BURN.FOSTER

---SIDE STORY---

#6.「月夜の舞」

Y

 

○昼の直中にその真っ赤な情熱は固まりとなって来た。それはこの星の太陽にも似た人物。その光景は長年バ−ンのお庭番しているクールズにとっていささか見慣れたものだ。弟子入りしたい。付き合って欲しい。結婚したい等理由は色々だった。ほとんどの場合、クールズが門前払いしただけで恐れをなしてスゴスゴと去っていった。陰湿な逆恨みをされたこともあったが、バーンやクールズにとってその程度のことはまさに朝飯前のことでしかない。バーンもその程度で疲弊する程、弱い精神力は持ち合わせていなかった。その都度楽しんでいるようにさえ見えた。クールはその度に鬼姫つまり国家の長たる資質を感じぜぬにはおかなった。女として生まれていれば、正当な、最高の鬼姫が誕生していただろう。バーンは決まって最後に、世の中には色々な生き物がいるものですね。そう、独り言ともとれないことを笑顔で呟いていた。
 しかし、これほどの逸材はここ暫くは珍しい。過去に出会った逸材の一人がジュゲだ。彼女は才能も実力も頭脳もズバ抜けていた。また、しつこさはドロイドのクールズでさえ舌を巻いた。この新参者は名前をエルディナと名乗った。クールズは瞬間的に未だ大いに発展途上の素材でありることを分析していた。才能は顔でわかるのだ。変化の兆しがその真っ直ぐな眼から見てとれた。彼の電子頭脳には、過去から今にいたるまでの膨大な戦闘データから、才能もある種のパターンを伴っていることが傾向として出ていたのだ。それは目であり顔であった。まるで占いのような話だが認めざる終えない一つの事実である。
「お願いです!」
エルディナは剣を置き、両膝をつき、頭を垂れ、ハンターとして絶対服従を意味する姿勢をとった。彼女にとって、天賦の才能と実力を認めた父親にすら見せたことがなかった。いや、一生誰かにすることは無いと今まで思っていた。この正面にいるパーンに会うまでは。
 バーンが4人のターゲットを倒した後、エルディナはgfや弟のジュウオウへの説明も大雑把に済ませ、警察への当面の対応をまかせギルドへと急いだ。ギルドでの処理においては一切本人以外認められないからだ。驚くギルドガールを尻目にイライラしながら手続きを待った。地方のギルドにしては美人のギルドガールだ。そして、手続きが終わると次は二人の待つ警察への対応と奔走した。それらの処理には翌朝にまでおよんだ。なんとか収束をみたので、一睡もしていなが構わずバーンの元へと向かった。「お願い、まだ宿にいて!」宿を思った時、ふと疑問が沸いた。シャーロキアンという宿、バーンの様な美しい麗人が泊まるにはいささか酷すぎる宿であることに気付いた。「あのお方が嘘を?いや、ありえない。」聞き間違えたかと一瞬焦ったが、聞き間違えるには他にそういった名前の宿がデータになかった。
「しかし、まさかあんなトラブルの多い宿に、まさか。」
 ハンターズの間では、いささか有名な問題の多い宿だ。小競り合いが耐えない。宿を把握するのはエリヤハンターにとって基本中の基本である。実は、到着早々ジュゲが宿に設置されたレストランで乱闘を起こしていたが、それは連絡されることがなかった。はやる気持ちを抑えながら、とにかく宿に向かう。
バーンは宿にいた。
「お願いします!私に剣を教えて下さい。」
バーンは古びた木製のイスに凛とした姿勢で座している。そして、エルディナを見つめて黙って微笑む。何度となく沈黙が流れた。最初は追い出そうとしたクールズだったが、話を聞くだけ聞きましょうと言う姫に従った。
「もう、話は終わりかな。では、お引き取り願いたい。」
クールズは何も聞かなかった風情で、言い放った。
「引き下がれません!」
そう言って睨み返す。自覚のある限りでは、それが初めて発した魂の叫びだった。
クールズがエルディナに向き直る。その目は一切を受け付ける気のない絶対的な拒否が込められていた。それは殺気にも感じとれた。
「まー無理やな・・・。」
その空気を断ち切るためか、ジュゲが笑顔で突然会話に割って入った。
「無理とは?」
エルディナがその小さなニューマンに向かって言う。
「簡単に言うとな、レベルが違いすぎるんよ。足でまといにはなっても、役にはたたんちゅうことや。」
「そんな!私だって・・・・。」
そう言いかけて言葉が詰まった。あの4人と戦ったバーンの剣筋が全くみえなかっだからだ。しかし、到底ここで引き下がるつもりもなかった。この怪しげなドロイドや可愛く小さなニューマンを倒してでも付いて行く覚悟が既にあった。
「引き下がれません!!」
彼女が込められる最大の思いを込めて言い切った。
ク−ルズはユラリと不思議な動きをみせ、いつの間にかオロチアギトを抜いていた。
「キリキリしーなー。」
エルディナは額から汗が流れている自分に気づいた。
「バーンここはワイにまかせてくれん?」
床にペタンとあぐらをかき、それまでニヤニヤとしていたジュゲが少し真面目な顔でいった。バーンは黙ってジュゲに笑顔をおくると、クールズをチラッとだけ見て、何事もなかったように静かに歩きだすと部屋を出ていった。クールズも後に続く。室内は再び沈黙が支配した。
 エルディナの心は敗北感で一杯だった。今までに味わったことなない感情だった。膝に添えた両拳は握りしめられギリギリと音がしそうなほどだ。あまりの悔しさと敗北感で涙すら出ない。身体は硬直し、眼瞬きすら忘れている。
「あんなー姉ちゃん。ワイら毎晩トレーニングしてるんや。その気があるなら明日見にきてみ。」
ジュゲのその一言でエルディナは顔を上げられた。
「言ってわかるならきやしないわな。論より証拠ってね。」
エルディナの顔が明るく輝く。
「ただし命の保証はせんけどな。」
あくまで悪戯っぽい笑顔をしてそう言うジュゲに、エルディナは気迫を込めて返事をした。
「勿論」
「クールには冗談は通用しないからきーつけー。」
「クール?」
「あのドロイドや。斬られるよマジに。ほっんと、あいつは手加減とか冗談とか絶対通用しないから。明日トレーニングに行く途中とか目が合っても知らん顔しーな。」
「ありがとう・・・。」
「ふふ、同じ天才ニューマン同士なかよーせんとな。」
そういうとあぐらだったのに身軽に一瞬で立ち上がり、胸をはってエルディナにブイサインを送る。
「うふふ。エルディナよ、ヨロシクね。」
「ワイはジュゲ。へへ、天才ハニュエール!さっきのオンボロがク−ルズで、座ってたのがバーン。ワイもバーンは大好きだから、エル姉ちゃんの気持ちすごっいわかるよ。」
「うふふ」
 二人は固い握手を交わしその日は別れた。

 

 翌日、言われた時間より3時間も早くエルディナは現れた。別れ際、ジュゲがこういったからだ。トレーニングの時間は不規則で、バーンがやりたくなった時が稽古時だということ。クールズは、絶対トレーニング中に部外者を入れないので、こそっとついて来ること。そして最後に、絶対に20メートル以内に近づかないこと。この3つだった。近づいてはいけない理由を尋ねたが、ジュゲはいつも見せるあの悪戯っぽい笑みを浮かべただけで詳しくは話てくれなかった。ただ、こう言った。全ては見て、感じればわかると。
 宿のほぼ正面に位置するカフェに来てから2時間が過ぎた。店内奥に位置しているので宿からは見えない筈だ。
 ロビーの扉が動いた。バーンだった。そして彼女の1メートル左後方にクールズかいた。二人にはなんのオーラというか殺気というか意気込みらしきものを発する風もなく歩きだした。それはまるで買い物を思いついたお嬢様と付き人のような気軽さに見えた。
 バーンは今日も凛々しく美しかった。バーンを目線で追っている内に、身体が熱くなっている自分に気づいた。心臓が高鳴り、脈が勢いよく命の鼓動をうっている。エルディナはバーンに釘付けになっている自分に初めて気づいた。そういえば、昨日はあまり寝つけなかった。眼をつぶると色々なバーンの顔が自然と浮かび出てくるのだ。4人のハンターに囲まれた時の毅然としたバーン、昨日あった時に椅子に座したバーン、自分に微笑みを送ったバーン、自分の肩を叩いたバーン。自分でもわけがわからなかった。その叩かれた肩の感触を思い出そうとしている自分に気づいては顔が赤くなった。
「違う違う!まさか、そんなことない。私は正常だ。」
 そう言いながらも目が離れなかった。コップのものを飲み干し。周囲に気づかれないように深呼吸した。そして、相変わらず無愛想な店員に代金を支払い。気づかれないように店をでた。20メートル、キープしなきゃ。二人の後からジュゲは出てこなかったが気にしなかった。既に陽もくれかけている。ジュゲの様な可愛い女の子には夜の街は危険だから出してもらえないのだろうと一人納得した。昨日は必死さのあまり自分をアピールする機会を逸していたが、今日はトレーニングに乱入して自分の実力を見せるつもりだった。そうすれば絶対嫌とは言わない、言わせない自信があった。少なくても、エルディナはこの星のベストハンターズの一人である実力者だ。また、才能ある両親の遺伝子を受け継ぎ相応のトレーニングをこなし、ズバ抜けた成績を納めていた。だから絶対の自信があった。

 バーンとクールズは暫く歩き、人けの無い広場で立ち止まった。エルディナに緊張が走った。そこはお世辞にも安全な場所とは言い難い地区にあったのだ。一月程前に地域の2代勢力が小競り合いの果てに瓦礫と化してしまったのだ。今では整地され見る陰もない。30メートル四方の整地だ。街頭すらなく月明かりのみが微かに辺りを照らしている。

 気付くと、いつの間にかクールズの姿が見えない。

バーンも、おもむろに剣を抜き、広場を中央へ歩き進んだ。
「まさか、ここでトレーニングを始めようというの。いくらなんでもこの地区じゃ危険だ。ここのエリアは立入禁止区域なのに。」
 乱入を諦め、危険を知らせようとエルディナが近くに寄ろうとした刹那、バーンの剣が光った。しかしバーン無表情だ。今度は1つ2つ3つと3度振った。恐ろしく早い。エルディナには切っ先を捉えるとこが出来ない。バーンはそうして何度も歩いては剣を振り、歩いては剣を振った。その表情は無表情というより自然といった方がいいかもしれない。不思議に思いながらも、見つからないよう距離をおきながらゆっくりと近づいた。そして、この広場となった整地の中央付近に来ると立ち止まった。まただ、今度は何度も舞うように剣を振る。早すぎて数えきれない。一体何をやっているのか?気になるのは、時折金属どおしがかすかに擦れ会うような音が聞き取れる。だがその音源を見定めることが出来ない。
「今ならバーンさん一人だ。いっそトレーニングが始まる前に私の剣筋を見てもらおう。」
そう思い、歩こうとした途端。
「踏み込み甘いなー。」
エルディナは驚きのあまり、飛びのきざまに剣を抜く。
その声の主は、ジュゲだった。何時の間に、全く全く気付かなかった。隣にいたのだ。
 ジュゲは全く構う風もなく、相変わらず一人激しい演舞をしているバーンをあの悪戯っぽい笑顔を見せたままじっと見つめていた。パニックに成りそうな自分をうまく制御しつつ、ジュゲを見た。ジュゲは身の丈の2倍以上もある巨大な大剣を、地面に突き差したまま立っていた。
「またや。ほら、エル姉ちゃんもよーみてみー。踏み込み甘いやろ。」
「え?」
 バーンの方を見るが相変わらず華麗な演舞に興じている。
 その時だ、バーンは剣を垂直に構えると一筋の雷撃が天空より走った。ゾンデだ。その閃光が落ちた先の何かが、弾いた。
「ゾンデを弾いた!嘘!」
 しかも、そこにいたのはクールズだった。
「そんのようなゾンデでは、かすり傷もつきませぬぞ!」
 その瞬間にようやく全てを理解した。あの音、あの激しい演舞。既にトレーニングは始まっていた。しかも、クールズは見えない程に早い。いや、それとも。
「まいるぞよ!」
 初めてバーンの表情が変わった。フォースはおろか並大抵のハンターですら出来ないような素早く大きな振りで一気にクールズとの間合いを詰めた。しかし、既にクールズは消えている。バーンは振り返りざま大きな火弾を放った。高レベルのフォイエだ。振り下ろしながら詠唱に入り、避けられるのを承知で着地と同時にフォイエを発する。神業のようなテクだ。そして、その放ったフォイエのやや左前方へ一足で踏み込み、剣を振りおろす。その瞬間バーンは大きく後方に飛ばされた。地面に叩きつけられながらも上手く回転し衝撃を和らげている。そして、回転した勢いでそのままスックと立った。顔からはまた表情が消えている。夜月に照らされ神々しい程に美しい。息をわずかに吐いた。正面5メートル程先ににクールズが仁王立ちしていた。5メートルも飛ばされていたのだ。バーンの身体が青い光に包まれている。
「デバンドで衝撃を緩和したんだ!」
思わず声に出た。声を出した自分に全く気づいてすらいない。
「怒りにまかせた剣では、スペース鼠すら斬れませぬぞ。」
厳しい口調でクールズはそう言った。
「ぎょい」
静かにバーンは返した。
「バーンさん・・・バーン・・・さん。」
消え入るような声でエルディナは呟く。
まばたきを忘れた。
呼吸も忘れた。
音も消し飛んだ。
 今、エルディナは全身が目となっていた。バーンの一挙手一頭足を見逃せない思いだった。
 再びバーンが動いた。
1刀1刀が必殺のような鋭さを持ちながら、1つ2つ3つ4つと立て続けに振り下ろされた。それは当初見た時よりも大きくそして鋭く美しく本当に踊っているかのように見える。
「よっしゃ、よっしゃ。いい感じにっなってきた。」
 ジュゲはウキウキとした口調でそう言う。
 休むことなない必殺の舞は続いている。そして、突如幾つものアイピラーが立ちのぼった。ギバータだ。周囲は季節外れの雪景色のていをなす。連続してギバータが放たれた。バーンは剣を顔正面にかかげ、度切れずにギバータを詠唱し続ける。周囲5メートルは完全に氷壁が出来上がっていた。その時、氷壁の一部が激しい音をたてて弾けとび、塊がバーンへむけ迫った。その途端バーンは空中に舞った。舞ながら詠唱している。
跳躍の頂点に達した辺りで、半径5メートルはあろうかという巨大な炎球が地面をドーム上に覆った。ラフォイエだ。

 時が止まったかのような気がした。灼熱の炎球が音や時間すらも消し去ったかのようだ。一瞬遅れてすさまじい轟音が、その炎球の内部だけに轟音となって響く。炎は一瞬で消えた。そしてバーンは着地。まだ高温の炎に焼かれた大地から湯気が上がっている。月明かりでも陽炎がはっきりと見てとれる。
 口が乾いていた。エルディナは辛うじて唾を飲み込む。
「参った。」
バーンが言った。
「え?」
 ようやくまばたきをしたエルディナは、乾いた目をしばつかせながらバーンの首筋に光る剣をようやくみとめた。バーンの真後ろにはクールズ。そしてバーン首にはクールズの愛刀オロチアギトが突きつけられている。引けば、しぶきがまうだろう。バーンはやや息を切らしている。
「・・・」
エルディナは言葉がなかった。
「空中では姿勢は制御出来ても、落下地点は制御出来ません。空中へ舞うのは最後の最後とお考え下さい。」
 オロチアギトをすっとしまうと、淡々とクールズは言った。
「ぎょい。」
全く悔しがる風もなく。バーンはまっすぐ遠方を見据えたままそういった。
 クールズは片膝をつき、バーンに向かって頭を下げた。
「本日は以上これまで。」
「いえ、今1度願います。」
呼吸の整ったバーンはクールズを見ずにいった。
「御意」
その瞬間、クールズは音も無く消える。
バーンはまだ遙遠方を見ているかのように焦点が定まっていない。
「バーンもいよいよ本気や!」
 全く動揺するどころか、ピョンピョンと飛び跳ねながらジュゲはオモチャを与えられた子供の様にはしゃいでいる。楽しくてたまらないようだ。放心状態のようなエルディナハそんなジュゲを見て「何言ってるだーこのボケは!」と整理の付かない感情で心内毒づいた。

 バーンは今までからは想像も出来ないような危機迫る表情をしている。急に周囲の温度が2・3度下がった。急速に目に見えない何かが集まりつつあった。そして。「はあっっっっっ!」
 バーンの気迫のこもった声と同時に身体が強い光に包まれた。超高威力のシフタとデバンドをほぼ同時にかけたのだ。そして、同時に横一線に剣を振る。そして、2撃3撃と先程にもまして激しい舞。明らかに間合いが延びている。もはやエルディナにはバーンの動きを追うのも無理だった。剣筋どころの騒ぎではない。そして、時折り激しく弾く音が聞こえた。その度に今まで見えなかったクールズ姿が浮かび上がった。
「よっしゃ!」
 ジュゲがそう言うと、傍らに刺してあった大剣を軽々と手にとる。鈍い低音が騒音のように鳴るとその大剣の刃先全体が青く光った。ジュゲは明らかに二人の動きが見えているようだ。しかも、なにかのタイミングを待っている。
 そして突如、跳びだしたかと思うとその巨大な剣を信じられない速度で横一線に振る。空気すら切れてしまったかに思えた。そしてその瞬間に電気がショートするかのような音が。クールズが初めてその姿を見せた。大剣をオロチアギトで難なく受け止めている。衝撃で、1メートルほど動いたことがその足元から見てとれた。
 ジュゲの顔が別人に見える。あの悪戯っぽい子供のような笑顔は消えていた。そこへバーンが斬りかかる。

「はああああああっ!」

 

 その永遠とも思える円舞が2時間あまり続いた。
 エルディナは途中から記憶がなかった。ただ真っ白だった。そのトレーニングは想像の域すら遙に越えて余りあるものだった。


「クールズ、ちょっとは手加減なさいよー。」
 バーンの声で、我に返った。バーンは笑顔でクールズの臀部を叩いている。3人も嘘のように表情が違って見える。バーンはエルディナに気づくと心配そうな顔で駆け寄った。
「大丈夫!」
 そういうと両手をエリディナの頬に添え、左手で前髪を上げだ。
「たいへーん!血が出てる。」
 跳石でろうか、剣圧だろうか、わずかに額が切れていた。バーン裾から自分のハンドタオルを出し、血をぬぐった。そして、エルディナの全身を眺め他に怪我がないか見て、怪我がないのを認めると心から安心したような笑顔を見せ。軽く抱きしめた。なんともいえない疲労が癒えるのを感じた。レスタをかけたのだ。
「これで、もう大丈夫ね。」
 そう言うと両手をエルディナの両肩に沿え、ジッと優しい笑顔で見つめた。
 エルディナは顔が赤くなったが、不思議と恥ずかしく無かった。そんな二人にクールズ近寄るとエルディナを一瞥もせず姫向かって話を続けた。
「姫、後半のザマはなんですか。あれほど感情にまかせて剣を振ってはならぬと申したではありませぬか!」
「あーもー、うるさいうるさーい。」
そう言うとそそくさと歩き出し元来た道を帰りだす。
「いーえ、今日という今日は止めませぬぞ!姫、あの時の一撃では・・・」
「あっあ−、本日は晴天なりー。もう既に真っ暗なりー。あっあー。」
普段のバーンからは想像出来ないようなおどけた声。両手で耳を塞いでいる。
「あっあー、おなかが空いて倒れそーなりー。クールズは小姑なりー。あっあー。」
「なんと申された!姫、姫!」
 エルディナは二人のやり取りを笑顔で見つめていた。不思議な感動?で涙が頬をつたってた。ジュゲはエルディナの少し前で二人の会話をピョンピョン跳ねながら笑って聞いていた。
「あっはっはっはっはっ、バーンが壊れた。バーンが壊れた。ヒーッヒーッ」
 エルディナはバーンに手渡されたハンドタオルで涙を拭う。
「どやった?」
ジュゲはバーン達を視線でおったまま言った。
「・・・夢みたいだった。ふふ、駄目ねーこれでもプロのハンターなのに。」
 その声は全くわだかまりのない爽やかなものだった。そして、思いっきり伸びをする。
「でも、姉ちゃん最後までいたやん。初めてやで、うちらのトレーニングを最後まで逃げずに見たもんわ。」
 そう言うと振り向く。その顔にはさっきとはまた違ったジュゲの顔があった。ジュゲという少女を少しだけわかったような気がした。
「でも、ぜーんぜん見えなかった・・・。」
「んじゃ、あきらめるん?」
 頭の中では不可能という文字と、それでもやりたいという衝動が同時に身体の何処からか沸いて出た。一瞬間をおいてこう叫んだ。
「諦めない!」
遙彼方のバーンを見据えてから、ジュゲをみた。ジュゲはいつもの悪戯っぽい笑顔を見せている。
「ふふふ、言うたなー。」
「武士に二言ありません!」
そう言うと胸を1度ポンと叩き、すかさず剣をとった。1振り・2振り・3振り。気迫を込めて素早く振った。あの壮絶な演舞の後にもかかわらず何の恥じらいもなかった。
「今の私はこれが背一杯・・・。でも、諦めない!」

 

 今は3人に遙に劣るものの、大いなる可能性を秘めた剣筋だった。

 

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