DOORA

---SIDE STORY---

#14.「鬼」

作:管理人 文字校:雅龍

 ビークルの後方を、一筋の砂塵が舞っている。
 見えるのは延々と続く砂と、岩石でできた山々のみ。
 砂漠におりったった者しか、この恐怖感と虚無感はわからない。
 一度ビークルを下りれば、2度と生きては帰れないだろう。
 車内ではやたら落ち着きのない運転手。
 顔には明らかに恐怖の色がこびりついている。
 それは過去のものか、それとも現在のものか、はたまたこれから来ることへの恐怖からなのかは読み取れない。
 それともその全てなのかもしれない。
 男は額にびっしりと汗をかいていた。
 そのくせ、身体が小刻みに震えている。
 冷却装置が効き過ぎているのか。
 外との温度差は実に四十度近い。
 運転手は、しきりに正面、左右、そしてビークルのナビゲーション画面を繰り返し繰り返し見ている。
 砂丘の谷間を抜けようとした時、男の形相が変った。
 途端にブレーキをありったけの力で踏み込む。
 急ブレーキに耐え切れず、ビークルが真横を向く。
 ほぼ同時に、爆風で前方を砂塵が舞った。
 その風圧で一瞬ビークルが持ち上がるほどだ。
 横を向いていなければビークルを直撃していただろう。
「うわぁーっ、きやがった!だから嫌だっていったんだよ!」
 正面を向いたまま、大声で独り言のように言っている。
「だから言ったんだよ。だから、だから、嫌だって言ったんだよ」
 しきりに、だから、だからと繰り返した。
 砂塵がおさまると、そこには三台の大型武装ビークルがいた。
 そのサンドカラーのビークルは、まるでさっきからそこにいたような自然さだ。
 待ち伏せか。
 その後部ハッチから、湧くように武装した者達が出てくる。
 五人、十人、まだいる。
 皆、一癖も二癖もあるような顔つきの者ばかり。
 全員の顔に獲物を捕らえた野獣のような、欲望剥き出しの笑みがへばりついてる。
 運転手の震えはピークに達していた。
「あのロゴは・・・サンドネーション!最悪だ、殺される、殺される!」
 声は裏返り、運転手は両手をすぐに上げた。
 その両手がブルブルと震えている。
 集団の中から一人のヒューマーが前へ出た。
 恐らくこの一団の頭だろう。
「よーこそ!俺たちの王国へ・・・と言いたいところだが、通行料なしに通ろうってのは許せねーなー。タクシーに乗るのに金を払うように、通るには通行料払ってもらわないと。こっちは久々の客だってーから全員でお出迎えしているってーのになー」 
 周囲の者達が笑う。
「なぜ止まる」
 後部座席から声が聞こえた。
 どうやらこのビークルは客を乗せていたらしい。
 それもそのはず、このビークルはスペースポートに常駐するタクシーだ。
 とはいえ、違法営業。
 スペースポートを利用する観光客には裕福な人間が多い。
 彼らは普段から空港内をうろつき物色している。
 そこで、キョロキョロとタクシーを捜しているカモを見つけてはキャッチするのだ。
 1人、もしくはカップルが狙い目。
 正規料金より格安で連れて行くと言い、後で身包み剥ぎ取る。
 そして、遠くてそうそう戻れないような場所ですてていくのが連中の手口だ。
 騒がれたら銃で黙らせればいい。
 とは言っても目的はあくまで金。
 彼らにとって観光客は動く財布に過ぎない。
 だが、運転手は心の中で後悔していた。
「今日は本当についてねー。朝起きたときから調子が悪かったんだよ。変な客につかまっちまうし。くそー、くそー、ついてねー、くそー」
 後部座席にはカップルが座っていた。
 とはいえカップルというにはいささか雰囲気がおかしい。
 一人は、漆黒のハンタースーツを着ている。
 背が高く、体格が相当がっしりしている。
 かなりの筋肉質だ。
 赤黒い髪をしており、それはまるで・・・血のよう。
 空港からずっと目を閉じ、腕組みをしている。
 堅く閉ざされた口は全てを否定しているかのようにも見える。
 更に特徴的なのは、顔にある傷。
 その傷は、左目の上あたりから真下に突き抜けている。
 もう一人は黒い布きれにくるまっており、よく見えない。
 アクセサリーなのか、服の色なのか、ピンクの装飾品らしきものが見える。
 眠っているらしく、ピクリとも動かない。
「いけ」
 客の男は言った。
 目は閉じている。
「無理ですよ・・・奴らはサンドネーションだ。殺される」
 全身が震えていた。
「いけ」
 声の調子がやや変った。
「無理ですって!わかっているんですか!奴らは容赦ないんだ!」
 運転手は目から鼻から色々な液体を垂れ流していた。
 外からは野蛮な笑い声が聞こえる。
 そこで初めて後部座席の男は目を開けた。
「鬱陶しい」
 微かに呼気が漏れる。
「あれ、付きましたー?」
 その隣から素っ頓狂な声がした。
 黒い布山から顔がひょっこり覗く。
 女性ではなくドロイドのようだ。
 ピンクのドロイド、形状からするとレイキャシールがベースのようだ。
 とても小柄で華奢なボディー。メイド用なのか?
 ドロイドは、いきなりビークルのハッチを開けた。
「え!」
 運転手が硬直する。
 外の緊張が一瞬でピークに達したのがわかった。
「ひっ!」
 手を上げたまま失神した。
 吹き込む熱風。
 すると自動的に、ハッチから風が流れエアーカーテンが出来る。
 こうすれば車内の冷気は外に出ない。
 ドロイドは辺りをキョロキョロと見回すと、ぴょんと下りる。
「あれーーーっ、マスターまだ砂ですねー」
 砂漠に不釣合いな愛嬌のある、でもどこか間の抜けた声が砂に吸収される。
 ドロイドは、そこでようやく外にいる者達に気付いたようだ。
 外にいる全員の銃口が向けられている。
 いつ撃たれてもおかしくない状況。
 なのに、何思ったのかニンマリ笑うと右手を高らかに上げる。
「アカリちゃんでーす!」
 彼らの銃が唸った。 

「間違いないのか!」
 カウンターに詰め寄る大きなドロイド。
 白い巨体にカウンターがミシミシと音をたてる。
「お客さんそれ以上前に来ないで下さい。カウンターが!間違いありませんよ。そのお客様は、もう1周間以上前にここを発ちました」
 バーテンは露骨に迷惑そうな顔をしている。
「なぜそう言いきれる」
「なぜって、本人がもう来ないって言ったんですから。それに実際それ以来、来られてませんし」
 突然誰かが自分の下半身にタックルをしてきた。
 見ると、下半身にしがみついていたのは若い女性のようだ。
 度派手な赤のワンピースに、真っ赤な口紅。
 女が顔が上げ自分を見上げる。
 泣いているのか、化粧が崩れ目が潤んでいる。
 アクセサリーは一切つけていないものの、充分過ぎる美人だ。
 この趣味は・・・。
「ジョーに会わせて!」
 その顔はどこか雅龍教官に似ている。
「どうかされましたか」
 しゃがみこみ、しがみついている女性の手をとる。
「巨人さん、あなたジョーを知っているんでしょ。ジョーに会わせて!お願い!ジョーに会いたいの!」
「ジョー・・・ジョニー・B・ジョーですか」
「お願い!ジョーに会わせて!ジョーに・・・」
 女は混乱しているのかとりつくしまがないといった感じだ。
「残念ながら私はそのジョニー氏を探しているんです」
「え・・・」
 女性は気を失うように、床に突っ伏して大声で泣きだした。
「ジョーー!ジョーーー!ジョ、ジョー・・・」
 
 その女性が泣きつかれ落ち着く頃には陽が傾きかけていた。
 どうやらこういうことらしい。
 バーテンの言うようにジョニー隊長は既に一週間前にこの地を発っている。
 その間、最も仲の良かった者がこの方のようだ。
 どの程度仲が良かったかは直ぐに想像がついた。
 
「追われていた?」
「そう・・・ジョーは最後に言ったわ。僕は追われている、君に迷惑がかかるかもしれないからもうここを発つって。でも、私は言ったの!迷惑だなんてとんでもない!あなたと死ねるんなら本望だって。だからこの地に住もうって、ここで結婚して子供を沢山授かろうって。そうしたらジョーは、愛する君を死なせたくはないって!私を優しく抱きしめたの・・・」
「そー・・・ですか」
「そしてね、ジョーは私の手にキスをして、それでね・・・」
「ところで!何故そのように赤いワンピースを。失礼ながら今時珍しいかと」
 ドーラがそう訊ねると、彼女は顔を赤らめる。
「ジョーが、私に一番似合う色だって言うから・・・」
「はー・・・・」

 まただ。
 彼女で丁度十人目である。
 なにがなんだかわけがわからない。
 私は、京極堂の協力(大金を払ったが・・・)により、ジークの記憶を解析しジョニー隊長に纏わる貴重な多くの情報を掴んだ。
 やはり、ジークはジョニー隊長を追うように後から追加プログラムされいていた。
 そして、それは何にもまして最重要項目として位置づけられていたのだ。
 しかも、そのプログラムは非常に巧妙で、ジークの活動停止とともにメモリ、OS、を含め一切が消されるように仕込まれていた。
 京極堂に協力を依頼していなければ、今頃本当にジークはハリボテになるところだったのだ。
 そして、そのメモリの中からジークが行く筈だった所を私が向かった。
 もう七日も前の話だ。
 メモリにどうやって、隊長の情報が受信されていたかは遂に解析できなかった。
 あの戦闘の時に故障したのか、それとも・・・。
 いずれにせよ、今は七日前の情報で止まっている。
 だが、どこにも隊長の姿はなかった。
 確かに、そこにいたらしいことはわかったのだが、痕跡というには余りにあいまいだ。
 何かをカモフラージュしているかのような気がしてならない。
 もう一つ気がかりなことがある。
 それは雅龍教官のことだ。
 ドーラは三日以内に連絡が出来なかった。
 この場合のことを想定して、教官には自分を探さないように言っておいたが、いささか心配だった。
 すぐに連絡をいれようか迷ったが、思いとどまった。
 それは、自分達のハンティングがニュースに流れていなかったからだ。
 経過はどうあれ、ハンティングそのものは成功している。
 銀河警察指名手配のジークを確保してニュースが流れない筈はない。
 おかしい。
 何かおかしい。
 そのドーラの予感が、雅龍に連絡することを躊躇わせる。
 教官ならあそこにいる限りは大丈夫だ。
 勿論、取調べは受けるだろう。
 なにせ自分の保護者に登録されている。
 だが、大事にはならないはずだ。
「ちょっとあなた!聞いてるの!」
「あ、すいません。それで?」
「そう、それでね、今夜だけでもいいからって泣いて止めたら。今夜だけだよって・・・。ジョーったら本当に優しいでしょ。そしてね、ここからお姫様だっこしてホテルまで運んでくれたよのー」
「はー」
「それでね・・・」
「あのー」
「なーに?」
「ジョニー氏は、何かあなたに残しませんでしたか」
「残したわよ」
 女性は顔を赤らめ、モジモジとする。
「そ、それは!」
 身を乗り出すドーラ。
「ぬくもり・・・」
「・・・」
 乗り出した身体が固まったのがわかる。
「イケナイかしら!」
「いえ!それはなんといいますか、とても、素敵なー、ものを、残されたんですね」
「うふふ」
 わけがわからなかった。 
 

「終わりましたー」
 ビークルの中にいる男へ向き直るピンクのレイキャシール。
 右手には実剣を持っている。
「いくぞ」
「はーい。アカリちゃんでしたー」
 ペコンとお辞儀をする。
 そして、軽快な足取りで走りビークルの運転席に乗り込む。
 と思ったら、下りてきて後部座席のハッチを閉め、改めて運転席に乗った。
 
 背後には真っ二つになり炎上する大型武装ビークル。
 そして、呆然と立ち尽くす大勢の男達がいた。
 誰一人として声を発するものはいない。
 皆が皆、口をぽかんと開けている。
 
「アカリ」
「はーい」
「プンシンではない、分身だ」
「はーい」
 ビークルが静かに走り出す。
 遙か彼方に見えなくなるビークル。
 呪縛が解けたかのように一人の男が砂塵に膝をつく。
 リーダーらしい。
 男は必死に頭の中で、今の出来事を整理しようとしていた。
 あの時、確かに数名の銃口からフォトン光が発した。
 しかし、捉えた筈のそれはアカリに着弾していない。
 それどころか、背後に轟く轟音。
 振り返ると、武装ビークルが真っ二つに裂けている。
 続いて、二つ、三つと轟音を上げる。
 何が起こったのか全くわからない。
 前を向くと、アカリと名乗ったピンクのドロイドがニヤついている。
 何時の間にかドロイドの手には実剣。
 俺は銃を構え、トリガーを引いた。
 手ごたえがない。
 それもその筈、二つに切断されている。
 ピンクのドロイドを見た。
「鬼丸流、プンシンのじゅっつーっ!」
 ポーズをとり笑っている。
 その笑顔が一層非現実的に思えた。
 直後、武装ビークルがほぼ同時に爆発炎上。
 俺は爆風にとばされ砂に顔を埋めた。
 顔を上げると、
 目の前に、ピンクのドロイド。
 悪夢としかいえない。
 
 アカリがハンドルを握って運転している。
 助手席には気を失ったこのタクシーの運転手。
 後部座席の男は、相変わらず腕組をしたまま微動だにしない。
「マスター、車内が臭いんですけどー」
「ああ」
「アカリちゃんのお尻のあたりから匂いまーす」
「ああ」
「なんですかー」
「失禁だ」
「しっきーん?お漏らしですねー。アカリちゃんお漏らしです」
「運転手だ」
「運転手さんお漏らしー?臭いー」
 ナビゲーションが、女性の流麗な声で目的地までの時間を告げる。
「目的地まで、あと五時間です。この地域は政府より進入禁止区域として指定されております。直ちに引き返して下さい」
「なんでですかー」
 アカリがナビゲーションに向かって言った。
「この一帯は銀河遺産に認定されております」
「なんの遺産ですかー」
「歴史で言うラグオル開拓期の遺産です」
「それ、見たいですー」
「この銀河遺産は一般車両の進入を許可しておりません」
「いやー見たいですー」
「侵入車両は無条件に攻撃されます」
「見たいー」
「あと、一時間で警戒区域にさしかかります」
「いやー」
「あと、五十九分で警戒区域にさしかかります」
「いやー」
「あと、五十八分で・・・」
 ナビゲーションが煙を上げ、モニターが途絶えた。
「いやー・・・あれ?」
 後ろを振り返るアカリ。
「煩いぞ」
 男が声色変えずに言った。
「はーい」
 ビークルは砂漠地帯をそのまま突き進む。 

 ホテルの一室。
 ドーラは結局、朝まで女性の話に付き合わされた。
「女性という生き物は不思議だ。なぜあそこまで喋れるんだ。私なら途中でエネルギーが切れてしまいそうだ。なんだかやけに疲れた。」
 相手は満足げに帰っていた。
 ジョニー隊長の言葉を急に思い出す。
「ドーラ、女性の声は男にとってBGMなんだ。それは彼女達にとってもそうだ。自分がさして重要なことを言っているつもりはない。だからいい。男みたいにもったいぶっていない。喋ることじたいが快感であり音楽なんだよ。だから、BGMを絶やすようなことを言ったりしちゃーいかん。吐き出させる。そうすれば必ずうまくいく。いけ」
「それでは一次メモリが一杯になってしまいます」
「あはっはっはっは。それは最悪な聞き方だよドーラ。やっぱりお前も男なんだなー」
 その日も隊長は酔っていた。
「言っただろう。BGMなんだって。音楽には必ずココっていう調子があるんだよ。そこさせ押さえていればいい。あとはその流れの上にあるに過ぎない」
「それはどうやって判断すればいいのですか」
「わからないなら聞くことだ。色々な女性達の美しきしらべを聞きまくること。その為にはおつきあいすることが手っ取り早い。あのヒューキャシールなんてどうだ。たまんねーだろ」
 そう言うと、酒場の白いヒューキャシールを見た。
 すらりと伸びたモデルのようなボディーがそこにあった。
「隊長は白が好きなんですね」
「うわっはっはっは、言うねードーラちゃんも。あー好きだねー、大好き!だから、ドーラちゃんも好きよーん」
 ジョニーがドーラにしなだれかかる。
「ちょちょっと止めてください」
「隊長!それでは私は嫌いなんですか!」
 そう言って仁王立ちになったのは、ジークだ。
 同じく酔っ払ってフラフラしている。
「兄弟、そういうことじゃ・・・」
 ジョニーが割ってはいる。
「好きだよー。俺は白、そして赤が好きなんだ。だからジークちゃんも好き〜」
 そう言って今度はジークにしなだれかかった。
「ありがとうございます!」
 何故か敬礼をしているジーク。
「こらジーク!駄目じゃないか」
「え・・・」
 ジークが硬直した。
「女がこうして甘えてきたら、ちゃんと肩を抱きとめてやらなくてどーする。堅くなるのはわかるが、そこが大切なんだよ。堅くなるのはあっちだけにしろ・・・といってもお前達は全身が堅いけどな。あーっはっはっは」
 自分の言葉に大うけしている隊長。バンバンと激しくテーブルを叩く。
 意味がわからず、とまどっているジーク。
 だが、意を決したのか突然しかも強引に隊長を引き寄せた。
「だから違うって、相手がきたら、もしくはきたそーだったら引き寄せる!今のはお前の抱きたいというエゴだ」
「隊長・・・抱きたいって・・・」
 そうドーラが言ったが完全に聞こえていない。
「雰囲気を察しろ雰囲気を!やってみろ」
 ジークの右腕がピクピクと動く。
「だから、違うって。タイミングだよ」
「失礼しました!もう1度お願いします」
 そんなことを一晩中やっていた。
 我々はドロイドだ。
 寝ること自体にそれほどの意味はない。
 たしかに人間のように寝ている間に自動メンテナンスが始まるが、自動メンテを使わなくてもメンテルームでメンテすればすぐに終わる。
 人間はそうはいかないだろう。
 なのに隊長はいつも、そんな調子だった。
 その時、ドーラの頭に何かが過ぎる。
「白、赤、赤、白、赤・・・癒し、愛、ぬくもり・・・まさか!」
 電子頭脳に衝撃がはしった。
 最初は意味のないことに思えた。
 だが、あの酒場の出来事で隊長は私が後を追っていることは知っているはずだ。
 そして、私が絶対に諦めないだろうことも。
 隊長はよく言っていた。
「おまえはシツコイ・・・それがいい!シツコイなら徹底的にやれ」
 それならば、私に危険がおよぶことも予想できるはずだ。
 何かを必ず残している。
 しかも、私でなければわからない何かを!
 
 ドーラはここに来て初めて隊長に近づいている自分に気づいた。
 そして、十人の会話を頭からリードしなおす。
 隊長の言う調子を見つける為に何回となく。 
 

「どうだ」
「空ですーD反応ぜーんぜんありませーん」
「移送済みか」
 身の丈以上もある剣を背負っている男。
 ビークルの後部座席にいた男だ。
 その剣は何故か鞘に納まったまま。
 にも関わらず圧倒的な圧力を感じさせた。
 その圧力は決して心地の良いものではない。
 とてつもない禍々しさを感じる。
 アカリと自ら名乗ったピンクのドロイドは、地上に降りてきた。
 肩には赤いフォトンランチャー。それは男の毛髪の色に似ていた。
「マスター、戻りましょうか」
 二人の全身が赤々と照らされている。
「ああ」
 そう言うと二人はビークルに乗り、再びもと来た砂漠を走り出した。
 二人の去った後には、炎に包まれる巨大建造物と、無数の残骸。
 そして、夜空をけたたましく鳴るサイレンが満たす。
 
 それをみている一人の男。
「お、おに、お、鬼が・・・」
 気を失った。 

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