DOORA

---SIDE STORY---

#5.「侍魂2-策謀-」

X

 

 ドーラはイライラしていた。
というのも、調査に入って3日間、二人からなんの連絡もないのだ。
カンナには打ち合わせで口が酸っぱくなるほど言っておいた。装置をセットし映像と音声及びデータを自動送信にすること。そうすればこっちで相手の動きを把握し最適のタイミングでジャミングをかけられる。そう、ドーラは初めから二人を宛にしてはいない。宛に出来る筈がない。一瞬の判断ミスが命を失う作戦なのに不確定要素が多すぎる。カンナにしても何一つ疑問には答えていなかった。ドーラが具体手的な情報を聞いても、そんな資格しらないだとか関係ないだとか、俺は銀河一だ、宇宙一だとホラ話しかしない。ココロンは正直に答えてくれたニューマンであること、仕事上で覚えたテクニックで多少なりかは援護出来る事等など。話から察するにそのココロンのテクニックは実践むきではなさそうだった。となると、やはり自分で決めるしかない。直接近づけない以上は情報の収集だけでも二人の意味は大きかった。だが、その肝心な情報が全く来ない。生存は確認されているドーラがモニター出来る。なのに情報が。
「カンナ・・・いったい何者なんだ。サムライ一族のオサと言っていたが本当なのか。」
サムライ一族。その存在はもはや伝説と言っていい。その原種はヒューマーの遠い遠い気の遠くなる程に遠い昔、ある地域にいたとされる人々だと伝えられる。NIHONTOUと呼ばれる金属製の刀を振り回し、独自の精神性で他の種族と異にしていたらしい。一般的にはこの程度しかわからない。もはや遠い遠い昔の話なのだ。さらに情報を追うと事実ともつかない逸話が出てくる。多すぎてどれが真実なのか完全に把握している者はいないだろう。元々サムライ族に関する話はほとんどが噂話から来ているようだ。この世のものとは思えない楽園。一度迷い込んだら二度と戻ってこれない死の世界。そこに彼らはいるらしい。いずれにしてもその目で見たというものはいても場所は定かではなく証拠も誰一人として持っていなかった。ただし、その存在がにわかに否定出来なくなった事件があった。NIHONTOUの存在だ。それはまさに青天のへきれきと言えた。ワーム航法に失敗した連絡船の外壁にNIHONTOUが刺さっていたのだ。そして一代サムライブームが巻き起こる。レプリカが大流行となり実剣の刃先にフォトンを組み込んだもの等登場した。しかし、多くのハンターはブームが去るとともに元のフォトン製セイバーに持ち替えた。実剣はいささか重過ぎる上に、邪魔になった。そして現在その存在はファッションとしてもたれる程度となった。今のこの世界で、実剣で切れるものなど食材ぐらいなものだった。
「この程度か。」
ドーラはビークルで待つ間、ZEEKが起こしたと思われるあらゆる事件と、それに関連性のある情報を検索していた。そして同時に、カンナとサムライ一族に関する情報を調べていた。「ほとんどがゴミだな。なんの証拠もなく裏付けもない。下手な小説を読むより退屈なものばかりだ。教官も彼を本当にサムライ一族と信じているわけではないと言っていた。ただ、言えるのは恐ろしく強く・・・はー。女好きか・・・。わからない。」
現段階に入手出来る20万件に及ぶ素材から電子頭脳に計測した結果、カンナがサムライ一族である可能性は不明と出た。理由は情報が不確定過ぎる上に少なすぎるというのだ。
「カンナに関する情報は近年のものしかないな。どこの国籍もとっていない。ハンターでもない。ハンターどころか職すらない。どうやって生きて来た。」
そこにはある可能性が明示されていた。それはヒモ。
「ヒモか・・・信じられんが最も説明がつく。」
ココロンについてはすぐわかった。彼女がニューマンであること、そしてニューマンとしては長生きをしており今年で20才になること。その収入や家族構成等、銀河警察のデータベースからすんなり出て来た。勿論、民間人は見れない。教官が極秘裏に回線を開いてくれているお陰であった。ドーラはデータを読むにしたがって複雑な心境になった。それは彼女の職業をリードした時だ。
「接待業か。そしてこの店は・・・成る程。」
女性ニューマンが最もその道を選ばざる負えない職業。夜の接待業。カンナとは恐らくそこで知り合ったのだろう。しかも、店舗の情報を読むと恐らくは違法で営業されていることだとわかる。データの裏にある事実を読み取るのはジョニー隊長に仕込まれた。人間の闇を教えられた。人間を尊敬したかった。裏データを検索するとその予感は的中した。
「あなたの願望かなえます・・・何でも言う事を聞く女性は入りませんか・・・。」
そこにはまさにココロンの映像とコメントが掲載されていた。
「チューリーでーす。身長はアンダー140センチ!つくしちゃいまーす!」
チューリーと名乗るココロンは、同じ笑顔で写っている。その声は底抜けに明るい。ドーラは不意に通信を切断する。
「バックトラフィックを完了、痕跡を全て消去しました。通信終了。」
「見たくないものを見てしまったな。カンナ・・・そうと知りながらあの態度か・・・。とことん胸くそ悪い男だ。隊長・・・私はまだ人間を理解していなのでしょうか。・・・やはり私は人間を尊敬出来そうにもありません。」
ピピピ、ピピピ。
ビークルの後部座席にセットしていた通信端末が反応している。
「動いたか!」
「通信回線オンライン。映像が出ます。」
無機質な女性型の音声が響く。
「おー熊さーん元気してるかー。」
カンナだ。酔っているのかやけに陽気なようだ。その陽気さが逆に感に触る。
「動いたのか。」
「なんだかなー。」
「熊さーん元気ー。一人だと寂しいでしょ。直に終わるからね。」
「いや、平気です。」
「んだよー随分態度違うなーおい。ドロイドの癖に色気づいたかー。人の女に手を出すよなよー。」
「なんだと!」
ズガン。
思わず立ちが上がりビークルの天井に頭をぶつけてしまう。衝撃でビークルがゆさゆさと揺り篭のように揺れている。天井が上へ凹んだようだ。
「キャー熊さんへーきー。頭痛くなーいー。」
「だ、大丈夫です。申し訳ない。」
「オイオイ、ビークル壊れんぞー。お前修理代払えるんだろうなー。俺は1メセタ足りともださねーからな。」
「わかった。」
「おーおー、ご機嫌斜めですこと。」
「ところでどうした。今のコールは作戦準備段階のコールだったが。」
「あー、これからやっちまおうかと思ってね。」
ズカン。
予想外の返事にまたしても飛び上がってしまう。ビークルは一層大きく揺れ動き、天井は不自然に変形している。後一度で貫通しそうなくらいだ。
「うそー熊さーん大丈夫なのー。頭見せてー。」
「わはははは。バカじゃないのお前。学習しろよ。わははは。」
「今なんて言った。」
「あん。バカじゃないのお前、か、それとも学習しろよか。」
「違うその前だ。」
「だからー、奴を捕獲しようと思ったって言ったんだよ。」
「なにー。」
「熊さん、あたま見せてよー。」
「カンナ、言っただろう。捕獲は私の役目だ。カンナは自分の任務を果たせ。」
「がなるなよ。予定が変わったんだ。俺が捕獲するしかない。」
「予定だと。計画は既に立てて伝えただろう。それに計画を決めるのは私でお前じゃない。」

「熊さーん、あーたーまー。」
「しょうがねーだろー変わっちまったもんわ。もードロイドだけに固いねー。」
「キャハハ。それこの前も言ったー。やだーオジさんみたーい。」
「わははは。そうだったな。」
「でもオジさんになったカンナも見てみたーい。」
「それは無理だよ。」
「どうしてー。」
「俺は一生カッコイイままでオジさんにならないからさ。」
「キャーーーカンナカッコイイーっ。」
ズバン。
カンナのスピーカーから壮絶な音がした。思わず見詰め合う二人。ビークルではドーラが助手席を後ろへへし折ってまっていた。
「いい加減にして下さい。」
声を押し殺して言った。
「熊さーん。」
「わかりました。ハイ頭です。」
そう言うと通信機器に向かって頭を向けた。
「ハイ、なでなでなで。痛いの痛いのとんでけー。ほーら飛んでった。」
「ありがとうございます。」
「そういうわけだ。」
「何がそういうわけですか。詳しく説明して下さい。」
「じゃー行ってくるぜ。」
「ちょっと待って下さい。」
「熊さん後でねー。」
最後に映ったのはココロンがドアップで手を振る姿だった。
「通信終了。」
「何がどーなってるんだ。」
ドーラは危険を承知ですぐに通信再開の手続きにかかる。
「通信不能。通信相手がおりません。妨害波によるものか、通信機器の破損により通信出来ないものと考えられます。」
「バカな。一体何がどうなってるんだ。」
バックパックを吹かすと、ドーラはビークルの屋根を身体で突き破って上空へ舞い上がった。隣接していた5階だてのビルを壁面にそって一気に上昇すると、音もなく屋上に降り立つ。右手には対アンドロイド用ライフル、DOORSで言う通称Aライフルを持っている。そして、脚部に装備されているフットバーニアで滑るように屋上を駆ける。屋上の縁にまで一瞬でいくとドーラは音もなく伏せ、構えた。
「スコープモードオン。」
ドーラの電子頭脳が刻一刻と変化する周囲の状況をトレースしている。まだ、変化はない。
ZEEKのホテルと部屋が決まった時点でこのビルの屋上は狙撃ポイントとして決めていた。ここからなら500メートル先にあのホテルが見える。しかもこの角度からカンナの言ってたZEEKの部屋は正面になる。ホテルの出入り口も見えるので狙撃するには最適なポイントだ。
「動くか・・・。」
変化はない。
この地域も太陽光が強く砂埃が酷い。そのせいか、ここ3日間は日中にもかかわらずほとんどの人を見かけなかった。主に夜に活動するらしい、昼夜が逆転したような街のようだ。昼はひっそりと静まり返っている。紫外線が刺すようだ。
「索敵終了。」
電子頭脳が索敵結果をつげた。半径1キロ以内の生態反応は200。うちヒューマンタイプは80。ドロイドは4。ドロイドの中にやはりZEEKは掛からなかい。フォトン反応はなく高エネルギー反応もない。ドロイド4体は解析の結果メイド型キャシールと確定されている。
「やはりそうか。」
ここ3日間で改めてZEEKが起こしたと思われる事件、また少しでも関連のありそうな事件に関してデータベースをサーチ分析していた。今までは行き当たりばったりに見えたZEEKの襲撃は実に巧妙であることがわかった。前回もそうだ、あの動きは予め逃走経路を決めていたと考えられた。事前に逃走経路も確保し、かつ仮に襲撃に失敗しても銀河警察が表だって介入出来ないようなエリアで戦闘を起こしている。恐らく結果的に巻き込まれた多くの者達も、結果的なものであってあくまでターゲットであるジョニー隊長が狙いであったと考えられた。とすると今回も万が一があってもカンナやココロンを直接狙うようなことは無いとドーラは確信した。
「あくまで狙いは隊長でありこの私だ。いや、私にしろ奴からすれば過程に過ぎない。過程に入れば排除するが居なければ寧ろ襲うことはない筈だ。このエリアには遠いが管轄する警察がいる。」
ドーラのスコープアイは以前としてホテルの無機質な壁を映している。センサーはジャミングの為にZEEKの姿を捉えられずロックオンも出来ない。永遠のような一瞬が続いた。
「動いた。」
突然ZEEKがいるであろう部屋の壁は破壊音とともに壁ごと吹っ飛んだ。
その飛んでいく瓦礫の裏に見える赤い陰は・・・。
「ZEEK。」
目視で照準を定めたが瓦礫と砂塵でロックオン出来ない。
「アンチジャミング。」
ここだと思った。ここで逃したら後はない。
「なに、ロックオンできない!」
微かに目視出来るにもかからわずオートロックが作動しない。アンチジャミングが正常に機能し予想通り初めてセンサー上でZEEKを捉えている筈だった。しかし。
「しまった!チャフか!」
砂塵にまじるキラキラ光る金属片、それはセンサーを狭い範囲で狂わすチャフだった。旧世代の補助兵器だが狭い範囲では今でも効果的なのだ。
「クソッ、壁面破壊と同時にチャフをまいたな。私の存在に気付いていたのか。」
アンチジャミングを使うことでこちらの位置が敵の索敵センサーにかかる。もはや一刻の猶予もない。今回は教官の支援は受けられないのだ。右手にもつAライフル、腰にぶらさげたカットラリとカスタムレイのみで凌がなければならない。
ドーラは目視でロックオンしようとするがチャフと砂塵で全く捉えられない。そして、センサーはZEEKが弾丸のように真っ直ぐこっちへ向かってくるのを捉えた。
「マズイ。来るぞ。」
踵を返すとバックパックをふかし、一気にビークルのある地上まで飛んだ。
着地と同時にビークルの扉に手をかける。
「・・・」
動けなかった。
ビークルの正面50メートル先には、砂塵の舞うなか一つの美しいボディが立っている。灼熱のように赤い赤き凶器と言われたヒューキャスト。
「また会ったなデカイの。」
「・・・最悪だ。」
「次はないぞ。」
「ZEEK・・・。」
ドーラは覚悟を決めた。
その時、ふいにZEEKは後ろ振り返った。
「逃げ足早いのねーZEEKちゃん。」
「カ・・・カンナ。」
押し殺した声でドーラは唸った。そこには何時ものようにニヤニヤと笑顔を張り付かせたカンナが立っていた。腰には剣を1本さしている。その立ち姿はまるで無防備だ。
「リューカーか・・・。」
腰を捻り猫のような体さばきでZEEKはカンナに向き直った。
すかさずAライフルを構え、ロックオンする。しかし、距離が近すぎる。
「よせ、そいつは関係無い。」
「いいや、邪魔をするなら話は別だ。さっきは不覚をとった。」
威厳を込めた口調でZEEKはそう言った。さっき、さっきとはどういうことだ。
「カンナやめろ手を引け。命を無駄にするな。お前はあの子を守ってやれ。任務は終了だ。報酬は約束する。」
「わははは。ドーラ、お前がやられっちまったらどうやって保証するんだよ。」
「煩い。とにかく保証する任務は終了だ。帰れ。」
「今帰れば命は助けてやる。二度と俺の前に現れるな。」
ZEEKは動かない。
「それがそうもいかないんだよねー。俺は帰ってもいいけど、あんたドーラをやるだろ?すると俺の楽しみにしていた報酬がパーになり、ココロンにも嫌われる。」
このカンナの陽気さがかえって異様に見えた。
「だから大丈夫だ。保証する。俺が保証する。」
ドーラの電磁頭脳という心が砕けそうだった。今はあらゆる生存の可能性を模索しているが答えは一向に出ない。最良の方法でも生存率は1/6500万だった。
「駄目駄目。ドーラがやられたらココロンも悲しむ。約束させられたんだ熊さんを守ってってな。ウンって言った以上は仕方がない。武士に二言はないんだよ。」
「お願いだ。お願いだから引いてくれ・・・。あの子を悲しませたくない。」
「おいおい俺はどーなってもいいのかよ。まーったく面白い奴だなドーラ。気に入ったぜ。」

「茶番は終わったか?」
赤のセイバーに手をかけた。
それまでニヤついていたカンナの顔が変わった。棒立ちになった。蛇に睨まれた蛙といったらいいだろうか。手をだらんと下げ、目は眠りから覚めたばかりのように半分だけ開けている。半眼という状態だ。目線はやや下を向きまるで相手を見ていない。
「自分が斬られている間に俺に奴を仕留めさせようというつもりか・・・。しかし、ZEEKのスピードならそんなのなんの時間稼ぎにもならん。犬死にだ。」
砂塵がまっていた。
幸い通りを歩く者はいない。
目線のずっと先には外壁の崩れたホテルが見えた。
太陽光が容赦なく照り付け、ドーラはふいに今の紫外線量はどの程度なんだろうと、まるで関係ないことを思った。
外でのハンター訓練の時、雅龍教官がよく日焼けを気にしていた。教官は笑顔だった。隊長も教官の時はやけに嬉しそうだった。
ZEEKもそして私も。
命をかけた訓練もあった。大切な仲間を失ったこともあった。大きな作戦もあった。部隊が壊滅的打撃をうけ、強行班は全滅、もはや隊長とZEEKと私しか残っていない。それでも、隊長の機転とZEEKの強さとドーラのコンビネーションで部隊を救ったことも何度もあった。そこには何か大切なものがあった、ドロイドのドーラにとって勲章の数や巨万の富や栄誉ある言葉なんかどうでも良かった。ただ、あそこには自分を必要としてくれる者達、尊敬する者達がいた。今は一人だった。
カンナは最後の最後まで全く言う事を聞かない奴だったがどこか憎めなかった。ココロンの無邪気な笑顔が浮かんだ。電子頭脳は最悪に備えてメモリーの自動バックアップモードに入っている。
「最後でも悪くないか。」
そう思った時。
ZEEKとカンナのほぼ真ん中あたりにリューカー反応が出た。リューカーの光の中にいるのは・・・。
「ココロン殿!」
「ありり?ちょっとずれちゃったね。」
ZEEKが弾丸となって走った。
向かう先はココロン。
「ファイヤー!」
Aライフルを撃った。
前を向いたままセイバーで弾かれる。ドーラはライフルを捨てカットラリを握る。
「間に合えー。」
その時、赤い固まりが1階のショーウィンドウに頭から突っ込んだ。
そして静かになった。
「なに!」
ココロンのいたところにカンナだ立っていた。左手でそっとココロンを抱き寄せさっきと同じように半眼のままで棒だちだ。ただ、右手に実剣が握られている。あれがNIHONTOUなのか。
「えへへ。ずれちゃった。」
ココロンは無邪気な笑顔でカンナを見上げる。
「いいや、ズレてない。これでいいんだよ。」
そう言って微笑んだ。
「ドーラ、ココロンはまかせた。」
カンナが背中を軽く押すと、ニコリと笑ってココロンはドーラに向かって走り出す。
「熊さーん、元気だったー。」
「ウリィィィィィィィィッ!」
ZEEKが咆哮した。
「バーニア全開!」
すかさずバックパックをふかしココロンを抱きかかえる。右手にはカットラリ。低く構える。

「確保!」
カンナとの距離は5メートル。
ショーウィンドウの瓦礫のなかからZEEKがユラユラと立ち上がった。
「ウリィィィィィィィィッ!」
また咆哮した。その咆哮が不気味に響く。
「ウリィィィィィィィィッ!」
まただ。ゆっくりと歩きだす。
「わーい熊さんだー。」
「私にしっかりつかまってて下さい。」
「うん。」
そう言うと両手両足で器用にしがみついた。そこをドーラがそっと左手を沿える。ココロンは笑顔で見上げたがドーラの突き出した胸部が邪魔で顔が見えないようだった。
「お顔みえなーい。肩がいい。」
「ラジャー。」
そういうと左手で担ぎ上げ肩車する。
「わーい、高いたかーい。カンナが小さく見えるー。」
「ウリィィィィィィィィッ!」
天を仰ぎ、地響きを伴って咆哮した。
「ドーラ、ザコはまかせたぞ。」
ZEEKが消えた。
半眼のカンナはまるでダンスを踊るかのようにユラユラと揺れる。空気を斬る音と砂塵が舞い上がる。ZEEKの姿は早すぎて映像では補足できない、ドーラは無視界モードで追った。センサーに映ったZEEKは恐るべきスピードでカンナを襲っているのがわかる。そのカンナは風に吹かれた紙吹雪のようにヒラヒラと舞った。
「ふふ、カンナ踊ってる。」
上段から空気すら切れそうなスピードで赤のセイバーを振り下ろすZEEK。それを避けるカンナ。すかさず右足で足払いをかけるがそれも避ける。
大地に手をつき低い態勢から駒のように回転。そして伸びのある蹴りを放つ。
更に地から天は駆け抜ける竜のようにスルドイ蹴りでサマーソルトを放ち、態勢を立て直すか立て直さないかで、すぐさま横一線にセイバーを振る。
全てかわしていた。
ZEEKが姿を見せる。
カンナとの距離2メートル。ドーラとの距離10メートル。
カンナは半眼のままやはり棒立ち。全く息は乱れていない。乱れていないどころか呼吸すらしていないかのように静かだ。目線は自分の足元のやや前方。右手にはNIHONTOU、両手はだらんとたれている。
「ウリィィィィィィィィィィィィィィッ!」
一際大きな咆哮が響く。空気が大地がビリビリと揺れた。
赤のセイバーをゆっくり構えた、そして・・・。
倒れた。

仰向けに。

ボディには傷一つないのに。
ZEEKは右手にセイバーを持ったまま大の字になって大地ひれふした。
何が起ったのか全くわからなかい。
「カンナったらカッコイイーもー。」
足をぶらぶらさせドーラの頭の上で拍手喝采なのはココロンだ。
「ドーラぼさっとするな。これからが本番だ。くるぞ!」
「センサーにフォトン反応多数。高エネルギー反応多数。完全に包囲されました。」
電子頭脳が危機を知らせる。
ふってわいたかのように周囲は何時の間にか完全に囲まれていた。
「住人だ・・・なぜ。まさか全員が敵!罠にかけられたのは初めから私達だったのか!」
「索敵数84。ヒューマータイプ30、ニューマンタイプ40、アーティフィカル4。ロックオンされています。」
「キャッツ。」
ドーラは素早くかがみ、肩車していたココロンを胸に抱え直した。
「ここなら安全です。」
「むふふふー熊さん胸おっきー。うにうにうに。」
住人はまるで夢遊病のようにユラユラとおぼつかない歩みで包囲網をジリジリと狭め始めた。手にはセイバー。大人もいれば子供もいた。それらは何かおかしかった。ロックオンしているのは恐らくキャシール4体。まだ撃ってこない。何かを待っているようだ。
「チッチッチッ」
人間の耳では捉えられない高い周波数の音声が規則的に流れた。
「暴れるぞードーラ!」
唐突にそして一斉に住人達が襲いかかってくる。
その光景は悪夢の続きようだった。

 To be continued...

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