DOORA

---SIDE STORY---

#4.「侍魂-1-.」

W

 

「遅い・・・。」
互いを認知する為の暗号キーを発信するが相変わらず反応がない。
ここは、待ち合わせに指定されたスペースポート。一日に1万人以上の人々が行き交う。そう聞くと少なく感じるが、ポートそのものの大きさを考えるといささか窮屈といえた。宇宙旅行というのはこの時代でさえ一部の者しか出来ない特権的なものであることを考えると多いと言える。
昔と違い、初めての待ち合わせに名前を書いたプレートを掲げたり、事前に顔写真を記憶する必要はない。互いに決めた固有の信号の組み合わせを送り会うだけど、誰が待ち合わせの相手かわかるようになっている。誰かを待っているその人物、いや人造物は2メートルを越す巨体であった。その大きな人造物はドーラといった。真っ白なボディーから几帳面な正確が伺える。元銀河警察の特殊部隊DOORS=ドアーズに所属していたAクラスレイキャスト。重火器のスペシャリストだ。今は、アイデンティティを確立し主人の元を離れ生活している。今は表向きは宇宙船外壁の修理施工のスペシャリストとなっている。
「遅い、もう5分も過ぎてる。」
暗号に全く反応がない。周囲を見回すがビジネススーツを着たビジネスマンに、新婚旅行らしくカップルとお年寄り夫婦。皆裕福な者達ばかりだ。そしてワールドパスを持ったハンターが数名。以外は違法入国者が数名ドーラを避けるように足早に過ぎていった。違法者を見逃すのはドーラにとって心苦しいことであったが今はそれどころではない。大事の前の小事に過ぎない。そして、あとは年差のある兄妹なのかロビーで楽しそうに話し込んでいる。
「これだけ見ると平和そのものだな。しかし遅い。」
特務部隊に所属していた性格上なのか時間には煩い。人造物=ドロイドなら当然と思うかもしれないがそれは違う。これはドーラに芽生えた固有の進化、性格なのだ。高性能なドロイドは極めて人間に近い。マスターがいる間はマスターのプログラムが優先されるが、アイデンティティを確立されればそういった拘束はとかれるのが高機能ドロイドの特徴だ。
「今日最後の便か。遅過ぎる!10分あれば小隊は全滅しているぞ。いくら教官の紹介とはいえ許せん。ことと次第によってはただでは済まさんぞ。」
しらばらくして最終便にのっていた乗客がロビーにどっと流れて来た。ドーラは暗号キーの返答を待った。ドーラはZEEKとの一戦により自分は恐らくマークの対象になっていることを認識した。場合によってはこのロビーが戦場となる。ドーラにとってはそれは避けたいことだった。自分の為にも教官の為にも、ここのロビーにいる人々の為にも。
どっとロビーに人が押し寄せて来た。ドーラは慎重に暗号キーを送信する。信号の距離は5m。乗客はこの降車ロビーの入り口を必ず通る筈。そうすれば必ず信号をキャッチする筈だ。しかし・・・。
「反応がない。おかしい・・・何かあったと考えるべきか。通信が傍受された可能性もある。これは教官に連絡をとった方がいいな。」
もはやロビーにはハンターらしき格好をした青年と年端もいかない少女ぐらいしかいない。青年はハンターにしては随分と若く幼く見えた。まあハンタースーツのレプリカは人気があるのでいても不思議ではないだろう。恐らくハンター訓練生か、単なるファッションのつもりだろう。気になったドーラは二人に声をかけた。
「君たち、空港はもじ時期閉鎖されるよ。早く帰った方がいい。」
そう告げると、少女だけがドーラを振り返りあどけない笑顔を見せた。
「ありがとう!大きなロボさん。」
「どういたしまして。」
可愛い子だ。内心ドーラは少女に微笑んだ。
少女はよほどその青年を慕っているのかベッタリと身体を寄せている。しかし親しいというにはどこか違和感を感じる。とはいえ今はそれどころではない。空港を出て教官に連絡を取らねば。無線の極秘回線が傍受されているとしたらもはや有線での直結意外に方法はない。ドーラはゆっくりと歩きだした。
「ねーカンナ〜。閉鎖されるってさ。そろそろホテルに行こうよ〜。」
「そーだなココロン。ふっ・・・寝かさないぞ。」
「やだもー空港の職員さんに聞こえちゃうよ。」
「構うもんか。」
「嬉しい。カンナだーいすき。」
ドーラは歩きながらその少女の甘ったるい声と会話に違和感を感じて仕方がなかった。データベースで検索するとそれらの音声パターンや仕種は恋人同士がするある種のパターンに著しく近かい。しかし、そういう関係にしては二人とも幼すぎた。青年はいい、しかし少女は幼すぎて見えた。前職の関係上、不純異性交友を黙って見過ごすわけにもつもりはない。場合によっては二人を補導するつもりで、歩きながら会話に聞き耳をたてる。
「ところでさーカンナー。用事は済んだの。」
「そういやそうだな。結局来なかったぞ。まあいいか。」
青年は少女の三つ網を右手で弄りながらそう言う。
「その装置さーずっと電源切ったままだったけど良かったの。」
少女が指し示す装置には確かに電源が入っていない。
青年はどっかりベンチに腰をかけていたが半身を起こし、装置を胸にとってみてみた。
「おーっと忘れたよ。ははは、まいったな。」
「あはははは。もーカンナったら可愛いい。キューって抱きしめちゃう。」
「ああいいぜ。苦しくなるくらい抱きしめてくれ。」
「もーキュー。」
少女は青年に抱き着き強く抱きしめた。
「今更だけどスイッチ入れるか。いたりしてな。」
「あはははは。」
スイッチを入れると装置が激しく反応している。それは明らかにすぐ側に相手がいることを示していた。すると急に二人の周囲が暗くなった。思わず後ろを振り返る二人。
「・・・」
二人の真後ろには白く大きなレイキャスト、そうドーラが眼を光らせ黙ってそびえたっていた。
「あははは。このロボさんみたいよ。」
「わはははは。本当にいやがったよ。最高だなーココロン。いやがったよー。」
「ほんとうー凄い偶然ねー。ロボさん最高。ココロンも最高。カンナなんか超最高。あははははは。」
そう言って二人は抱き合ったままベンチの上で笑い転げた。
「電子頭脳に異常温度検地をしました。冷却装置作動。」
その時、ドーラの腕はブルブルと震えていた。



「雅龍、今でも俺は愛してるぜ。」
「そう、ありがとう。」
「信じてないんだな・・・。どうすれば俺のこの熱き思いを受け止めてくれるんだ。」
ドーラは予約していたホテルに二人を連れて入った。当初ドーラは極秘回線でかつての教官である白いハニュエール雅龍と計画の最終確認を行うつもりだった。が、連れて来たカンナという青年の「雅龍の顔を絶対見たい。」という言葉に押し切られ止む終えず見せることになった。今はホテルのモニターにドーラの回線を接続し雅龍の顔が投影されている。雅龍は自室から通信しているようだ。上品な部屋の内装がモニター越しに見える。
「後ろの人、新しい子?」
「ああ、妹だ。」
「妹でーす。ココロンって言いまーす。」
「ふふ、相変わらず女性の好みわからないわね。」
「だから妹だよ。好み?それは雅龍、お前さ。」
「雅龍さん色っぽーい。ココロンも好きになりそう。」
「あーいいぞ好きになって。妹よ。」
「お兄さまー!」
ひしと抱き合うが、どこか卑猥なムードが漂っている。
「変わってないわね。」
モニター越しの雅龍と呼ばれる白いハニュエールは母親のように優しく微笑んでいる。
「お前は変わったな。あの頃より遥かに美しい・・・。」
「ありがとう。・・・ドーラ聞いてる?」
ドーラはモニターに向かうカンナとココロンの後ろで膝をつきうな垂れていた。
「不本意ながら・・・。」
「そう、なら良かった。カンナはこんな奴だけど頼りになるのよ。」
「ちょっと違うぞ雅龍。見た目通り頼りになるだろ。」
そう言うとウィンクしてみせる。
「そうね。ごめんなさい。」
ウィンクして返す。
「雅龍・・・やっぱりお前は最高だよ。銀河一のいい女だ。決心はついた、gfとは別れる。祝言をあげようぞ。」
「気が向いたらね。」
「うそーココロンはどーなるのー。」
「ココロンは2号だ。いやgfが2号だから3号さんだな。」
「やったー3号だー。よーしいつか1号目指すぞー。」
「そうだその意気だ。で、どうだ雅龍。その気はあるのかないのか。」
「ないわね。」
「雅龍・・・やっぱりお前は最高だよ。銀河一のいい女だ。決心はついた、嫁になれ。」
「来世でね。」
「えーじゃーココロンは来世でも2号さんなの。」
「違うぞココロン。gfがいるから3号だ。」
「あそっか。あははは。」
ガシャン。突然の大きな音に二人は同時に後ろを振り返る。
するとドーラが全身を震わせたっている。右手には割れたコップが握られていた。
「あー熊さん割っちゃったー。ココロンじゃないもん。」
「カンナじゃないもーん。わははははは。」
「いい加減に・・・いい加減に本題へ入りたいのですが・・・。もうよろしいかなカンナ殿。」
語気を荒げていい放った。
「そうね。」
あくまで雅龍は笑顔だ。
「わかったよ。」
「・・・カンナ殿、今回の成功報酬を確認したいのだが。」
「ああ、雅龍との結婚だったな。」
「え!」
思わずモニターを覗き込むドーラだが、雅龍はいたって冷静だ。
「カンナ、やりたくないならいいのよ。」
「嘘だよ冗談だって。3回のデートでタッチ込みだったな。」
再びモニターの雅龍とカンナを見るドーラ。ココロンはドーラが割ったコップを部屋の掃除用具で片づけている。
「嫌ならいいの。他をあたるわ。」
「冗談、冗談、1回のデートでタッチ・・・わかーったってデートだけ。そのかわり朝から夜までちゃんと付き合ってくれよ。」
「サンクスフレーンズ。」
「ちょっとまった。・・・サンクスダーリンって言ってくれ。」
「ふふ、わかったわ。・・・サンクスダーリン。」
「まかせろってハニー。ささ、誓いのキスを・・・。」
するとモニターに唇を寄せようとするカンナ。すかさすドーラは両手でカンナの頭を挟み込む。
「よせ、離せ、ドロイド。」
「モニター越しとはいえそれだけは許可出来ん。それに私はドーラという名前がある。名前で呼んでもらおう。」
怪力でジリジリとモニターから離されるカンナ。それでも唇をなんとかしてモニターに見える雅龍につけようと突き立てるがいかんせん届かない。
「わかったわかった。ドーラ止めてくれ。ヘアースタイルが乱れるじゃないか。」
パッと両手を離す。
「次はヘアースタイルどころではありませんから覚悟して下さい。」
「ったく、ドロイドはこれだから・・・。」
睨むドーラ。気にせず髪を手串で整える。そんな二人のやりとりを楽しそうに見つめる雅龍こと教官。満足した様に見える。
「良かった。いいチームになりそうね。」
がっくりこけるドーラ。
「どこがですか。教官の命でなければ宇宙港でとっくに始末してますよ。本当によろしいのですかこのようなもので、私は正直いって不安で一杯です。」
「電子頭脳はどう言ってるの。」
「それは・・・本物のサムライ一族であれば大いなる戦力になるのは間違いないような結果を・・・。」
「んで、彼は本物なの。」
「限られた情報の中では・・・。」
「なら、問題ないんじゃない。」
「しかし・・・。」
「うだうだ煩いドロイド・・・っと、奴だな。俺様がサムライ一族のオサでありカッコイイという事実は間違いないんだ。それでいいだろう。お前はせいぜい俺様の邪魔にならねーよーにコソコソ隅っこに隠れていればいいんだよ。俺が勝利した時に後ろでするポーズでも考えておけ。」
「元オサであろう。今のオサはあなたでは無い筈だ。」
「いーや。どこにいようと継承手続きをしてなければ俺がオサだ。ま・・・オサなんてどうでもいいんだがな。」
「命の保証はないんだぞ。嘘なんだろう。本当はハンター崩れなのだろう。命を無駄にするな。今のうちに嘘でしたと白状し、とっとと帰った方がいいぞ。それが身の為なんだ。この依頼は半端なハンター崩れごときの仕事ではないのだぞ。頼む、正直に言って断ってくれ。」
「くどい。俺はやる。雅龍とデートしたい。」
「えーい、そもそもサムライ一族自体が未確認に近い民族なのだ。伝説といってもいい。そんな教科書にのっているような民族が、のこのこやってくる筈がないじゃないか。今なら帰れるんだぞ。今しかないんだぞ。」
「煩いなーさっきから。デートするったらするの。もう言うな。とっとと終わらせてデートしたいんだから。」
「雅龍さんとのデート終わったら、次わたしねー。」
ホテルの部屋に組み込まれているシステムキッチンの方からココロンの声がそう響いて来た。割れたコップの片づけが終わり、いつのまにかキッチンで夕食の用意をしていらしい。美味しそうな香りが漂ってくる。音から察するに手際がよさそうだ。
「あー勿論だ。」
そう言うとカンナはキッチンの方へ向かった。ニヤニヤと嬉しそうだ。
「教官・・・不安です・・・。データが少なすぎます。敵に関してもあの二人に関しても。彼はまだしも、ココロンという少女はもともと当初の計画にすら入っていないんですよ。あの幼さで命を失うにはあまりにも・・・。」
ドーラは肩をおとしモニターの教官へ言った。
「カンナが連れて行くって言うんだから理由があるんでしょ。それに、ドーラ自身やろうと思いつつある根拠は。」
「・・・わかりません。ただ言える事は教官を信じている・・・それだけです。」
「ありがとう。それだけで動機としては充分なんじゃないの。あのココロンていう子も、自分がどうすべきかぐらいわかっているでしょう。いい目をしてるもの。」
「・・・わかりました。回線を切り替えますデータの方を。」
「わかったわ。無理しないでね。」
「イエッサー!」
作戦がダウンロードされた。



前回の戦いでドーラは幾つか解ったことがあった。
短い戦闘ではあったが、あの時ZEEKの頭脳に何度かハッキングをしかけようとした。一度目は当然侵入できなかった。が、ファーストアタックで電子頭脳のブロックの仕方がかつてのDOORS隊のそれがベースになっているのが確認出来た。チャンスは最後にやってきた。ZEEKの胸部をカットラリで切り裂き電子頭脳が混乱を来した時にわずかながら侵入することが出来た。そこでわかったのは、第一に、ZEEKのメモリは既に書き換えられていること。第二に、ジョニー隊長と隊長を保護する者を抹殺することが彼の最優先事項であること。第三に、ネットワーク的な保護を一切受けていないことだ。
かつての盟友は、既に死んでいた。メモリを消されるということはドロイドにとって死を意味する。今はZEEKという器を被った別人だ。何者かによってメモリを書き換えられ隊長を抹殺する為だけに駆動する殺人マシーンだ。
しかし、それはある部分で好都合だった。ZEEKを追えば隊長に出くわす。隊長を保護出来る。甘い夢を見るとしたらひょっとしてZEEKも・・・。ネットワーク的な保護がないことを考えると、見えない敵はZEEKそのものが破壊されても何等気にも留めないということが考えられた。それは、追う間にドーラや教官が何時の間にか追いつめられるという危険性が避けられることをも意味していた。隊長は何かの秘密を握った。そして、隊長を知るZEEKは利用された。敵は私ではなくより確実性を増すためにHUcastであるZEEKを選んだのだ。場合によっては自分自身がZEEKの立場になっていたかもしれない。胸が痛んだ。悔しくて震えた。隊長はその秘密を単独で追っているに違いない。隊長のことだ諦めるなんてことはありえない。隊長の口癖だった。「当たって砕けろ。砕け散れ。そうしてまた当たれ。」あの隊長のことだ、命の限り追いつめる筈だ。
敵の規模を知るためにはZEEKを捕獲する必要がある。仲間が必要だ、しかもとびっきり強力で頼りになる仲間が。DOORSにはいた。隊長が教官がZEEKがDOORSの皆が。つくづく今は一人である頼りない自分を知った。
「カンナか・・・果たして頼りになるのだろうか。同じ作戦は2度は通用しない。失敗は即ち大いなる危険への序章へとつながる。敵がなんらかの方法で我らの攻撃を知り得た場合、隊長と同じように我らへ刺客が送り込まれる可能性は充分にある。なんとしても成功させ隊長と共同戦線を・・・。」
「おいドロイド、なに考えてんだ。」
「カンナー違う違う。熊さんでしょ。」
「そうか。なー熊さん。」
「熊ではない。元特殊狙撃隊DOORSのドーラだ。言ったでしょう。」
「なんでもいいじゃんかよ。ドロイドでも熊でも。ましてや雪だるまでも。第一元は元だろ?今そのドラーズとかいうメンバーじゃなければんな商号なんかクソと同じだぞ。」
「雪だるま可愛い。」
「ドラーズじゃない、ドアーズです。」
「可愛くないなー。」
「可愛い。お家に連れた帰りたいな。」
「ココロン、こんなの家にいたら邪魔でしょうがないでしょ。熊さん人形買って上がるから。」
「えーでもコレがいいなー。」
「ココロンさん私はドーラです。ドーラと呼んで下さい。」
「はーい、ドーラの熊ちゃん。」
「まいったな。家具整理しないと。」
「なんでですか。」
「おい、そのZEEKとやら来たんじゃない。」
 店の中からまさにあのZEEKが出て来た。銀河警察が血眼になって捜査している筈なのにZEEKは他人事のように堂々とあの姿のままで歩いている。高い身長、スラッと伸びたボディーに印象的な赤いカラーリング。そしてストーンヘッドと呼ばれた個性的な頭部。ドーラが切り裂いた胸部は完全に修復されている。あれほどの傷を直す金がZEEKにあるのか。オフでどこかと繋がっていると考える方が正しかった。どうしても一人苛立たずにはおれない。あそこまで大罪をおかした者が堂々と町中を歩いているのに誰一人気付かない。なんという無神経なんという理不尽。そして警察のなんという不甲斐なさか。
「じゃー行ってくるぜ、ドーラさん。」
「ラジャー。」
「いってらっしゃーいカンナ。」
「いってらっしゃいのチューは。」
二人が顔を寄せた瞬間にドーラを手を差し入れた。
「後にして頂きたい!」
「おやおやお固いのね。ドロイドだけに。」
「キャッハハハハ。」
「・・・」
「わーったって。」
そう言うとレンタルビークルのドアをあけ、ZEEKの後をつけていった。その歩き方はまるで素人だった。まるっきり普通にスタスタと歩いている。あのスピードでは追い抜きやしないかとひやひやした。
「では、行きましょう。」
そう言ってココロンを振り替えるといきなりドーラの面に唇を押し付けて来た。
「ちょっと、何をするんですか。ココロン殿お止めなさい。」
「だーってーこの唇の行き先がないんですもん。熊さんの口はどこなの?」
「我らに口はありません。」
「えーつまんない。それじゃーこの辺りにー。」
すると前の座席によじ登り、ドーラの面先に唇を押し付けようする。
「止めてく下さい。いけません。いけませんー。」
「駄目ー許さないー。」
「止めて、止めてー。」

 

 

街の中心街をやや外れた処にZEEKの宿はあった。
「あれだ。奴以外にも何人か泊まっているようだ。」
「了解した。」
「何が了解しただよ。人には「後にして頂きたい!」とか言いながら自分だけココロンからチューもらいやがって。」
ドーラの頭部にはやたらキスマークが付いていた。そのココロンは後部座席で二人を見つめている。
「申し訳ない・・・。」
「熊さんにチューするとひんやりして気持ちいいんだよ。癖になりそう。」
「そのなりでも、俺には駄目だしするわけ?」
「申し訳ない・・・。」
「なんだよそれー。」
「うふふ。カンナは終わったらいーっぱいして上げる。」
作戦はこうだ。
カンナがZEEKと同じ宿に泊り装置を介してドーラに彼の素行を連絡する。そのパターンから敵とのコンタクトがなければ捕獲にうつる。前回同様、ドーラには目視以外でZEEKを捉えれることが出来ない。恐らく強力なジャミング装置を使っているのだろう。この状態では超長距離狙撃は難しい。ロックオン出来ないのだ。標的に着弾する前にフォトン光をキャッチして避けられる。ドアーズの精鋭であったZEEKからすればその程度のことは造作もないことだ。強力な破壊兵器も使えない。近距離でも歯が立たないとなると、相手のジャミングを中和してその一瞬にロックオン。Aライフルの特殊攻撃で一時的に電子頭脳を麻痺させる。失敗は即ち死を意味する。中和した時点でこっちの位置は相手にばれる。逃げるのが前提なら超長距離狙撃だが、逃がしてもいけないのだ。捕獲するか死かだ。
「よし、じゃーココロンいくぞ。」
「ちょっとまった。ココロン殿も連れて行くのか。」
「当たり前だろー。一人であんなむさい部屋にいれるかって。」
「そういう問題じゃない。危険だと言ってるのだ。言ったように今の奴は容赦ない。ひとたび事が起きれば誰であろうと、誰を巻き込もうと関係ないんだぞ。」
「一回言えばわかるって。」
「大丈夫よ熊さん。カンナが守ってくれるもん。」
「まかせとけ、銀河一、いやー宇宙一強くしかもカッコイイこの私カンナ様が守ってやるさ。」
「キャーーーカッコイイ。」
「わはははは。行ってくるぜ。」
「いってきまーす。熊さんまっててね。」
「あ・・・・・。」
そう行ってビークルを後にした。二人は買い物にでも行ってくる自然さで出かけて行く。手を繋いでいる様子を傍で見ると兄妹のようにしか見えない。
「教官・・・不安です。不安で仕方がないです。」

 

 To be continued...

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