BURN.FOSTER

---SIDE STORY---

#5.「出会い」

X

 

○「やったな!」
 バーンの周りを4人のハンターが取り囲む。一人は異様に大きく、バーンの2倍はある。腕がバーンの身の丈ほどにあった。
「あの変なドロイドさえいなけりゃな。」
「フォースなんか懐に入ればチョロイもんだよ。」
 男達は眼が血走り邪推なマナコで舐めるようにバーンを見回す。その身なりや装備は乏しく恐らくNクラス程度の元ハンターズであることは明確であった。正式なハンターズであれば政府から発行される正式なIDを装備してある筈だが、彼らにはなかった。
「素直に全部出しな・・・そしたら優しくしてやるぜ。」
 野卑な笑い声が響く。異様に大きいのはキマイラらしい。強くなる為の違法手術だろう。一瞥もせずにバーンは言い放った。
「ふーん・・・皆さんNマイナ?」
 Nマイナとは、最低ランクハンターで見習いを示す。バーンは全く動揺するでもなく、落ち着いた声で正面のHumarにそう聞いた。一瞬でこの首謀者がその男だと見抜いていた。男は、そのバーンの全く動揺していない態度と、何事もないような声色から、虚をつかれ拍子抜けしていた。
「なにをー、てめー!」
 誰が聞いても間抜けな返事だったが、そのHumarには声を出すのが精一杯だった。
「あら、当たっちゃった?」
 そのサラっと流した声で、男達の金縛りが解ける。そして、徐々にイライラがつのり始める。
「てめー、わかってねーようだな。」
「この距離でテクニックを詠唱出来るもんならやってみなよ。」
 背一杯ドスを利かせている。男達のイライラは早くも頂点に達しようとしていた。

 その時、ERUDINAはハンターズギルドの帰りだった。ニューマン特有のバランスのとれた背と美しい体型、吸い付くような肌理の細かい黒い肌に、端正で美しい顔立ちをしている。自分の肌の色が際立つという理由で、赤いハンターズスーツが好みで必ず着ている。エルディナはこの近辺に住むギルドに登録されたハンターだ。ヒューマーで言えば23才程に見えるが、ニューマンで7歳になったばかりだ。5歳よりハンター登録をし、このエリアで徐々に力をつけている。今さっき、ギルドからフォースばかりを狙った強盗団を捕獲する仕事を請けたばかりだ。
「クエストレベルはA、高いな。最低2名以上のハンターズを推奨。ターゲットはハンター崩れ、フォースが単独行動の時にいずれも襲われていると。ふん。気をつけるのはキマイラだな。・・・可愛そうに。全員最後には殺されてるのか・・・許せない。」
 ターゲットをデータで確認にしつつ、早くも闘志が湧いてきている。
「確かに一人ではやっかいね。援護がいるわ・・・共同戦線をはるか。」
 一人一人を見ればいずれもエルディナの敵ではなかったが、4人となるとさすがに手が余った。特にキマイラは厄介だった。エルディナは、弟のDJや母gfと共同戦線をはることを考えていた。弟のDJもハンターだ。母はフォースで、事実上引退状態ではあるがこうした時の為にハンターズライセンスは更新していた。しかし、いささかレベルでいえばエルディナに劣るものがある。それでも父親の遺伝か、ポテンシャルでは有能なハンターと姉のエルディナは踏んでいた。ただ、自信がないのだ。あまりにも。自信がなくて才能すら駄目になってしまう。才能にはそれを生かす相応の行動をしたものだけが得られる結果なのだ。DJはその自信のなさから相応の行動を怠っていた。
「あの子にはキッカケがいる。よし・・・決めた。」
 その時だ。
「誰か警察をよべー!早く!」
「警察なんか間に合わねー。誰か、ハンターを呼べ。」
 事件だ。そう察するととっさに身体が動いた。
「ハンターのエルディナです。どうかしましたか。」
 男達は硬直した顔で、エルディナを見た。胸元のハンーズIDも目視すると、息を切らして言った。
「ああ、今さっき肌の黒フォースが男達に囲まれていていたのを見たんだ。最近、ニュースになってる連中だよ。間違いない。」
「何処だ、相手は何人だ。」
「あーえーっと、この先をすぐた。何人だ。あー思い出せない。とにかく一人はやたらデカイんだ。右腕が長くて異様な姿をしていた。」
 すぐに直感した。
「キマイラだ!」
 すかさずデータカードを取り出しキマイラの映像を男にみせる。
「こいつか!」
 男は興奮しながらもデータを見て、すぐにうなずいた。
「こ、こいつだ!そうだ、こういつだ!とにかく恐ろしくデカイんだ・・・。」
「わかった、私が行く!」
 そう言うとソードを手に取り走り出していた。
 走り出してすぐ、もう一人の男が「4人だー。警察にも連絡するー。」と叫んでいるのが聞こえた。走りながら手を上げて合図を送りながら、頭の中で目まぐるしく考えがよぎった。「やれるのか、一人で・・・危険だ。危険すぎる。DJや母さんに緊急支援コードを送らなきゃ。」
 通常ハンターズは複数で行動する為、チームのメンバー同士のみがわかる独自のコードを決め、その状態を一瞬に伝えられるようにしている。それを、エルディナはDJと母gfに送信した。
「お願い・・・どっちも間に合って。」
 祈るように言う。一人ではエルディナすら餌食になりかねない。一人や二人はなんとか出来ても生きて帰らなければなんの意味もないのだ。
「見えた!」
 白いフォーススーツをまとった女性が一瞬だが見えた。間違いなくターゲットだとわかった。その時、キマイラがまさにその異様に長い右腕を鞭のように振り上げていた。
「間に合わない!」

「マイル、やっちまえー!」
 リーダーのヒューマーがそういうと、マイラという名のキマイラは異様に長いその腕を振りかぶった。
「いい天気ねー」
 そう言うと、バーン愛用のアギトが一瞬光った。
「ぶっころす!」
 イライラと怒りを募らせたキマイラは、振り下ろしたかと思うと同時に鞭のようしなった腕がバーンに向かって一気に伸びた。
 直後、キマイラの腕がロケットパンチのように飛びバーンの反対側に突っ立ていたハンターの胸部を直撃、男は7mほど後方にふっ飛んだ。静かになった。
 キマイラは、手の内にはる筈の獲物を見た。バーンは涼しい顔をしている。ゆっくりと、自分の自慢の右腕をみる。ない。腕が。刹那、緑の血が大量に流れ出す。余りにも早くて血が噴出すのが遅れたのだ。だからバーンは綺麗なものだった。
「ウグァァァァァァァァァ。」
 キマイラの断末魔が晴天の街中で響く。
 リーダーともう一人のハンターは全く理解できない状況にパニックに陥っていた。マイルの手に収まっている筈のフォースは、涼しげにしており微笑みさえ浮かべて見える。そのマイルの右腕はなく絶叫を上げのたうっている。そして、もう一人の仲間が忽然といなくっている。過去にこんなことは一度もなかった。何がなんだからわかない。
「どうする?終わり?」
 そうバーンに言われ、一瞬だが整理がついた。わからない、わからないが、やられる。そう本能で察したのだろうか、悲痛なまでに歪んだ顔から、ほぼ同時にセイバーに手をかけた。

「まてー!」
 エルディナは、必死の形相で注意をそらそうと大声を上げた。
「私はハンターズのエルディ・・・ナ・・・・?。」
 その時、二人が同時に倒れた。エルディナはスローモーションを見ているかのうようだった。フォースは既に手に何も握っていない。何事もなかったように立っている。微笑んでさえ見えた。
 バーンの前後には、痛烈なミネ討ちで悶絶したリーダーと最後まで眼にもしなかったハンター。右手5m先にはキマイラのパンチを受け絶命しているハンターと、左手には、失った腕を押さえなが失血のショックで意識を失ったキマイラがいた。エルディナに気付くと、キマイラの血でスーツを汚さないように迂回して近づいた。
「あら、あなたこのエリアのハンターズね。グーッドタイミング♪」
 何事もなかったような顔で、そのエルディナ以上に黒く透き通った肌をもつ長身の美しいフォースは言った。
「後はよろしくね。どうせターゲットになってたんでしょ。向こうに一人いるけど、あれはキマイラのパンチで絶命したから仕方ないわね。キマイラは失血して気を失っているだけだから。しばらくしたら再生するわ。注意して。」
 そういうとそのフォースは微笑んだ。
「・・・」
 エルディナは混乱して何も言えなかった。
「もし、街中でみかけたら奢ってよ♪ ふふふ。」
 そう言うと歩きだした。
「あ、あの・・・。」
「もし、問題があるならすぐそこにあるシャーロキアンって宿に来てー。」
 そう言って振り返らず手を振る。
 エルディナは頭を整理しようと悶絶しているハンター達を一人一人捕獲マーカーを照射しながら、確認した。
「間違いない・・・この連中だ。」
 ハンターズのIDカードから転送許可の音声が流れる。
「確認いたしました。クエストランクA:fileNo・・・・・転送許可。」
 男達の身体が光につつまれ、ハンターズギルドまで直接転送されるゲートが開く。
「転送して下さい。」
 IDカードから指示があった。今一度、悶絶しているリーダーを確認し、転送指示を送信する。
 マーカーをつけられた男達は光とともに一瞬にしてその場から姿を消した。

 今は誰もいない。エルディナは未だに何が起きたのか認められない自分に気付いた。
「まさか!でも・・・だって・・・。えっ・・・嘘。でも、腰に実剣が。見えなかった・・・。でもフォース・・・。」
 振り返るが既にバーンの姿はない。
 遠くで誰かが自分を呼ぶ声が微かに聞こえた。声の方を向くと、ようやくエルディナは正気に戻る。
「DJと母さんか・・・んもう、遅いんだから・・・。」
呆然とするエルディナに走りよるDJとgf。
遠くではさらに遅れてサイレン音がこだましていた。

 

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