ吹っ飛ばされている自分に気付いた。
「やられた」
一瞬そう思った。
それはモニターを見ていたトウも思った。キーをタイプしていた手が止まる。
「アカイ!アカイ!」
しかし、フォトンダメージは計測されていない。
「どうしたんだ俺は・・・」
頭を振りゆっくりと立ち上がる。
彼方の粉塵の中には白い巨体がすっくと立っている。
「アカイ、じゃないレッド大丈夫!応答して!」
「ああ、大丈夫だ。大したダメージは受けていてない・・・」
「良かった・・・何があったの」
「どうやらキングに・・・」
「え?なんて言ったの」
今の瞬間を正確に捉えていたのはバーサークとスマイソンだけだった。
ウォルスを乱射したアカイへ向けジークは赤のハンドガンを1発打ち込む。
高出力フォトンの干渉を受けたウォルスのフォトンは一瞬で全て散り、外れたバーサークのフォトンは壁を貫通。
直後ジークはセイバーで痛烈な突きを放っている。
ドーラはウォルスでセイバーを持つバーサークの手首に打ち込み、着地直前蹴りでアカイを後方へ弾き飛ばした。でなければ、アカイは串刺しにされていただろう。
ウォルスは背中にセットされ、右手には既にカットラリが握られている。
「デカイの・・・やるな」
赤ハンを腰に納め、両手で赤のセイバーを握りしめる。
「まあな」
カットラリを前へ突き出す。
バーサークはいきなり突きを放った。
普通ではとても1足では届くはずのない距離。だが、その距離は奴の世界だった。
放たれた迷いの無い赤い突きは、自分の間合いに入った獲物にくらいつこうとする。
だがドーラはそれを予見したかのようだ。
ダメージトラップを撒布と同時に炸裂。
バックパックで一気に後退した。
空を斬ったセイバーは食らいつく獲物を失った。
が、奴は突き出した腕の勢いのまま右足で床を蹴り叩き身体は中を舞う。
そしてトラップ圏外に逃れながらも更に獲物に食らいつこうとした。
その空間へドーラは間髪いれずカスタムレイを打ち込む。
放ったフォトンは無防備な獣へ襲いかかる。
しかし、舞い上がった反動でセイバーを振り抜き襲い掛かるフォトンを弾き飛ばした。
1発を除いて。その1発は肘を掠った。
そして、同時に着地。
2秒にも満たない攻防。
白い大きな背中はアカイの眼前にあった。
「キング・・・あんた何もんなんだ・・・」
アカイのモニターを通して見ていたトウは絶句する。
「カラーズへ作戦変更。ミッションレベル2へ移行、ターゲットは破壊」
「!」
「おい・・・」
「わかった」
「破壊って・・・メモリはどうするの」
「意識するな。結果回収出来ればベストだ」
「・・・しゃーねー。命あってのものだねだ」
「そうね」
当初よりアカイとトウはキングを当てにしていなかった。
作戦を聞き軍師としての才覚はあると考えていたが、所詮はNランクハンター。言わば見習扱いだ。当てには出来ない。そう考えていた。今の瞬間までは。
「奴の射程レンジには絶対に近づくな。奴の射程は奴の世界と思え。いいな」
ドーラは覚悟を決めた。
「レベル2ダウンロード、フォーメーション・レインジャーストリーム、パターンシグナルを見落とすな。いくぞ」
「ああ」「おっしゃこい!」「いいよー!」
「セット、GO!」
ドーラの合図と共に、壁面に寄り添うように移動していたスマイソンは一気に前へ出る。
アカイはドーラに対してやや後方へ移動しジークを中心にしながら滑るように移動を始めた
ドーラはジークと対峙しながらもアカイと逆方向に滑る。
三人は異なる速度、異なる大きさの円を描きながらジークを中心に回りはじめた。
これがレインジャーストリームと呼ばれるフォーメーション。
高度な空間認識能力と高い射撃精度、そして射撃反動でも乱れない射撃力を必要とした。
まさにレインジャーチームのみで可能なフォーメーションと言えた。
レインジャーはハンターに比べ劣るという誤認識が世間にはある。が、ハンターは誰にでもなることが出来るがレインジャーやフォースは生まれ持った先天的な才能が必要とされる。そう、ハンターには実質免許がない。しかしレインジャーには免許がいる。ヒューマーがレイマーとしての資格を得るには、高度な空間認識能力と高い射撃精度が絶対条件であり、それは先天的能力なくしては取得不可能と言える過酷なものである。同様にドロイドがレイキャストやレイキャシールに認定されるには、特異点的な空間処理専用装置と、それを処理する高速高密度な電子頭脳が必須である。それらがあって初めてレインジャーとして認められるのだ。
レインジャー以外が同じフォーメーションを組んだ場合、同士討ちになってしまうだろう。
本来なら敵を挟んで向かい合うなどは、自殺行為以外の何ものでもないのだ。
これがレインジャーを揃えた狙いでありジークを確実に狩る最後の手段とドーラは考えていた。並のヒューキャスト4体であればむしろ返り討ちにあう。
ドアーズのトップ隊ヒューキャストとはそれほどの存在なのだ。
最も中心に近いドーラはフットバーニヤで高速の円を一定の速度で描く。
その外側に逆回転かつ変則的な速度でアカイ、最も遠い外円にスマイソンが円を描くように走っている。
「クッ、ストリームか」
初めてジークが動揺に近いものを見せた。
「ファイヤー!」
ドーラがウォルスを放つ。
すかさずセイバーで落とされるが、背後のアカイが放ったウォルスが同時に襲い掛かる。
それも振り返りざまに弾き落とした。しかし、そこへスマイソンが放ったフォトンが。
チュイン、チュイン。
「なに」
表面を弾く音。
スマイソンの放ったフォトンが掠った。
「ヌゥッ」
赤のハンドガンを手にとり、トリガーに指をかける。
そこへフォトンが四方八方から同時にバーサークを猛追する。
バシ、バシ、バシ。
「ボディダメージ」
「クッ」
更にフォトンが流星となり降り注いだ。
「オォォーッ!」
軸の折れたあれ狂う風車のように高速で不規則なバク転をしながら追いすがるフォトンをセイバーで弾き落とす。だが、全弾を落としきれず容赦のない攻撃がボディを襲う。しかもドーラ達は息のあったコンビネーションでバーサークは包囲網から逃げられない。
それは獲物が完全に巣穴にかかったことを意味した。
バシ、バシ。バシバシバシ。
「ボディーダメージ・ハンドガンロスト」
ハンドガンを撃ち落とされた。
「クッ」
バーサークはすぐに手を伸ばす。
だが、スマイソンの放った一撃がハンドガンを弾き飛ばし手は空をきった。
そのハンドガンをアカイが素早く拾い上げる。
「頂きーっ!」
「ハンドガンは転送ゲートへ投げろ。ホワイト、ハンドガンを回収」
「おっけー」
「おい、おい、どうしてだよ」
「奴のハンドガンは恐らく生体ロックされている。奴以外がグリップを握れば・・・想像つくだろ」
「つくつく、わーった。転送ゲート青に投げるぜ」
「おまかせー」
放り投げられた赤のハンドガンは青い光と共に消えた。
完全に巣に捉えられたバーサークは、それでも全包囲から雨のごとく注がれるフォトンの半数近くをセイバーで弾き、1割りを体捌きでかわしていた。それは驚異的なことだった。
「なんて奴だ、持ち堪えてやがるぜ」
その声は恐怖ではなく、むしろ感動を称えていた。
「残タイム3分よー皆急いで。奴のセンサーが回復しちゃう」
「嘘だろ、この攻撃の中でも奴は逆解析をやめてねーのか」
「一気にけりをつけるぞ。パターンパープル」
「わかった」「オッケー!」「おねがーい」
合図と同時に異なる円を描いていた3人は急速に互いの距離を縮めた。
しかも射撃の手を休めない。それどころかむしろ激しさをました。
それはまるで花火大会の会場で不慮の事故があり、花火が地上で全て炸裂したかのような様相を呈している。その圧倒的な光量と爆音は、美しさを越して恐怖を見るものに与えたに違いない。しかもその花火はバーサークによって弾かれたフォトンの残骸なのだ。
だが、この中でさえ3人は互いの位置を正確に把握して互いのフォトン弾を食らわずにいる。まさにレインジャーの真骨頂と言えた。
遂に耐え兼ねたバーサークが一瞬グラッとした。
「今だ、パターンレッド」
瞬間3人が惑星直列よろしく一列に並ぶ。
バーサークの正面にドーラ、その真後ろにアカイ、そしてスマイソン。
「ウリィィィィィィィッ!」
咆哮と共にすかさずジークは突進した。
正面のドーラがウォルスを放つ。と同時にトラップを放り、バックパックで急速に後退した。するとドーラの右サイドからアカイが低い態勢で飛び出しトラップを投げつける。左サイドからはスマイソンがテクニックを詠唱している。
バーサークはドーラの放ったウォルスをセイバーで弾き飛した。
そこへ一筋のゾンデ。
一瞬バランスを崩したへバーサークへドーラの放ったトラップが迫る。
しかし、崩れるにまかせ回転踵落としでトラップを蹴り放った。

「ウリィィィッ・・・」
静寂。
そして、断末魔を残し氷付けになった。
「イエス!」
アカイは振り替えってその姿を見る。
そこへドーラがウォルスを放つ。
氷が砕けると同時にバーサークの右足首がふっとんだ。
撃ち込んだのはスマイソン。寸分の狂いもなく足首に3ポイントショットが命中。
バーサークは初めてバッタリと倒れ込む。

「やったねー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ね一人踊り狂うトウ。
同じく喜びをあらわにするアカイ。
ブレットを込め直す無反応なスマイソン。
ドーラの顔に喜びはなかった。
そこへ、再び轟音が響く。
驚いたトウはモニターにかぶりついた。
「ちょっと、どうしたの!」
モニターを凝視する。
映像に映っていたのは倒れたバーサークへ向けウォルスを撃ち込んでいるスマイソンの姿だった。
「おい、ブラックなにしてんだ!」
横からアカイが割ってはいる。
撃つのを止めアカイを見るスマイソン。
「見ての通り動力源を撃っている。さすがに固いな」
また向きなおりウォルスに手をかける。
「ちょっとまてよ。固いなじゃねーだろ。ここまでやればもう平気だ。へたに壊れて報酬が減ったらどうするんだ。せっかくこの程度ですんだんだ」
「いや、ブラックの言う通りだ・・・動力源を破壊しよう」
歩み寄るドーラしかし、距離をおいてる。
「何言ってるんだよ。大丈夫だって」
「あたしもアカイに賛成だな」
キーをタイプしモニターを見ながら続けた。
「奴の逆解析も2分前で止まってる。そして、エネルギー反応は微弱。恐らくダメージが一定以上に達したから自己再生モードに入っているのよ」
「としたら、すぐには動き出せないちゅーことだ」
アカイが言葉を足す。
「甘いな・・・」
「何が甘いんだよ。ほら何ともねーだろ」
そう言うとアカイは悠然とバーサークへ歩み寄る。
「まてレッド!バーサークとの距離が近いぞ、離れろ」
「大丈夫だって・・・」

一瞬何が起きたかトウにはわからなかった。
それはアカイも同じだ。
歩み寄り、バーサークの傍らまで寄ったと思った次の瞬間には天井が見えていた。
「あれ俺はなんで上を向いているんだ」
そんな言葉が最初に浮かんだ。
そして、遥か遠くで怒号とも聞こえる音声が自分を呼んでいる気がする。
耳を凝らしてみる。
「アカイ、アカイ、返事をして!アカイ、アカイお願い返事をして!アカイ・・・」
その声はトウの声のようだった。そして、更にドーラの声も微かに聞こえた。
「煩いな、なんなんだ・・・」
起き上がろうとした。
起き上がれない。
「あれどうしたんだ・・・」
ミッションモニターを見た。ミッションは止まっている。
「あれ・・・」
目の前が赤く明滅している。
「デインジャー、デインジャー」
電子頭脳が危険を警告している。
「ボディダメージ、ライトフットダメージ甚大、修復不可能、エネルギー切断します」
ハッとする。おびただしい被害報告が電子頭脳を錯綜して、生き延びるすべを探している。それは事態の深刻さを計るに充分なものだった・
「お目覚めかね」
バーサークの顔が覗き込んでいる。
背筋を戦慄が走った。
すかさず腰のカスタムレイに手をかける。
ボディがこの葉のように舞った。
天地が2度3度と入れ替わり、床にしたたか叩き付けられているのがわかる。
「あー・・・俺は宙を待っている」そんな他人ごとのような言葉が浮かぶ。
そして、静かになった。
床が見えた。
誰かが蹴りを入れたのか身体がグルっと回転し、また電光降り注ぐ天井が見えた。
「お目覚めかね」
バーサークは覗き込み同じことを聞いてきた。
反射的に手はカスタムレイのホルダーへと動く。
動く。
動かない。
手が。
手が動かない。
「探し物はこれかな?」
手にはアカイのちぎれた腕が握られている。
顔を横に向け右手を見た。
無かった。
「動かねーわけだ・・・」
また木の葉のように空を舞った。
暗くなった。

「アカイーーーーーッ!お前ら何ボサッとしてんのよ!なんで撃たないのよ!」
「落ち着けトウ!今撃てば奴はアカイの脳を破壊するだろう」
「!」
「レイキャストのボディは固い。そう簡単には壊れない」
ドーラとスマイソンはバーサークに狙いを定めたまま動けないでいる。
アカイの残った足を掴んでいるバーサークは、まるで人形を与えられたヒステリックな子供のように床へアカイを何度も叩きつけた。隙がありそうで隙がない。むしろ相手もこっちの撃つのを待っているかのようだ。
さっきは一瞬の出来事だった。
歩み寄ったアカイに、倒れたバーサークの右手が伸びた。あっという間にアカイは宙をまった。そして次の瞬間には右足関節部をセイバーで切り落とし、立ち上がる。更に落下するアカイの左足をキャッチしたかと思うとしたたか床に叩きつけたのだ。その後は周知の通りだ。
「よくも俺の足首をやってくれたな」
アカイの左足を放し、その手にセイバーをもつ。その先端はアカイの首に突き立てられた。
「この報いは受けてもらう・・・」
しかし、バーサークはもう一報の手でアカイから奪ったカスタムレイを天井に向ける。
その意図はすぐにわかった。
「ホワイト、離脱しろ!」
直後、カスタムレイの無数の光弾が天井を貫く。
ドーラはトリガーに指をかけたが、バーサークはセイバーをアカイの首筋に潜り込ませる。
動けない。
カスタムレイの打ち上げ花火は全弾天井の一点へと消えた。
ドーラ達のミッションモニターの通信が途絶える。
そして、天井から無数の破片がバーサークへ降り注いだ。
その中に人陰が。
「キャーーーーッ」
カスタムレイを投げ捨てる。その直後、その手にはトウの頭が収まっていた。
トウは幸か不幸か2階のレール部分にあたらず落ちてきたようだ。
だが、右足の裏から太股にかけフォトンが掠ったのか血が流れている。恐らく咄嗟にデバンドを発動し弾いたのだろう。でなければこの程度で済むわけがない。
身体が操り人形のようにブランとぶらさがり、顔に苦悶の表情が浮かぶ。
バーサークはセイバーを納め、アカイを蹴り飛ばした。
そしてキャッチしたトウの頭を前へ突き出す。その姿は獲物を捕らえた土俗民が自らの戦利品を誇示する動作に見えた。
「はじめから天井にいたとはな・・・。どうりで見ないわけだ」
「うぁぁぁっ・・・」
苦悶の表情が一層に増す。
「ジークやめろ!」
蹴り飛ばされたアカイはまだぎりぎり奴の射程内だ。
しかも奴のセンサーは十中八九回復している。
「お前の狙いはその子ではない筈だ!」
「ああ。だが邪魔は排除する。それだけだ」
「はぁぁぁっく、はぁぁっく、はぁぁぁっっっ」
頭蓋がミシミシと音を立てている。
混乱する頭でトウは頭蓋がきしむ音が聞こえた。あまりの苦痛に呼吸が出来ない。
落下時の衝撃で両腕の関節は抜け力が入らない。
悔しさのあまり左目から血の涙が一筋流れた。
「撃ちます」
沈黙していたスマイソンが初めて自発的な言葉を発した。
「いや、まだ駄目だ」
「大丈夫」
「駄目だ。奴はこっちが発射すると同時にトウを盾にする気だ」
「だからいい・・・」
「どういう意味だ・・・」
「レッドならウォルスでは貫通しなが、ホワイトなら貫通しダメージを与えられる」
「ブラック・・・何を言っている・・・」
「片足首がないとはいえセンサーの復帰したバーサークを沈黙させるのは2人ではリスクが大きい。奴がホワイトを盾にする気がある内に即効で仕留めるのが得策と思われる。大丈夫、キングとなら可能だ」
「トウを、見殺しにするというのか・・・」
「見殺し?それは違う。盾としてミッションに組み込まれている」
その声には何の動揺も、何の怖れも、何の感情も感じられない。
ドーラはここに来て初めて理由を知った。
なぜスマイソンとチームを組んだものにロスト者が出るのか。
なぜ帰還者は何も語らないのか。
なぜ・・・ダークレイマーなのか。
視界が真っ赤に染まった。 

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