DOORA
---SIDE STORY---
#17.「火 種」
作:管理人 校正:雅龍
*
衝撃の一夜が明けた。
衝撃?ドロイドの私が衝撃を受ける?
厳密には違う。
そう、厳密に言えばデータベースに無い、しかも極めて可能性が低い事実が発覚したと言った方がいいだろう。
いわゆる人間的な衝撃とは違う。
電算上、こんなことが起こることは極めて低い、予測範囲外の出来事、それが起きたと言えばいいだろうか。
通常、こういう極めて可能性の低い情報は、データベースとしては役に立たないと言っていい。
ドロイドの私にとって処理速度を速める為、常に可能性の低い情報は整理排除しなければいけないからだ。
でなければ、私の記憶装置は1週間でパンクするだろう。
赤子の生態からスペースネズミの習慣までいちいち必要は無い。
そう、通常の私の行動には必要のない情報だ。
こういう不要な情報はメモリから外され、必要に応じてレストアされる。
普段は圧縮され、記憶の奥底に埋もれていると言っていい。
通常生活においては、常にメインの電算脳の判断が優先され、人間で言う大脳にあたる部分、私達で言う感情脳は、全く別に動いている。
こうしてドロイドの癖に独り言を夢想しているのも、感情脳の仕事で、現実に起きていることとは無関係だ。
現実を司る私の電算脳は、スリープモードに移行し、エネルギーの消耗を最小限に抑えている。
だから感情脳の働きも最小限となり、人間で言う、眠い状態、夢うつつの中こうして想像しているわけだ。
電算脳にとっては全く無意味な情報に等しい。
ただ、私はある方の助言によって感情脳をチューンしているから、余計にそうなのかもしれない。
バトルドロイドで感情脳をチューン、常識ではありえない処理だろう。
非合理的である。
それは私の電算脳が出した結論も同じであった。
ホームドロイドやメイドタイプじゃあるまいし。
ただ、あの方の言葉はその電算脳の回答を覆すに充分に思えた。
あの方・・・そう私の嘗ての上司であり、友人であり、恩人でもある・・・あの方。
ジョニー・B・ジョー、その人。
私は、数日前にジョニー隊長の謎の足跡を解析し、初めて隊長の痕跡らしきものに到達した。
人間で言う感動はない筈だが、私は何故か嬉しいと感じた。
感情脳の大きな衝撃に電算脳が一瞬躊躇し、身体の制御がズレ、小刻みに震えたほどだ。
モニターはいつもの、あの、第一声から始まった。
「よう〜ドーラ。これが再生されているってことは、来ちまったわけだな。他人の言葉より自分の動機を大切にしろって言ったのは俺だもんな〜、しゃーねーか。まーったく余計なことを言っちまったよ」
モニターのジョニー隊長は、ついさっきまで一緒に居たかのような自然さで写っていた。
勿論、外部に漏れるようなことのないよう、情報は有線でダイレクトにリードしている。
余談だが、このデータにはプロテクトがかかっており、これを外すだけで丸一日が過ぎていた。
「お前のことだ、色々知りたいだろうから可能な限りデータで残しておいた。ただし、悪く思うな。万が一のこともあるから肝心なことは残せない。俺が今回残した情報は、一部の連中ならとうに感づいていることばかりだ。知られたところでどーってことない。話を聞きながら情報をリードしてくれ。念の為にデータはワームCタイプを入れておいた、うっかり感染されるなよ、ははは」
ワームCタイプ、ジョニー隊で開発した特殊ウィルスの系統だろう。
ジョニー隊と検疫部しかこの抗体は持っていない。
私は除隊する時に秘匿していた。
データをリードし始めて、私はすぐに衝撃を受けた。
どういう順に整理すればいいのか戸惑うが、思うままに電子脳へも記録しておこう。
まずは、ジークと隊長の件。
やはり、ジークは利用されていた。
隊長は言明を避けているが、銀河警察内部に不穏分子がおり、隊長は監査部より極秘裏に調査を依頼されたいたようだ。
しかし、それに感ずいた不穏分子が、ジークの電子頭脳に細工をしたと思われる。
使用されたのは電脳麻薬サック。
銀河警察のプロテクトすら突破する、SS級ウィルスだ。
そして、ジークの責任を全てジョニー隊長へ。
監査部としては極秘調査だった故、動くことが出来なかったわけだ。
隊長を除隊させるには、充分な理由も揃っていたと言える。
何せ、今迄処分されなかったのが不思議なくらいだったから。
不穏分子は未だに所在がつかめない。
ただ、間違いなく言えることは、その不穏分子はZファイルの連中にも通じていたということ。
隊長は、今でも銀河警察の監査部の支援の下、Zファイルを追っているようだ。
「ドーラ、人生って奴は全くもって都合がいい。内部に居たのではZファイルの調査には限界がある。銀河警察って奴は、なんでもありそうで、何もないと言っていい。所詮、自由を奪われた情報なんかアルコールの抜けたウォッカみたいなもんだ」
内部の情報に限界を感じていたジョニー隊長は、これ幸いにと外部へ出たわけだ。
予想外の出来事は多々あったようだが・・・
「ただなー、本当なら円満に出る予定だったんだが、お尋ね者になっちまったよ。あっはっはっは。まー英雄扱いさせるより、お尋ね者の方が悪さし放題だから好都合だがな。この前もな、『聞いているより遙かにいい人なんですね〜』だってよー、あーっはっはっは」
だが、そんな隊長もジークの話になると明るさを失った。
「正直、ジークへ矛先が向いたのは予想外だった。いい加減痺れを切らす頃だとは思っていたんだが・・・。ジークはどうしている?監査の話だと、ハンターズによって大破させられたと聞いたが。ハンターズにお前もいたそうだな。お前がいてみすみすジークを放ってはおくまい。今度、ジークの、奴の様子を教えてくれ」
更に、意外な名前が隊長の口から出た。
「スマイと組んだんだな。奴と組んで真っ当に命があるのは、俺とお前ぐらいだろう。ということは、スマイに見込まれたってことだ。いずれ勝負を挑まれるから覚悟をしておけ。奴の目線の先には、戦いに勝つことしかない。極めてシンプルだ。だが、シンプルな奴は強い。諦めないからな。お前も体感しただろうが、スマイは底が知れない。恐らく、銀河警察、アイザックホン軍、バルザス傭兵隊をベースとして、あらゆる戦闘技能を修得している。正直言って、俺が死ぬときは奴に狩られる時だろうとさえ言える。俺を仕留めるのは奴の生きがいのようだしな。そもそも傭兵より分の悪いハンターズに奴が登録しているのも、有能ハンターズの技能を己が血肉にしたいが為だ。人間って奴は体感するのが一番だからな。ドーラ、一つ忠告しておく。少し落ち着いたらハンターズに再登録しろ。ハンターズに在籍していればスマイも下手にうって出ることもないだろう。それと、もう一つ、奴は優秀だがこれ以上関わるな。金さえ払えば奴ほど有能な者はいないが、奴と関わるということは、悪魔と契約するに等しい。最終的には、己の全てを奴に奪われることになるだろう」
話は更に、Zファイルの概要におよんだ。
「Zファイル・・・在り得ない話があるもんだよ。データの通りだ。簡単に言うと、ヤツは絶滅したと言われるダークフォースの生き残りとその子供達だ。お前も知っての通り、フォースは連中の遺伝子を下に誕生した。母なる大地の奇矯により、自然界の悪戯で偶発的に生まれた超人間。百年以上前に絶滅したとなっているが、生きていたわけだ。組織的なことは銀河警察では全くつかめてない。そもそも組織なのかも解らないが、あまりに意図的かつ段階的にことが起きていることから疑いようがないだろう。ヤツラの目的は簡単だ。ダークファルスの復活。お前も聞いたことあるだろう。DFに関しては、あまりに古いから大元の資料は一切無い。ただ、ラグオルに俺たちの先代が降り立った時、既にそこには遺跡があったらしい。先に上陸調査していた移民船パイオニア1は全滅、奴は後から来たパイオニア2のハンターズが破壊したとされているが、どうやって破壊したのか、そもそも何故復活したのか。全く詳細がわからない。何せその肝心なハンターズが後に行方不明だからな。ただ、DFの影響は軽く惑星規模に及び、遺伝子の変質を生むとあった。本格的に復活したら、ヨチヨチ歩きの俺たちの銀河なぞ、奴の餌に過ぎないわけだ。そのDFは、間違いなく連中の手によって確実に復活の準備を整えつつあるようだ」
隊長の言う、DF、ダークファルに関しては私のデータベースにもある。
ただ、その事実は過去のものであり、詳細は確かに解らない。
今では事実と言う名の幻想として、思い出したように映画化される程度である。
去年もエピソード9が公開され大ヒットしていた。
DFを倒したといわれるハンターズは行方不明になっている。
だから詳細も何もあったもんじゃない。
どの程度の大きさなのか、そもそも何なのか。
どうやって倒したのか。
全ては謎だ。
パイオニア2は、その後、安全な土地に移住した。
そして、私たちの新たなる歴史が始まったわけだが・・・。
「既に名前は数人われている。正確な映像が無いのは勘弁してくれ。ヤツラは映像に写らない。だから保存することが出来ないんだ。だが、ブレインアッセンブルで脳の記憶から擬似的に生み出した映像をデータに入れておいた。とにかく計り知れないとだけ言っておこう。納めたデータがどの程度役に立つかもわからない。俺たちの常識を超えて余りある存在だからだ。正直、笑ったよ俺は。ここまで来ると笑い飛ばすしかない。連中から見れば、俺たちの能力なんて虫以下と言わざるを得ないだろう」
まさか・・・。
そんな存在がありえるのだろうか。
「確実とは言えないが、ヤツラにはそれぞれに固有の才能があるらしい。フォースのように一通りのことが出来るわけではないというわけだ。火炎を使う奴は、火炎に飛びぬけて長けている。その長け方が異常だ。どうやら戦艦級の火力を放つ奴もいるようだ。そうとしか考えられないことが過去に起きている。それだけじゃない、お前も知っているだろうが、軍部で嘗て開発し、挫折したタイムリープ兵器。一定空間と時間を封じ込める。それを生身の人間が出来るそうだ。最近そいつの足取りが途絶えたから、監査の連中は大騒ぎだぜ。何せしたこと全てが無意味になっちまうんだから。有りえないだろう?笑うだろ正直、笑うしかねー」
「あ!」
ドーラは思い出した。
あの町で起きた、あの出来事を。
自らを侍の長と名乗る、カンナと共に起した作戦行動中の出来事!
あの異常事態、あの非常識さ。
「ココロン殿・・・今もあの仕事を続けているのだろうか」
脳裏にかすめるのは、自信たっぷりのカンナの笑顔と、無邪気な少女の笑顔。
何も出来なかった自分。
なのに、彼はそれを一刀の元に切り伏せた。
「本当に、もう、会えないのか」
カンナが告げた予言のような言葉を思い出す。
話はこれで終わると思ったが、更に続きがあった。
今までの話でも充分な衝撃であったにも関わらず、次の話は更に突拍子もないものだった。
「これは確かな情報じゃないが言っておこう。ニューマンが反乱を起そうとしているようだ」
「えっ!」
ドーラの大きな身体がビクッと動いた。
今は感情脳が支配権を握っている為、その衝撃に電算脳が戸惑ったのだろう。
「驚いただろう。本来ニューマンには、ヒューマンに絶対逆らえないように、遺伝子レベルで操作された上で誕生しているからな。だが、五年前に改訂されたニューマン法を覚えているか。当時、警鐘を鳴らした者も数多くいたが、どうやらそれが要因らしい。ニューマンを生み出した時からずっと奥底にあった恐怖。恐れられていた事態。ニューマンの反乱だ。今年になってニューマン誕生が極端に減った事実は有名だが、どうやら銀河的に危機感が現実化しつつあるらしく、それが原因らしい。まーそれが返ってニューマンの反抗心を一層強いものとさせてしまっているがな。監査の連中は言っていたよ。最早ニューマンは、ドロイドと違って野に放たれた野獣だとな。だから、お前に話した一切の情報は、雅龍も知らないだろう。銀河警察内でも既に、ニューマンとヒューマンの情報差別は確実なものとなっているからな。表立っては解らないだろうがそういうことだ。俺に言わせれば、そういう態度そのものが、勘違いだということを上の連中は今だに解らないらしい。そして、あれだ、ニューマンが当てにならなくなりそうだってんで、急遽ドロイド達の増産に入ったわけだ。だから銀河警察は今余裕がないんだ、あらゆる点でな。だから全てに対して後手回っている。何せドロイドの生産に関しては表上は銀河警察の管轄だからな」
ニューマンの反乱?
それこそ青天の霹靂だ。
百年以上起こりえなかった、起こる筈なかった事実。
そして避けられなかった現実とも言えるか。
「ドーラ、まずは月の町へ行け。火種は既に同時に月の町へ集結している。俺たちに出来ることはたかが知れているが、もし火種が本物なら種のウチに消さなければいけない。そして、それが出来るのは中立にいる銀河警察だけだ!でなければ、ダークフォース、ニューマン、ヒューマンによる銀河を巻き込んだ最悪の戦争がおっぱじまるぞ。それだけはあってはならないんだ。金と武装は監査の連中が調達してくれるだろうから何でも言ってくれ。俺は気になる情報があってそこへは行けない。
さて、話は違うが、ドーラ。あれだ、雅龍はどうしている?きっと一人だけのけ者にされたって怒っているだろうな。目に浮ぶよ。家に帰ってはガキみたいに地団駄踏んでいるだろう。それとも、ベッドへ横になって『きーーーーっ!』って叫んでんじゃないか。セニョあたりが愚痴を聞きまくっているんだろうな、はっはっは。でも、あいつがいるか。奴とは上手くいってるのか?あのボンボンとは。お前から見て奴はどうだ?頼りになりそうか。雅龍を護れる奴なんて俺ぐらいしかいなんだろうが・・・いい奴か?まーボンボンってのは大概自信家で自己愛が強くってしょーもない奴ばっかりなんだろがな。
まーいー。この件は雅龍にも一切秘密にしてくれ。下手に絡めば銀河警察での立場も危うくなるばかりか、拘束されかねない。そうなったらいよいよ大変だ。そして、ドーラ、すまないと思っている」
「隊長・・・」
「しかーし!こうなった以上、再びお前は俺の部下だ!ビシビシこき使ってやるから覚悟しておけ、いいな!」
「イエッサー!」
「お前、画面に向かってイエッサー!と言ってるんじゃないか?双方向通信じゃねぇんだからよ」
「ふふ」
ドーラは敬礼をしている自分に思わず苦笑した。
「はっはっは、まーいー!ドーラ、もしジークが健在なら教えてくれ。作戦を練り直す。ジョニー隊ここに復活だ!頼むぞドーラ!」
「イエッサーーッ!」
こうして今、私は月の町にいる。
到着早々の宇宙港にて既にひと悶着あったが、まぁ、仕方ない。
何せここはフォースの町。
フォース以外の者は、あらゆる点で鬱陶しがられる。
特に私のようなドロイドで、尚且つソロなら一層だ。
何か企んでいると思われて当然であろう。
月の町に用があるのはフォースのみ。
観光で来る者も多いだろうが、ドロイドは観光なぞしないからな。
したとしても、せいぜいメイドや護衛としてであって、こうしてソロで来る俺なんかは、いかにも怪しい奴と見られて当然だろう。
中心街にある最高級のアンシエントホテルズに止まる。
エネルギーの供給が可能なのは此処しかなかった。
私達ドロイドにとって、緊張状態が続く任務は最も得意とするとこだが、エネルギーの供給とメンテナンスは欠かせない。
それ以外では、あらゆる点で人間に優れているだろう。
何せ人間のようにストレスというものもない。
メンテナンス装置とエネルギーさえ供給されていれば、半永久的にすら任務に興じることが出来るのだ。
私が一旦外へ出れば、フォース達の好奇の的となった。
時折嫌がらせを受けたが黙らせてやった。
この町には銀河警察はいない。
治外法権である。
それ故に、少々のことでは問題にはならない。
観光地帯を少し外れれば、当たり前のように日々爆炎や氷結が降り注ぐ。
そしてその横を、小さな少女が何食わぬ顔で買い物をしているのだ。
恐ろしい町だ。
辛うじて治安が維持されているのは、都市国家固有の自警団がいるお陰だろう。
観光収入は、この国家にとって欠かせない収入源でもあるから、中心部は自警団により平穏が保たれていた。
とはいえ、自警団そのものもかなり怪しい。
幾つか勢力があり、互いに牽制しあっているように思う。
つまり互いに、力を力で捻じ伏せているに過ぎないということだ。
悪の温床と以前より目を付けられているのも当然であろうことが、来てみたことでハッキリとした。
私の滞在可能な期間は1週間。
富豪付きのシークレットサービスということになっている。
富豪が観光で訪れる前の下調べとして来たという面目だ。
富豪の名は、ボニー・ジョー。
ばかばかしい設定に思えたが、隊長の言うように実にあっさりと通された。
どうやらここでは、現金さえ払えば全てが正当化されるというのは事実のようだ。
このあからさまに怪しい設定の怪しい私を通すのだから。
「シェイド戦線は最悪だった」
向かい側で女性に声を掛けていた男がこっちに向かって歩いてきた。
(レインジャー・・・しかもグリーンスーツ。まさか、あのグリーンフラッグス!まさか・・・)
ドーラは身構える風もなく彼を見た。
長身の男は緑のレイマースーツを着ている。
彼は左の頬を摩りながら、歩き去った女の方を見ていた。
「そうでもないさ」
シェイド戦線は最悪だった。
このキーワードはジョニー隊の暗号の一つ。
それに対し、超高周波の暗号に載せこう応える。
「そうでもない」と。
男は不適な笑みと鋭い眼光を向け言った。
「ビューティーハンター・・・オキノだ」
そう言うと髪をかきあげる。
「・・・ど、ドーラだ」
一瞬とまどう。
「チッチッチッ」
オキノと名乗るそのレイマーは、右手の人差し指を思わせぶりに振って見せる。
「ビューティーハンター・・・オキノだ」
彼は、メインストリートの中央で何かのポーズをとっていた。
両手を広げ、右足を前に、やや屈み込みながら斜めに私を見ている。
傍を行き交う観光客の中には、彼に向けフラッシュをたいた者もいた。
全員の好奇の目が彼に集中し出す。
(ばかな・・・)
暗号は正しく返されてた。
ということは、まさにこの男が隊長の送った斥候なのだ。
この、道中でポーズをとっているこの男が、このヤサ男がその人なのだ。
今、彼はカップルの間に入り写真に写されている。
何かのイベントと勘違いした観光客が、次から次へと彼に写真をねだっていた。
その度ごとに、彼はポーズを変え写され、握手をし手を振った。
(なんなんだ・・・、有り得ない!こんな目立つ斥候がある筈がない!何かの間違いだ!)
私は再度送り返された暗号を解読したが、それはまさに元ジョニー隊の正規のパターンだった。
しかも暗号の返事はビューティーハンターに変えられている。
暗号を解析し、本来名前にくる筈の箇所を変えたのだろう。
それは凄い技術と言えた。
(バカな・・・)
私は既に帰りたくなっている。
「ビューティーハンター・・・オキノだ」
また暗号が返された。
暗号を何度も返す奴も聞いたことがない。
「・・・」
観光客はさっきより集まり、彼だけでなく、私にさえカメラを向ける者がいる。
私はこういった場合のベストな返答をデータベースからリードしていたが、どれも私にとって最悪なシナリオだった。
「わっかんない奴だな。私がオキノだ!っていったら、セリフがあんだろ「きゃ〜っ」とか「おぉぉぉ」とか。理想的には「あ、あの!ビューティーハンター!」これが理想だ。やってみなさい」
「・・・」
周囲からは失笑の声が上がる。
しかもそれは、セリフを忘れたことになっている私へ向けられてのだ。
なんたる屈辱!
「ふふ、あいつドロイドの癖にセリフが出てこないみたいだぜ」
「きっと電脳が中古なのよ」
「ほーれ、どうした。あ、ほ〜れ」
(最悪のシナリオを選択せざるを得ない・・・)
*
「全く、要領悪いねあんた。バレるかと思ってヒヤヒヤしたぜ」
私たちは少し離れた喫茶店にいた。
「・・・」
「怒ってんの?」
私は、結局彼の言うシェイド戦線シミュレーション、私から言わせれば子供のごっこ遊び、をやらされた。
私は悪のシノビー・・・この私がである。
彼が英雄、ビューティーオキノ・・・名前すら変えられている。
15分にもおよぶショー(?)が終わる頃には、拍手喝さいとお賽銭が舞った。
客の中には自警団とおぼしく連中まで見ていやがった。
終了後、その連中に呼び止められたときは一瞬ひやりとしたが、彼らはこう言った。
「また、あんたか。やる前には事前に言ってくれとあれほど言ったろう。そいつは新入りか?」
そう言って強面のフォースはアゴで私を指した。
「そうなんですよ〜、こいつ中身は中古でボロなもんだから、なかなかセリフ入らなくてね、へっへっへ」
それを聞いて自警団の連中は大笑いしている。
「いや、そのバカっぷりが面白かったぞ。いいボディしているのになぁ、あの反応速度じゃ、そうとう古いんだろう」
(何を言ってる!俺の電子頭脳は最新型のハイアットパーカー製だぞ!)
「いや〜笑ったぞ。んで、明日は何時にやるんだ?観光局にも言っておこう」
(明日?)
「二時です、へっへっへっ」
「二時!」
私の上げた声に、男はビックリし、次の瞬間腹を抱えて爆笑した。
「あーっはっはっは、こいつ時間すら把握してね〜ぞ」
「すいやせん、ボロなもんで、へっへっへっ」
「オキノ、なぁー動かなくなったらボディだけでも安く売ってくれ、気に入ったよコイツ。部屋に飾っておきたい」
「ヘイ、旦那には世話んなってますから、へっへっへっ」
オキノと名乗った男は、手を磨り合わせ、何度も何度も頭を下げた。
「怒らない方がどうかしている」
私はカンカンだった。
「ふっ・・・あんたジョニーさんに聞いていたほどプロじゃないな」
急に男は真面目な顔をし、そういった。
別人のように鋭い眼光。
それはまるで数多の戦場を駆け抜けて来た戦士のようだ。
「なに・・・」
「あれは作戦だよ。お前みたいなデカイドロイドがこのミンスクで!フォースの町でウロウロしてみろ。私は何か探ってま〜っすって、言っているようなもんだろ。出来ることも出来なくなる。誰かに絡まれ、モメゴトを起したってんで強制退去が落ちだ」
確かに思い当たることが既に何度かった。
この町では、フォースはドロイドを目の敵にしている。
どこへ行っても敵意の視線が刺さり、確かにどうアプローチするか考えあぐねていた。
というのも、移動する度にちょっかいを出す輩がいるからだ。しかし・・・
「・・・私が目線を集めていても、オキノは自由に動けたじゃないか。それが、この一件で、お前と私がツルンデイルことが公衆の面前でわれたわけだ。これをどう説明つける」
「あ・・・」
男は一瞬にして表情が変った。
(やっぱり・・・この男、考えてないな)
「えーっとだな、違う。それは違うぞ。えーっとだ、えー・・・そう。大道芸ならどこでやっても可笑しくないだろう。特にこの町では公認化されているからな。ちゃんと申請すれば問題ない。つまり、おっぴろげーにお前は俺と行動が出来るってことじゃないか。一人より二人、二人より三人だ。言うだろ!一本の矢はすぐ折れるが、二本なら少しは平気だと・・・だったよな?」
私はうな垂れた。
(この男、本音なのか、嘘なのか皆目検討がつかない。いや、全てが嘘のように思えるが・・・)
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