BURN.FOSTER

---SIDE STORY---

#2.「鋼鉄の純情」

U

 

○HUcastCOOLZ(クールズ)、彼はバーンがまだ男としてスカリーとして性を名乗っていた時の作品だ。バーン星における男性の役割というのは、戦闘でなはくクールズのような戦闘用ドロイドや武器の製作、作戦の立案に重視を置かれていた。またそれ以上に重要なのが子孫の繁殖だ。バーン星は永い戦闘の歴史の果てで男種族を多く失い存続の危機を迎えた時期があった。それ以降、男性は城を守る存在へと変化していた。テクニックに長けていたバーン星の女性は、古くから戦闘に参加していたが、この歴史的事件により前線に出ざる終えなくなる。そして、その前衛を守る役割として当時銀河的にその技術が流通し確立しだしたドロイド技術を導入したのだ。バーン星は、古くからシノビー一族との交流もあり独自のアプローチからドロイド技術を確立させる。それがお庭番だ。その中でも究極の形態を求めた一つ試作品、それが当時のスカリーが全精力を注いで開発したお庭番COOLZだ。話が横道にそれるが、COOLZは開発時「C-00-L」というコード名で開発されていた。CUSTUMナンバー00の、指揮官クラスを意味している。それを、姉のフォスターが初めて見たときに「COOL、いいじゃない。」という発言からCOOLの呼び名に決まった。クールズは、スカリーが始めて開発に着手したドロイドであり、かつ最後まで着手したドロイドでもある。スカリーは、新設備や新技術の登場の度に新たな技術を注ぎ込み、その節目毎にCOOL-A・COOL-Bと呼び名を代えていた。そして、姉の出陣の際にこれ以上ない出来栄えからZをとり、COOLZと銘銘したのが由来だ。話を元に戻そう。
 クールズはバーンに対して特殊な感情(?)を抱いていた。それは主人=マスター、鬼姫=最上級のマスターとしてだけでなく、自分を作り出したとういう更にそれ以上の存在だった。それは、ある事件がキッカケだった。
 バーンと共に様々な経験をしてきクールズが、最も許せない現状がドロイドの扱いだ。一部を除いてあらゆる所でドロイドは完全な道具や消耗品として扱われていた。まだ、稼動するドロイドすら少々の動作不良や古いという理由で廃棄されていた。しかも動作不良の90%はマスターのメンテナンス不良によるものが大半でドロイドにはなんの落ち度もないのを知っていた。修理・メンテナンスには莫大な費用がかかる為、ドロイド自身によるオートメンテナンスはほとんどの場合ソフト上で許可されずロックされていた。メンテナンスいらずと謳われた安価なドロイドは玩具用で実用に耐えうるものではない。ドロイドに関する銀河条例が発令されて以来、アイデンティティーの認められたドロイドはそのロックを解除された。ほとんどは形外的なものでしかなかない銀河条例もその点に関してはきちんと機能していた。しかし、ドロイドの自活など限りなく狭い範囲でことでしかなく、多くのドロイドはマスターに飼われ無残に捨てられた。ドロイドは高級品なので、いらなくなった、維持できなくなった場合、ドロイドを扱うギルドに売られる。そこで状態のいいものはメモリやソフトを書き換えられ、状態が悪ければパーツに分解され売られた。それ以下の場合は完全にスクラップにされ再生工場行きだ。つまり、どんなに良くてもソフトは書き換えられ、メモリは完全に消されてしまうのだ。ここだ。クールズの許せないのここにあった。ドロイドにとって、ソフトはともかくメモリはアイデンティティーそのものであるのだ。それを消されてしまうということは完全に再生されるに等しい行為なのだ。だが、現実にほとんどのドロイドはそうして再生されている。ARTIFICAL-PEACEというドロイド保護の団体がそうした事実に法整備を訴えたが、アイデンティティーを認められたドロイド以外は一切無視された。それが現状である為、ドロイドの扱いの悲惨は眼に余るものがあった。
 しかし、フォスター家は別だった。特にスカリー、現バーンは。バーンはマイスターであることも理由にあろうが、それ以上のものをクールズは感じていた。クールズはバーンからあらゆるメンテナンスや売買をクールズの判断にまかせるという、アイデンティティー確立に相当するワイルドカード設定を施していた。バーンがマスターである以上、それが銀河法令上で明確な違法行為だった。アイデンティティーを確立した場合、マスターの元を離れるのが絶対条件となる為だ。違法が知れれば銀河警察から、ドロイドは勿論マスターも重犯罪に課せられる。当然、バーンは承知していた。
 ある日、クールズはバーンに直訴した。
「私のソフトにアイデンティティーロックを掛けて下さい。」
 その時、バーンは木製のダイニングテーブルにつっぷし、本を読んでいた。ちらっと彼を見ると、突っ伏していた上体を起こし、人差し指で唇の端を引っ張り眼を細めていった。
「い〜だ。」
 そして、笑顔で笑い、またテーブルに突っ伏して本に没頭した。
 その日、クールズはある名家が一族で違法にアイデンティティーロックを解除したとして銀河警察に逮捕されたニュースを受信していた。こうしたやりとりは度々あったが、今日はそれだけに簡単には引き下がれなかった。
「拙者の、一生に一度のお願いです。ロックを掛けて下さい。」
 今日ばかりはと決意の強さを示す為に敢えて自ら禁を破りバーンの真横に立ち言った。本来ならマスターの50cm以内には特定の条件以外接近してはならないようロックされてる。クールズはそのロックも解除さているが、あえて接近しないようにしていた。そして、その場に土下座した。
 それに気付いたバーンは本を読むの止め、上体を起こす。ゆっくりと立ち上がりバーンは古い木の椅子を引いた。その椅子はとても一国の皇女が座るような椅子ではなく、古さに軋んでいる。静かに土下座するクールズにどこか潔さが漂っている。傍から見ると異様な光景かもしれない。ボロボロな木製の暗い宿、わずかに窓からさす光。その光を背に受け、バーンの白いスーツが輝いてる。しかしそのスーツはうすら汚れており、しばらくクリーニングしていないのがわかる。それでも神々しいばかりに輝いているバーン。その立ち姿は、生まれながらにして躾けられていなければ決して出来ない自然な立ち姿であり、偉大なる威厳に満ち満ちている。その黒く端正な顔は、静かに眼科のドロイドを見つめている。神々しいフォース、バーンの前に土下座するドロイド。クールズ本人は一目見てよくメンテナンスされているのがわかった。クールズのボディは艶があり傷も少ない。だが、ロックを解除されているとは言えクールズはほとんどメンテしたことはない。それは毎日バーンがメンテしているのだ。当初は断っていたクールズだが今ではバーンに押し負け、黙って受けている。本来メンテ中には電源を落とすものだが、電源を入れたままメンテは行われた。そしてその間、今までの旅の話や、星の話、共に星を出発し失われた仲間の話等を楽しそうにバーンは話た。その時間はクールズにとって誰からも犯されがたい至福の時間である。そんなことがクールズの頭をよぎっていた。
バーンはゆっくりしゃがむと、クールズの前に正座した。それに驚いたのはクールズだ。
「ま、待って下さい。どうかお立ちを・・・」
 焦りのあまり上体を起こし、決意の土下座を崩したクールズにそっと手を伸ばしたバーンに、意表をつかれたクールズは引き寄せられる。過去にそういったデータが全くない為に一瞬フリーズしたクールズは不覚にも姫であるバーンに倒れかかる。それは、ドロイドとして以上に、お庭番として許されない行為だった。
「あっつ!!」
 不覚にも、まるで悪戯を見つけられた少年のような幼い声を出してしまう。
バーンは自らの膝にクールズを抱きかかえ、子を癒す母のように頭と背中を優しくさすった。あまりの異常事態に完全にパニックに陥るクールズ。
「あっ!あー・・・あっ・・・」
 クールズは今思い出しても恥ずかしいメモリ、記憶、お庭番あるまじき声だった。
「ごめんね。私の我侭をもう少し許して・・・もう少し・・・もう少し・・・。」
 そう言うと、優しくどこまでも優しくさすった。その間、クールズの背中には冷たい水分がポタポタと垂れ落ちるのをセンサーが感知している。その成分から、それが人の流す涙だということは直ぐに解析された。この日ほど泣けない自分を悔やみ、ドロイドとして誕生したこの身を恨んだことは一生涯ない。全てを理解し、尚自分を受け入れ、自分の我侭を姫の我侭と言うバーンに対し、支配関係や愛情や自己をも超えた超自我を感じた。それ以来、クールズがアイデンティティーロックの話を2度と口にすることはなくなる。暫くし、ふとした偶然で失われたお庭番2体のメモリをバーンが破棄せず肌身離さず持っていることも知る。そのエピソードはまたの機会にしよう。

「このメモリが、記憶が、失われる時、私が死す時だ。例えこの身が一遍の鉄くずとなろうと、姫を守り抜く。」
 そして、愛刀「オロチアギト」を手に今日も戦う。
 姫をあらゆる障害から守るために。
 姫をあらゆる困難から守る為に。
 姫の使命を真っ当する為に。
 それが全て。

 それこそが命。

 

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