DOORA

---SIDE STORY---

#2.「赤き凶器」

U

 

○ジョニー隊長を追うドーラの周囲にこんな噂が聞こえてきた。
「赤き凶器」
 この一帯で噂されている赤いHucastらしい。銀河警察が血眼になって捜している狂ったドロイドだという話だ。噂を総合すとこうだ、全身を赤にペイントしたHucastタイプのアンドロイドがヒューマン、ニューマン、ドロイド関係なく無差別に殺しているという。装備はあの有名なリコが自分の為に試作したとされる伝説の赤シリーズ。ある時はギルドロビーに突然現れたかと思うと、竜巻のように荒れ狂い赤のパルチザンを振り回す。ある時は酒場で、赤のマシンガンを乱射し忽然といなくなる。また、とある戦場では余りの破壊力から銀河条例で近年禁止された筈のスプレッドニードルを誰彼かまわず打ちまくる。そんな内容だった。そして、それらの様子から彼をこう呼んでいた。
「赤き凶器、赤き狂犬、銀河暴君、血の竜巻」
 呼び名は色々だったが、メディアでは「赤き凶器」と報道していた。この噂がまことしやかに囁かれる頃にドーラはこの星に辿りついた。ジョニー隊長の手がかりを追いながら、渡航の為の費用を稼ぎ渡り歩いた。ドアーズに所属していた時に相当の蓄えはあったが、彼はそれには一切手をつけないでいた。ドロイドの寿命はある意味無限だ。メセタは多くて損は無い。それに夢がある、ドロイドに夢もないだろうが、私と隊長には夢がった。それを実現するには一つや二つの星を買うほどのメセタが必要だった。恵まれていたことに、彼はドアーズを勇退する時にほとんどのソフトを生かされたまま退職することができた。本来なら、ソフトウェアは当然返却するのが義務だったが、彼の真の目的を知っていたジョニー隊長を慕う多くの仲間達や上司が手引きをし、彼はソフトウェアを保持したまま出ることが出来た。それは、莫大なメセタ以上に貴重な財産であった。その為、あらゆる職業を転々としながらも着実にジョニー隊長を追うことが出来た。
「赤き凶器か・・・何かひっかかる。」
 それは、ドーラのメモリに近い条件のHucastがいたからだ。
「ZEEK・・・まさかな。」
 ジークとは、ジョニー隊長の下、共に戦った仲間だった。さっぱりとしたその潔いまでの彼にドーラは何かを感じていた。隊長はそんな二人をマシンガンブラザーズと言ってちゃかしていたこともあった。そういう時は、普段は無口なジークも「あ〜にき」と冗談を言って笑ってみせた。懐かしいメモリ、思い出だった。
「しかし、ジークはもう処分されている筈。」
 そのメモリをリードする度に、解析不能な何かをギリリと感じた。ジークのあの陽気な言葉を思い出す。
「よお!」
 言葉少ないタイプだったが信頼出来るなにかがあった。
「ジーク・・・。」
 詳細はドーラにはわからなかった。それはあまりにも突然のこと。ある作戦の後、急にジークとの通信が途絶えた。その作戦にはドーラは参加していなかった。作戦終了直後、連絡を取ろうとしたが回線がつながらない。ドアーズ隊は非番の日も含めて常に回線は開いていなければいけない。それが規則だ。不審に思ったドーラは、ジョニー隊長に連絡を入れ支持を仰いだ。ジョニーは、代わりに俺が行くと言いドーラを制した。その後から徐々に何かが狂いだす。ジョニーの何でもなかったという連絡の後、直ぐに回線が通じたが、いくら送信しても何の反応も返ってこない。翌日から、ボディのレストアを理由に休暇をとるジーク。ジョニー隊長の様子もどこかおかしかった。
 数日して、あの忌まわしいニュースが流れる。都心部で麻薬を打った特殊狙撃チームの警官が暴れ民間人数十名を銃殺。数時間後逮捕され、即日廃棄処分が決定されたと。まさにその時だった、ジークの異常な信号と波長をキャッチしたのは。一部なにかの暗号データらしいが、ドロイド向けの特殊な神経麻薬に犯されているらしくノイズが多く全ては受信できなかった。ただ、最後にこれだけはハッキリと受信した。
「兄貴ー怖いよ。俺はどーなっちまったんだ。あにきー助けてくれー。怖い・・・。」
 それ以来プッツリと通信は途絶える。
 ニュースでは当日中に、処分されとだけ報道された。
 ジョニーにその件を尋ねるが、ジョニーはただ厳しい口調でこう言った。
「ジークは処分された。それが事実だ。この件にこれ以上首を突っ込むな。いいか、これは命令だ。」
 どんなに過酷な現場でも常に陽気さと寛容さを見せていた隊長だったが、この時ばかりは別人のようだった。
暫くして同様にあの事件が起き、隊長は失踪する。全てが闇へ。
 こうして酒場で一人飲んでいるとやはり思い出さずにはおれない。隊長やジークのことを。非番の時や、任務の後はドロイドも入れる限られたバーにドーラやジークを連れて行き、女性の落とし方や、ナンパの仕方、隊長の付き合った女性がどうだったといつも楽しく話してくれていた。
「いいか、お前ら。お前らドロイドだからとか言うが、ドロイドだろうがなんだろうが、女を落とせないようじゅー一人前のドアーズ隊員とは言えないな。ましてや、このジョニー様の部下とは言えないぞ!おら、そこの白いキャシールがいるらろ。ナンパしてこい。」
「隊長、もう飲むのを止めた方がいいと思います。推測では既に隊長の血中アルコール濃度が高い値を示している筈です。明日の任務に差し障りありますので。」
「なにをー!・・・ドーラ、俺は情けないぞ。そうして恥ずかしいと思う己の心がそういう誤魔化しを言わせているんだ。恥ずかしくはない!本能に従え。第一濃度くそもあるかー!命令だー、ナンパしてこい!!そして、今夜ものにしろ!!いいか〜ものにしたら必ず報告しろよー。しかも、報告書は最低100B以上にわたって明確に書け。いいな!!」
「隊長、ですから私達ドロイドは隊長と違って、そういった・・・」
「アニキ〜、俺は情けないぜ。隊長!アニキの代わりに俺が落とします!!」
 あの時、ジークもドロイド用の擬似酩酊性オイルを摂取し、いわゆる酔っ払った状態になっていた。
「よく言ったージーク!それでこそ俺の部下だ。いけー!!そして、キメロ。」
「おう!行きます!」

 すくっと立ち上がる。
「兄弟、止めろ。私達は市民の安全を守るドアーズ隊の隊員なんだぞ。だいいち・・・」
「いーや、隊長の命令だ。オトス、そしてキメル!!」
「よくいった〜いけいけー。いけー・・・いけー・・・。」
 そう言うと隊長は眠りについた。あの後、ドーラはジークを止めるので必至だった。既に懐かしい警察時代のメモリ、記憶だ。
「ジーク・・・まさかな。」

 ドーラの夜は長くなりそうだった。


continued

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