BURN.FOSTER ---SIDE STORY--- #1.「BURN.FOSTER」 辺境の惑星にあるBURN(バーン)の正当な姫君。正当な姫だけがBURNの名を継ぐ。代々女性が頂点に立ち、国をおさめる王政国家で玉座につく。肌は皆浅黒く、中心に位置する太陽光の影響を物語る。その国の男女は共に、黒い程に美しいとされ、逆に装飾は白いほどにいいとされる。辺境の惑星にも関わらず幾多度も戦乱に見舞われる。その為、女性はテクニックにたけ、男性は武力にたける。しかし、度重なる戦乱で男は激減、子孫繁栄の為いつしか戦闘は女性と、男たちが製造した心を持つ戦闘アンドロイド(国の庭先を守るという意味で、お庭番と呼ばれる)の役目となる。戦闘に出陣する女性を、この国では姫=HIMEと呼び、お庭番を3人つれる。玉座をおさめる姫君を唯一尊厳を込め鬼姫=ONIHIMEと呼び、多くの姫君をたばねる。実は、フォスターは男である。フォスターには尊敬する姉がいたが、ある戦乱でDFに遭遇、戦闘の果て吸収される。国の行く末を考え、顔も体格も似ていた弟のスカリー(本名)が鬼姫に奉られる。男なのにテクニックの才能が姉以上にあったのも幸いだった。スカリーは戦死と伝えられ盛大な葬儀を執り行われた。この時より姉フォスターとして人生を送ることとなる。この国にとって鬼姫を失うことは国の破滅をも意味していた為のことだった。  時が流れ、戦闘に勝利したBURNは、復興へと向けて順調に動き出した。そして、他国行脚を理由にスカリー=現バーンは、DFに吸収された姉=フォスターの救出を誓い、数少ないお庭番と共に帰ることの無いであろう旅へと出陣した。 #2.「鋼鉄の純情」 HUcastCOOLZ(クールズ)、彼はバーンがまだ男としてスカリーとして性を名乗っていた時の作品だ。バーン星における男性の役割というのは、戦闘でなはくクールズのような戦闘用ドロイドや武器の製作、作戦の立案に重視を置かれていた。またそれ以上に重要なのが子孫の繁殖だ。バーン星は永い戦闘の歴史の果てで男種族を多く失い存続の危機を迎えた時期があった。それ以降、男性は城を守る存在へと変化していた。テクニックに長けていたバーン星の女性は、古くから戦闘に参加していたが、この歴史的事件により前線に出ざる終えなくなる。そして、その前衛を守る役割として当時銀河的にその技術が流通し確立しだしたドロイド技術を導入したのだ。バーン星は、古くからシノビー一族との交流もあり独自のアプローチからドロイド技術を確立させる。それがお庭番だ。その中でも究極の形態を求めた一つ試作品、それが当時のスカリーが全精力を注いで開発したお庭番COOLZだ。話が横道にそれるが、COOLZは開発時「C-00-L」というコード名で開発されていた。CUSTUMナンバー00の、指揮官クラスを意味している。それを、姉のフォスターが初めて見たときに「COOL、いいじゃない。」という発言からCOOLの呼び名に決まった。クールズは、スカリーが始めて開発に着手したドロイドであり、かつ最後まで着手したドロイドでもある。スカリーは、新設備や新技術の登場の度に新たな技術を注ぎ込み、その節目毎にCOOL-A・COOL-Bと呼び名を代えていた。そして、姉の出陣の際にこれ以上ない出来栄えからZをとり、COOLZと銘銘したのが由来だ。話を元に戻そう。  クールズはバーンに対して特殊な感情(?)を抱いていた。それは主人=マスター、鬼姫=最上級のマスターとしてだけでなく、自分を作り出したとういう更にそれ以上の存在だった。それは、ある事件がキッカケだった。  バーンと共に様々な経験をしてきクールズが、最も許せない現状がドロイドの扱いだ。一部を除いてあらゆる所でドロイドは完全な道具や消耗品として扱われていた。まだ、稼動するドロイドすら少々の動作不良や古いという理由で廃棄されていた。しかも動作不良の90%はマスターのメンテナンス不良によるものが大半でドロイドにはなんの落ち度もないのを知っていた。修理・メンテナンスには莫大な費用がかかる為、ドロイド自身によるオートメンテナンスはほとんどの場合ソフト上で許可されずロックされていた。メンテナンスいらずと謳われた安価なドロイドは玩具用で実用に耐えうるものではない。ドロイドに関する銀河条例が発令されて以来、アイデンティティーの認められたドロイドはそのロックを解除された。ほとんどは形外的なものでしかなかない銀河条例もその点に関してはきちんと機能していた。しかし、ドロイドの自活など限りなく狭い範囲でことでしかなく、多くのドロイドはマスターに飼われ無残に捨てられた。ドロイドは高級品なので、いらなくなった、維持できなくなった場合、ドロイドを扱うギルドに売られる。そこで状態のいいものはメモリやソフトを書き換えられ、状態が悪ければパーツに分解され売られた。それ以下の場合は完全にスクラップにされ再生工場行きだ。つまり、どんなに良くてもソフトは書き換えられ、メモリは完全に消されてしまうのだ。ここだ。クールズの許せないのここにあった。ドロイドにとって、ソフトはともかくメモリはアイデンティティーそのものであるのだ。それを消されてしまうということは完全に再生されるに等しい行為なのだ。だが、現実にほとんどのドロイドはそうして再生されている。ARTIFICAL-PEACEというドロイド保護の団体がそうした事実に法整備を訴えたが、アイデンティティーを認められたドロイド以外は一切無視された。それが現状である為、ドロイドの扱いの悲惨は眼に余るものがあった。  しかし、フォスター家は別だった。特にスカリー、現バーンは。バーンはマイスターであることも理由にあろうが、それ以上のものをクールズは感じていた。クールズはバーンからあらゆるメンテナンスや売買をクールズの判断にまかせるという、アイデンティティー確立に相当するワイルドカード設定を施していた。バーンがマスターである以上、それが銀河法令上で明確な違法行為だった。アイデンティティーを確立した場合、マスターの元を離れるのが絶対条件となる為だ。違法が知れれば銀河警察から、ドロイドは勿論マスターも重犯罪に課せられる。当然、バーンは承知していた。  ある日、クールズはバーンに直訴した。 「私のソフトにアイデンティティーロックを掛けて下さい。」  その時、バーンは木製のダイニングテーブルにつっぷし、本を読んでいた。ちらっと彼を見ると、突っ伏していた上体を起こし、人差し指で唇の端を引っ張り眼を細めていった。 「い〜だ。」  そして、笑顔で笑い、またテーブルに突っ伏して本に没頭した。  その日、クールズはある名家が一族で違法にアイデンティティーロックを解除したとして銀河警察に逮捕されたニュースを受信していた。こうしたやりとりは度々あったが、今日はそれだけに簡単には引き下がれなかった。 「拙者の、一生に一度のお願いです。ロックを掛けて下さい。」  今日ばかりはと決意の強さを示す為に敢えて自ら禁を破りバーンの真横に立ち言った。本来ならマスターの50cm以内には特定の条件以外接近してはならないようロックされてる。クールズはそのロックも解除さているが、あえて接近しないようにしていた。そして、その場に土下座した。  それに気付いたバーンは本を読むの止め、上体を起こす。ゆっくりと立ち上がりバーンは古い木の椅子を引いた。その椅子はとても一国の皇女が座るような椅子ではなく、古さに軋んでいる。静かに土下座するクールズにどこか潔さが漂っている。傍から見ると異様な光景かもしれない。ボロボロな木製の暗い宿、わずかに窓からさす光。その光を背に受け、バーンの白いスーツが輝いてる。しかしそのスーツはうすら汚れており、しばらくクリーニングしていないのがわかる。それでも神々しいばかりに輝いているバーン。その立ち姿は、生まれながらにして躾けられていなければ決して出来ない自然な立ち姿であり、偉大なる威厳に満ち満ちている。その黒く端正な顔は、静かに眼科のドロイドを見つめている。神々しいフォース、バーンの前に土下座するドロイド。クールズ本人は一目見てよくメンテナンスされているのがわかった。クールズのボディは艶があり傷も少ない。だが、ロックを解除されているとは言えクールズはほとんどメンテしたことはない。それは毎日バーンがメンテしているのだ。当初は断っていたクールズだが今ではバーンに押し負け、黙って受けている。本来メンテ中には電源を落とすものだが、電源を入れたままメンテは行われた。そしてその間、今までの旅の話や、星の話、共に星を出発し失われた仲間の話等を楽しそうにバーンは話た。その時間はクールズにとって誰からも犯されがたい至福の時間である。そんなことがクールズの頭をよぎっていた。 バーンはゆっくりしゃがむと、クールズの前に正座した。それに驚いたのはクールズだ。 「ま、待って下さい。どうかお立ちを・・・」  焦りのあまり上体を起こし、決意の土下座を崩したクールズにそっと手を伸ばしたバーンに、意表をつかれたクールズは引き寄せられる。過去にそういったデータが全くない為に一瞬フリーズしたクールズは不覚にも姫であるバーンに倒れかかる。それは、ドロイドとして以上に、お庭番として許されない行為だった。 「あっつ!!」  不覚にも、まるで悪戯を見つけられた少年のような幼い声を出してしまう。 バーンは自らの膝にクールズを抱きかかえ、子を癒す母のように頭と背中を優しくさすった。あまりの異常事態に完全にパニックに陥るクールズ。 「あっ!あー・・・あっ・・・」  クールズは今思い出しても恥ずかしいメモリ、記憶、お庭番あるまじき声だった。 「ごめんね。私の我侭をもう少し許して・・・もう少し・・・もう少し・・・。」  そう言うと、優しくどこまでも優しくさすった。その間、クールズの背中には冷たい水分がポタポタと垂れ落ちるのをセンサーが感知している。その成分から、それが人の流す涙だということは直ぐに解析された。この日ほど泣けない自分を悔やみ、ドロイドとして誕生したこの身を恨んだことは一生涯ない。全てを理解し、尚自分を受け入れ、自分の我侭を姫の我侭と言うバーンに対し、支配関係や愛情や自己をも超えた超自我を感じた。それ以来、クールズがアイデンティティーロックの話を2度と口にすることはなくなる。暫くし、ふとした偶然で失われたお庭番2体のメモリをバーンが破棄せず肌身離さず持っていることも知る。そのエピソードはまたの機会にしよう。 「このメモリが、記憶が、失われる時、私が死す時だ。例えこの身が一遍の鉄くずとなろうと、姫を守り抜く。」  そして、愛刀「オロチアギト」を手に今日も戦う。  姫をあらゆる障害から守るために。  姫をあらゆる困難から守る為に。  姫の使命を真っ当する為に。  それが全て。  それこそが命。 #3.「青き心」 ○「なんてことだ・・・。」  クールズの拳が軋む。その眼下にはまたしても見たくない光景が広がっていた。それは戦場に散ったドロイド達の無残な残骸だ。ドロイドの自爆という卑劣な行為の後だというのがクールズの分析からわかった。戦場ではしばしばそういう行為が繰り返される。別に珍しいことではなかったが、その度にあまりの理不尽な行為に怒りで震えた。その惨状に足を止めているクールズの肩にそっと手を添えたのはバーンだ。 「先に行ってるわ。」 「かたじけない・・・。」  こういった戦場を見る度にこう言い聞かせた。「仕方がないのかもしれない、戦争だ。仕方がない。そう仕方がない・・・。」しかし、そこの残骸を見る限りは明らかに初めから自爆させる為に用意した兵隊であることがわかる。力なく残骸に膝をつく。日が落ちかけていた。 「泣いてんじゃーねーぞクール。いくぞー。」  そう言ってバーンの後を走って追うのはジュゲだ。フロウエンの大剣を背負い、威勢良く小走りに走る。クールズの痛みはジュゲにも痛いほどわかっているのでそれ以上は何も言わない。ニューマンの扱いも非常に酷似していたからだ。 「かたじけない・・・。」 しばらく、力なく立ち上がった。そして、残骸の海を歩きだすクールズ。彼はこうした戦場では必ずまだ生きているメモリがないか探すのが習慣となっていた。そして、それをいつか再生させるのが夢であった。 「ないか・・・。ん?」  諦めかけていたクールズのセンサーに、システムが再起動する時に発生する微弱な周波数を感知した。 「この先か・・・。」  瓦礫となった建物の裏側にその反応はあった。 「青いキャシール・・・システムが生きている!」  反応のあったそれは辛うじてメタリックブルーのレイキャシールと見てとれた。下半身は完全に吹き飛び跡形もなくなっている。上体にしても胸部が裂け、右半分は欠如。かろうじて左半分が残っていた。その左半分すら腕は上腕部のみかろうじて残っている程度で無残なもの。その左半分に予備電源があり、幸いにもそれが生きていた。頭部は激しく痛んでいたが辛うじてシステムが緊急モードで再起動しようと残る力を必死にかたむけていた。 「頼む、起動してくれ!頼む!」  上体をかかえ、慎重に緊急処置を施す。クールズが電源を供給しようにも外部電源口が完全に壊れており接続しようがなかった。それに、システムが再起動中にふいに状態変更をほどこすとそれが原因でシステムが二度と再起動しなくなることもある為、とりあえずのことしか出来ない。 「・・・emergency mode.system redy.sub battery remain 1min。」 「起動した!」 「めたりっく〜☆」  起動と同時にビビッと動くと突然そのキャシールが喋った。しかし、微振動は収まり静まる。予備電源の残りが1分しかない。クールズは祈るような気持ちで頭部に外部接続し、メモリバックアップのコマンドを送った。 「back up・・・error. battery remain 50sec。」 「頼む!動いてくれ!」  頭部を激しく打っている為か外部接続が思うようにいかない。苛立ちと焦りを露骨に表しながら再度試みた。クールズの分析ではこのタイプのキャシールで、どんなに高速なcpuでも全メモリもバックアップするのは20秒はかかると結果が出ていた。ましてや損傷具合から考えてこのきゃシールの電子頭脳なら40秒はかかると分析していた。 「back up・・・ready.」 「やった!」 「…10%.error. battery remain 40sec。」 「うおーーーーーっ!!」  夕暮れの荒れた残骸の上でクールズの雄たけびだ轟いた。物理的に既にリミットは越えた。全メモリをバックアップ出来なければ正常に動作する可能性は極めて低く、ドロイドの高性能な電子頭脳が破損される恐れすらある。それでも、諦めきれなかった。ドロイドとしてはありない行為だったが命令を続けた。 「back up・・・ready. battery remain 30sec.All back up alert. Continue? [Yes/No]」 「yes!yesだー!!」 「back up start.・・・・・・・・. battery remain 20sec. back up 25%.」 「頼む・・・頼む・・・お願いだ。」 「battery remain 3・2・1.」  カシャ。乾いた音ともにメモリがイジェクトされる。最後に記された数値から、完全にバックアップされたメモリは70%、このキャシール独自のソフトウエアによりバックアップされたメモリが30%を示していた。OSは機種により微妙に違う、それもソフトなら尚更違っていた。 「でも、動く。動く・・・動く筈だ。」  ぐったりと肩を落とすクールズ。  遠くからジュゲとバーンが必死に走ってくる。ジュゲにいたっては既に戦闘態勢ですらある。クールズが思わず発してしまった緊急コードを受信したのだろうと、頭の片隅で思いながら笑った。  その後、宿に行く道中ずっとクールズはジュゲからこってりと絞られた。いつもなら対抗意識を燃やすクールズだったがその日は何故かジュゲのその言葉が温かく感じた。その二人の様子をバーンは黙って笑顔で見つめていた。その手にはすすけて濁り切った青のキャシールが抱えられていた。  数日して、青のキャシールは起動する。   ●   「めたりっく〜☆」 「うわっ、なんなんやコイツ。」  テーブルの上に座した青のキャシールの声に思わずのけぞるジュゲ。 「めたりっく〜☆」 「駄目だよバーン。こいつおつむいっちゃてるよ。」  そう言いながらもどこか嬉しそうなジュゲを尻目にバーンが笑顔を送る。  失われた30%はどうにもならかった。ボディも元の戦闘タイプのボディが無く、背の低い鑑賞用のボディを元に、なるべく原型のボディを組み込んだ。こんな芸当が出来るのはマイスターたるバーンならではのことだ。 「残りの30%はこのままでは無理ね。この子のバックアップされた記憶からすると思ったより相当いいソフトつかってるわね。専用の解析機材がいるわ。重要な記憶は完全にそっちにバックアップされてるわ。この子がどこから来て、どうしてこうなったのか、マスターは誰だったのか、主なソフトはとか?全て情報もそっちにあるわ。70%は偽装に近いわね・・・。」 「めたりっく〜☆」  聞き入っていたジュゲはその声にビククッと身体を揺する。自分よりわずかに背が低いそのキャシールに明らかに好感を持っているのが伺える。 「びっくりするな〜コイツ。ふふっつ。バーン、いいんじゃない。ほっといたらコイツ死んでたんだから、幸せだよ。コイツ一緒に行くんだろ。」 「そうねー。」  ジュゲは明らかにこの闖入者を気に入っているようだった。まるで自分の兄弟を得たような喜びが伺えた。しかし、それを受け入れるどうかは別だ。バーンは迷っていた。ジュゲにどう話かを。それをクールズは痛いほど理解していた。 「おとうさん。」  かすかに異なるトーンで青キャシはいった。 「え?なんだって。ねーなんて言ったの?」  青キャシの顔をまじまじと見つめる。 「おとーさん。」 「おとーさん?ははっ、誰がー?あたい?あたいは女だよ。」  ふるふると首を振るキャシール。そして、右手を上げ指をさした。その指先を目線で追うジュゲ。その指先にはクールズが。 「く、くーる、クールが!」  眼を丸々と見開くジュゲ。 「うん、おとーさん。」  確信を込めた感じにしっかりと首を縦に振り、クールズに笑顔をおくる。 「あーっはっはっは、この子最高!あーっはっはっはクールがパパだってさー。あー笑い死にするー。あーっはっはっは。」  床を転げ回り必死にお腹を押さえて、足をバタつかせるジュゲ。あまりの衝撃に声すら出せないクールズ。クールズの顔をじっと見て微笑むバーン。 「うん、クールお父さん。」 次の発音はハッキリしていた。 「くーる、くーるが、あーっはっは、バーンお願いレスタ、レスタかけて、じゃないと死んでしまう、死んでまう。あーっはっは、くーるが、あーっはっはっは。助けてー死ぬる〜。」 「しょうがないわねー。」  笑い転げるジュゲを抱きかかえる。それでも尚笑いが止まらない。 「ヒーヒー、くーるがくーるが、助けて助けてー。」  バーンはジュゲを抱きかかえ、今だにどうしていいかわからずただ立ち尽くすクールズの横に立ち。そっと言った。 「後はよろしく、お・と・う・さん。」  そういうと高らかに笑い、クールズを残し歩きだした。 「ひ、ひめー、ご冗談が過ぎますぞー。ちょっと、姫、姫、ちょっとお待ちください!」 ドア越しにバーンは振り返り笑顔を見せると、なおも笑が止まらないジュゲを抱えて部屋を後にした。 「クールおとーさん。めたりっく〜☆」  ずさっと後ずさりするも、どうすることも出来ないクールズと、青キャシの幼く陽気な声だけが部屋にこだました。    後に、その青のキャシールは春流人(ハリュウト)と銘銘される。 #4.「青き心-エピーソードプラス」 ○「おとーさん。めたりっく〜☆」  トテテテテ。  今朝も陽気な春流人の声とその足音が室内に響く。あっちの部屋からこっちの部屋と人間のようにキョロキョロ見回し小走りに歩く。もはや朝の風物詩と言ってもいい。クールズを探しているのだ。電子頭脳に一部障害があるのか、センサーを正常に動作させられないのか、あれから何度か調べてみたがわからなかった。全てのセンサーは正常。電子時脳も同じだ。しかし、春流人はセンサーを使わず人間のように探す。言語機能にも異常はないのに、あの言葉を繰り返す。 「めたりっく〜☆」  バーンにとっては始めてのケース。それだけに興味深い。事実上封印されている記憶野30%に秘密があるのは明白だった。あれから、何度か暇をみては調べてみたがあの記憶野30%を圧縮しているソフトは、市販のソフトではないらしいということはわかった。しかし、それ以上は何もわからない。 「ま、なるようにまかせるしかなさそうね。」  春流人は一日の大半をクールズを探すか、クールズの後をチョコマカとついて回ることに費やした。当初、クールズは逃げ回っていたが、来る日も来る日も纏わりつく春流人に何かを学習したのか、ここ数日はわざと見つかるように目立つところにいる日が多くなった。定位置は姫の部屋だ。クールズはジュゲに護衛の為に姫の傍にいるんだと言い訳をジュゲに言ってた。姫の部屋であれば姫が助け舟を出してくれるのを承知の上での行為だった。朝食の後、いつもなら真っ直ぐこの部屋にくる春流人だったが、今朝はまだ来ていない。クールズもどこか所在なげで落ち着きが無い。    その頃、春流人はジュゲの部屋いた。ベッドの脇にある一人用の小さなテーブルの上にちょこんと座っている。ジュゲは椅子の反対側から座り、春流人の両手を握っている。どうやら、姫の部屋に行く寸前の春流人を捕まえて連れて来たようだ。 「春ちゃん、あたい思うんだけどさー。クールを、お父さんって呼ぶのはどうかな〜と思うよ。」  首を傾げる春流人。 「そうねー、どっちかってーと“とーちゃん”か“おやじー”じゃないかな。」  悪戯な笑顔を見せわざとらしくひょうきんに言う。 「とーちゃん?」  不思議そうな顔をする。したり顔なのはジュゲ。 「そうそうー、それと“おやじー”。」  こうなるとジュゲの悪戯は止まらない。 「お・や・じ?」 「クックックッ、そうそう。いいよー、クールも感激しちゃうね。間違いないよ。」  笑いを堪えきれずについぞもれる。 「うーん・・・とーちゃん♪」  何か得たりといった風情の笑顔で春流人が言った。  目を丸くして、もはや可笑しくでジュゲは限界だった。 「あーっはっはっは、それにしな。その方が喜ぶよ。あーっはっはっは、あー腹いてー。あーはっはっは。あー助けてー誰か助けて。」  テーブルをバシバシとたたき笑うジュゲを楽しそうに見つめる春流人。 「フフフ。とーちゃん♪めたりっく〜☆」 「そうそう。もっと言ってもっと・・・クックック。あー・・・ハアハア。死んでまう〜。もうー自分でレスタかけちゃう。」  その時だ。  バンッ!  激しい衝撃と同時に扉が勢いよく開いた。ミシミシと部屋がきしむ。レスタを真剣にかけようとしていたのを止めジュゲは振り返る。そこにいたのは仁王立ちになったクールズだ。逆光なので黄色く光る眼だけがハッキリみてとれる。そして、右手には抜き身の愛刀オロチアギトが。 「あっちゃ〜。」  思わず天を仰ぐジュゲ。 「ほほう・・・助けがいるそうだな・・・。」  いつも以上に低い声、そしてドロイドなのにどこか眼が据わって見える。 「えーと、もう平気平気。うん平気だよ。ぬふふふ・・・。」  手を正面でクロスして背一杯ブリッコポーズをとる。 「否!助けが必要だ・・・闇に滅する助けがな・・・。」  クールズの音声で部屋がビリビリツと響く。  チャキッ。  峰打ちではなく諸刃に構える。 「あのー・・・聞いていたのかな〜・・・てへへ。」  小声でかえす。 「御意・・・」 「立ち聞きはイケナイんだぞ〜・・・」  もはや消え入るような声だったがクールズにはしかと聞こえていた。 「ほほ〜・・・」  ギョッするジュゲ。じり・・じり・・・と摺足でクールズがにじり寄ってくる。わずかに2m、完全に間合いに入った。  一瞬の沈黙。  まずいと思った瞬間、ジュゲは春流人を跳び越し彼女の背中にまわる。 「春ちゃん助けてー!おとーちゃんがいじめるーっつ!!」  これまたわざとらしく「おとーちゃん」を強調してこれ見よがしに言ってみせた。それまで、ニコニコと二人のやりとりを見ていた春流人の正目面には、アギトを振りかぶったクールズが。不意をつかれ思わず硬直してしまう。 「・・・おとーちゃん、ジュゲちゃんを苛めちゃ駄目!」  子供が親をいなすようなむくれた顔でクールズを真っ直ぐにみつめる。  あまりにも意表をつかれたクールズは、振り上げたアギトを下ろすに下ろせず、絶句するしかない。 「あ・・・あのだな。あの・・・拙者は・・・。」  笑いが止まらないジュゲ。春流人の背中にぴたりと寄り添いながら必死に堪えているがどうにも堪えきれない。やはり人生経験からいってもジュゲが一枚上手のようだった。 「クッツクッツクッツ。そうでしょ〜、春のおとーちゃんはそんなことする人じゃないよね〜。」  笑いを堪えながらも相変わらずあくまでわざとらしく、そして悪戯っぽく言ってみせた。 「ふぐっ・・・ジュゲ〜・・・オノレわー・・・」  まんまとハメラレたクールズは怒りで小刻みに身体が震える。普段と違い、アギトのチキチキという震えからくる音が今日ばかりは滑稽に聞こえた。 「いやーん、春ちゃんのおとーちゃんこわーい!」  これまたおうぎょうにヒシと春流人にしがみつき、こぶしすら利かせて言った。 「おとーちゃん、メーッ!」 「否!春・・・そうじゃなくて・・・。」  春流人にいなされ思わずアギトを下ろした一瞬の隙を逃さず、後ろの窓を明け放ち外に出るジュゲ。まさに早業だ。そして、開いた窓の窓枠に顎を置いた。 「おとーちゃん、メッ!でしょ。あははははははー」  そう言うと間髪いれずに脱兎のごとく走り去る。 「あ!おのれジュゲ。逃げるかー!勝負だ、勝負いたせー!!」  すかさず窓に寄るも、もはやジュゲは遠くを走っており彼女の笑い声だけが微かに聞こえるだけだった。 「とーちゃん♪めたりっく〜☆」  そう言うと、いつものように春流人はその小さな右手でクールズの左手をヒシッと握る。 「あのな、春・・・拙者は、断じてお父ちゃんではないんだが・・・あぁ。」  力なくうなだれるクールに、春のどこまでも陽気な声と真っ直ぐに見つめる目線が向いていた。 「めたりっく〜☆」  姫はそんなやりとりを聞き、自室で本を読みながらほほえむ。 「これで丁度10勝0敗かな。ジュゲの圧勝ね。ふふふ。」 #5.「出会い」 ○「やったな!」  バーンの周りを4人のハンターが取り囲む。一人は異様に大きく、バーンの2倍はある。腕がバーンの身の丈ほどにあった。 「あの変なドロイドさえいなけりゃな。」 「フォースなんか懐に入ればチョロイもんだよ。」  男達は眼が血走り邪推なマナコで舐めるようにバーンを見回す。その身なりや装備は乏しく恐らくNクラス程度の元ハンターズであることは明確であった。正式なハンターズであれば政府から発行される正式なIDを装備してある筈だが、彼らにはなかった。 「素直に全部出しな・・・そしたら優しくしてやるぜ。」  野卑な笑い声が響く。異様に大きいのはキマイラらしい。強くなる為の違法手術だろう。一瞥もせずにバーンは言い放った。 「ふーん・・・皆さんNマイナ?」  Nマイナとは、最低ランクハンターで見習いを示す。バーンは全く動揺するでもなく、落ち着いた声で正面のHumarにそう聞いた。一瞬でこの首謀者がその男だと見抜いていた。男は、そのバーンの全く動揺していない態度と、何事もないような声色から、虚をつかれ拍子抜けしていた。 「なにをー、てめー!」  誰が聞いても間抜けな返事だったが、そのHumarには声を出すのが精一杯だった。 「あら、当たっちゃった?」  そのサラっと流した声で、男達の金縛りが解ける。そして、徐々にイライラがつのり始める。 「てめー、わかってねーようだな。」 「この距離でテクニックを詠唱出来るもんならやってみなよ。」  背一杯ドスを利かせている。男達のイライラは早くも頂点に達しようとしていた。  その時、ERUDINAはハンターズギルドの帰りだった。ニューマン特有のバランスのとれた背と美しい体型、吸い付くような肌理の細かい黒い肌に、端正で美しい顔立ちをしている。自分の肌の色が際立つという理由で、赤いハンターズスーツが好みで必ず着ている。エルディナはこの近辺に住むギルドに登録されたハンターだ。ヒューマーで言えば23才程に見えるが、ニューマンで7歳になったばかりだ。5歳よりハンター登録をし、このエリアで徐々に力をつけている。今さっき、ギルドからフォースばかりを狙った強盗団を捕獲する仕事を請けたばかりだ。 「クエストレベルはA、高いな。最低2名以上のハンターズを推奨。ターゲットはハンター崩れ、フォースが単独行動の時にいずれも襲われていると。ふん。気をつけるのはキマイラだな。・・・可愛そうに。全員最後には殺されてるのか・・・許せない。」  ターゲットをデータで確認にしつつ、早くも闘志が湧いてきている。 「確かに一人ではやっかいね。援護がいるわ・・・共同戦線をはるか。」  一人一人を見ればいずれもエルディナの敵ではなかったが、4人となるとさすがに手が余った。特にキマイラは厄介だった。エルディナは、弟のDJや母gfと共同戦線をはることを考えていた。弟のDJもハンターだ。母はフォースで、事実上引退状態ではあるがこうした時の為にハンターズライセンスは更新していた。しかし、いささかレベルでいえばエルディナに劣るものがある。それでも父親の遺伝か、ポテンシャルでは有能なハンターと姉のエルディナは踏んでいた。ただ、自信がないのだ。あまりにも。自信がなくて才能すら駄目になってしまう。才能にはそれを生かす相応の行動をしたものだけが得られる結果なのだ。DJはその自信のなさから相応の行動を怠っていた。 「あの子にはキッカケがいる。よし・・・決めた。」  その時だ。 「誰か警察をよべー!早く!」 「警察なんか間に合わねー。誰か、ハンターを呼べ。」  事件だ。そう察するととっさに身体が動いた。 「ハンターのエルディナです。どうかしましたか。」  男達は硬直した顔で、エルディナを見た。胸元のハンーズIDも目視すると、息を切らして言った。 「ああ、今さっき肌の黒フォースが男達に囲まれていていたのを見たんだ。最近、ニュースになってる連中だよ。間違いない。」 「何処だ、相手は何人だ。」 「あーえーっと、この先をすぐた。何人だ。あー思い出せない。とにかく一人はやたらデカイんだ。右腕が長くて異様な姿をしていた。」  すぐに直感した。 「キマイラだ!」  すかさずデータカードを取り出しキマイラの映像を男にみせる。 「こいつか!」  男は興奮しながらもデータを見て、すぐにうなずいた。 「こ、こいつだ!そうだ、こういつだ!とにかく恐ろしくデカイんだ・・・。」 「わかった、私が行く!」  そう言うとソードを手に取り走り出していた。  走り出してすぐ、もう一人の男が「4人だー。警察にも連絡するー。」と叫んでいるのが聞こえた。走りながら手を上げて合図を送りながら、頭の中で目まぐるしく考えがよぎった。「やれるのか、一人で・・・危険だ。危険すぎる。DJや母さんに緊急支援コードを送らなきゃ。」  通常ハンターズは複数で行動する為、チームのメンバー同士のみがわかる独自のコードを決め、その状態を一瞬に伝えられるようにしている。それを、エルディナはDJと母gfに送信した。 「お願い・・・どっちも間に合って。」  祈るように言う。一人ではエルディナすら餌食になりかねない。一人や二人はなんとか出来ても生きて帰らなければなんの意味もないのだ。 「見えた!」  白いフォーススーツをまとった女性が一瞬だが見えた。間違いなくターゲットだとわかった。その時、キマイラがまさにその異様に長い右腕を鞭のように振り上げていた。 「間に合わない!」 「マイル、やっちまえー!」  リーダーのヒューマーがそういうと、マイラという名のキマイラは異様に長いその腕を振りかぶった。 「いい天気ねー」  そう言うと、バーン愛用のアギトが一瞬光った。 「ぶっころす!」  イライラと怒りを募らせたキマイラは、振り下ろしたかと思うと同時に鞭のようしなった腕がバーンに向かって一気に伸びた。  直後、キマイラの腕がロケットパンチのように飛びバーンの反対側に突っ立ていたハンターの胸部を直撃、男は7mほど後方にふっ飛んだ。静かになった。  キマイラは、手の内にはる筈の獲物を見た。バーンは涼しい顔をしている。ゆっくりと、自分の自慢の右腕をみる。ない。腕が。刹那、緑の血が大量に流れ出す。余りにも早くて血が噴出すのが遅れたのだ。だからバーンは綺麗なものだった。 「ウグァァァァァァァァァ。」  キマイラの断末魔が晴天の街中で響く。  リーダーともう一人のハンターは全く理解できない状況にパニックに陥っていた。マイルの手に収まっている筈のフォースは、涼しげにしており微笑みさえ浮かべて見える。そのマイルの右腕はなく絶叫を上げのたうっている。そして、もう一人の仲間が忽然といなくっている。過去にこんなことは一度もなかった。何がなんだからわかない。 「どうする?終わり?」  そうバーンに言われ、一瞬だが整理がついた。わからない、わからないが、やられる。そう本能で察したのだろうか、悲痛なまでに歪んだ顔から、ほぼ同時にセイバーに手をかけた。 「まてー!」  エルディナは、必死の形相で注意をそらそうと大声を上げた。 「私はハンターズのエルディ・・・ナ・・・・?。」  その時、二人が同時に倒れた。エルディナはスローモーションを見ているかのうようだった。フォースは既に手に何も握っていない。何事もなかったように立っている。微笑んでさえ見えた。  バーンの前後には、痛烈なミネ討ちで悶絶したリーダーと最後まで眼にもしなかったハンター。右手5m先にはキマイラのパンチを受け絶命しているハンターと、左手には、失った腕を押さえなが失血のショックで意識を失ったキマイラがいた。エルディナに気付くと、キマイラの血でスーツを汚さないように迂回して近づいた。 「あら、あなたこのエリアのハンターズね。グーッドタイミング♪」  何事もなかったような顔で、そのエルディナ以上に黒く透き通った肌をもつ長身の美しいフォースは言った。 「後はよろしくね。どうせターゲットになってたんでしょ。向こうに一人いるけど、あれはキマイラのパンチで絶命したから仕方ないわね。キマイラは失血して気を失っているだけだから。しばらくしたら再生するわ。注意して。」  そういうとそのフォースは微笑んだ。 「・・・」  エルディナは混乱して何も言えなかった。 「もし、街中でみかけたら奢ってよ♪ ふふふ。」  そう言うと歩きだした。 「あ、あの・・・。」 「もし、問題があるならすぐそこにあるシャーロキアンって宿に来てー。」  そう言って振り返らず手を振る。  エルディナは頭を整理しようと悶絶しているハンター達を一人一人捕獲マーカーを照射しながら、確認した。 「間違いない・・・この連中だ。」  ハンターズのIDカードから転送許可の音声が流れる。 「確認いたしました。クエストランクA:fileNo・・・・・転送許可。」  男達の身体が光につつまれ、ハンターズギルドまで直接転送されるゲートが開く。 「転送して下さい。」  IDカードから指示があった。今一度、悶絶しているリーダーを確認し、転送指示を送信する。  マーカーをつけられた男達は光とともに一瞬にしてその場から姿を消した。  今は誰もいない。エルディナは未だに何が起きたのか認められない自分に気付いた。 「まさか!でも・・・だって・・・。えっ・・・嘘。でも、腰に実剣が。見えなかった・・・。でもフォース・・・。」  振り返るが既にバーンの姿はない。  遠くで誰かが自分を呼ぶ声が微かに聞こえた。声の方を向くと、ようやくエルディナは正気に戻る。 「DJと母さんか・・・んもう、遅いんだから・・・。」 呆然とするエルディナに走りよるDJとgf。 遠くではさらに遅れてサイレン音がこだましていた。 #6.「月夜の舞」 ○昼の直中にその真っ赤な情熱は固まりとなって来た。それはこの星の太陽にも似た人物。その光景は長年バ−ンのお庭番しているクールズにとっていささか見慣れたものだ。弟子入りしたい。付き合って欲しい。結婚したい等理由は色々だった。ほとんどの場合、クールズが門前払いしただけで恐れをなしてスゴスゴと去っていった。陰湿な逆恨みをされたこともあったが、バーンやクールズにとってその程度のことはまさに朝飯前のことでしかない。バーンもその程度で疲弊する程、弱い精神力は持ち合わせていなかった。その都度楽しんでいるようにさえ見えた。クールはその度に鬼姫つまり国家の長たる資質を感じぜぬにはおかなった。女として生まれていれば、正当な、最高の鬼姫が誕生していただろう。バーンは決まって最後に、世の中には色々な生き物がいるものですね。そう、独り言ともとれないことを笑顔で呟いていた。  しかし、これほどの逸材はここ暫くは珍しい。過去に出会った逸材の一人がジュゲだ。彼女は才能も実力も頭脳もズバ抜けていた。また、しつこさはドロイドのクールズでさえ舌を巻いた。この新参者は名前をエルディナと名乗った。クールズは瞬間的に未だ大いに発展途上の素材でありることを分析していた。才能は顔でわかるのだ。変化の兆しがその真っ直ぐな眼から見てとれた。彼の電子頭脳には、過去から今にいたるまでの膨大な戦闘データから、才能もある種のパターンを伴っていることが傾向として出ていたのだ。それは目であり顔であった。まるで占いのような話だが認めざる終えない一つの事実である。 「お願いです!」 エルディナは剣を置き、両膝をつき、頭を垂れ、ハンターとして絶対服従を意味する姿勢をとった。彼女にとって、天賦の才能と実力を認めた父親にすら見せたことがなかった。いや、一生誰かにすることは無いと今まで思っていた。この正面にいるパーンに会うまでは。  バーンが4人のターゲットを倒した後、エルディナはgfや弟のジュウオウへの説明も大雑把に済ませ、警察への当面の対応をまかせギルドへと急いだ。ギルドでの処理においては一切本人以外認められないからだ。驚くギルドガールを尻目にイライラしながら手続きを待った。地方のギルドにしては美人のギルドガールだ。そして、手続きが終わると次は二人の待つ警察への対応と奔走した。それらの処理には翌朝にまでおよんだ。なんとか収束をみたので、一睡もしていなが構わずバーンの元へと向かった。「お願い、まだ宿にいて!」宿を思った時、ふと疑問が沸いた。シャーロキアンという宿、バーンの様な美しい麗人が泊まるにはいささか酷すぎる宿であることに気付いた。「あのお方が嘘を?いや、ありえない。」聞き間違えたかと一瞬焦ったが、聞き間違えるには他にそういった名前の宿がデータになかった。 「しかし、まさかあんなトラブルの多い宿に、まさか。」  ハンターズの間では、いささか有名な問題の多い宿だ。小競り合いが耐えない。宿を把握するのはエリヤハンターにとって基本中の基本である。実は、到着早々ジュゲが宿に設置されたレストランで乱闘を起こしていたが、それは連絡されることがなかった。はやる気持ちを抑えながら、とにかく宿に向かう。 バーンは宿にいた。 「お願いします!私に剣を教えて下さい。」 バーンは古びた木製のイスに凛とした姿勢で座している。そして、エルディナを見つめて黙って微笑む。何度となく沈黙が流れた。最初は追い出そうとしたクールズだったが、話を聞くだけ聞きましょうと言う姫に従った。 「もう、話は終わりかな。では、お引き取り願いたい。」 クールズは何も聞かなかった風情で、言い放った。 「引き下がれません!」 そう言って睨み返す。自覚のある限りでは、それが初めて発した魂の叫びだった。 クールズがエルディナに向き直る。その目は一切を受け付ける気のない絶対的な拒否が込められていた。それは殺気にも感じとれた。 「まー無理やな・・・。」 その空気を断ち切るためか、ジュゲが笑顔で突然会話に割って入った。 「無理とは?」 エルディナがその小さなニューマンに向かって言う。 「簡単に言うとな、レベルが違いすぎるんよ。足でまといにはなっても、役にはたたんちゅうことや。」 「そんな!私だって・・・・。」 そう言いかけて言葉が詰まった。あの4人と戦ったバーンの剣筋が全くみえなかっだからだ。しかし、到底ここで引き下がるつもりもなかった。この怪しげなドロイドや可愛く小さなニューマンを倒してでも付いて行く覚悟が既にあった。 「引き下がれません!!」 彼女が込められる最大の思いを込めて言い切った。 ク−ルズはユラリと不思議な動きをみせ、いつの間にかオロチアギトを抜いていた。 「キリキリしーなー。」 エルディナは額から汗が流れている自分に気づいた。 「バーンここはワイにまかせてくれん?」 床にペタンとあぐらをかき、それまでニヤニヤとしていたジュゲが少し真面目な顔でいった。バーンは黙ってジュゲに笑顔をおくると、クールズをチラッとだけ見て、何事もなかったように静かに歩きだすと部屋を出ていった。クールズも後に続く。室内は再び沈黙が支配した。  エルディナの心は敗北感で一杯だった。今までに味わったことなない感情だった。膝に添えた両拳は握りしめられギリギリと音がしそうなほどだ。あまりの悔しさと敗北感で涙すら出ない。身体は硬直し、眼瞬きすら忘れている。 「あんなー姉ちゃん。ワイら毎晩トレーニングしてるんや。その気があるなら明日見にきてみ。」 ジュゲのその一言でエルディナは顔を上げられた。 「言ってわかるならきやしないわな。論より証拠ってね。」 エルディナの顔が明るく輝く。 「ただし命の保証はせんけどな。」 あくまで悪戯っぽい笑顔をしてそう言うジュゲに、エルディナは気迫を込めて返事をした。 「勿論」 「クールには冗談は通用しないからきーつけー。」 「クール?」 「あのドロイドや。斬られるよマジに。ほっんと、あいつは手加減とか冗談とか絶対通用しないから。明日トレーニングに行く途中とか目が合っても知らん顔しーな。」 「ありがとう・・・。」 「ふふ、同じ天才ニューマン同士なかよーせんとな。」 そういうとあぐらだったのに身軽に一瞬で立ち上がり、胸をはってエルディナにブイサインを送る。 「うふふ。エルディナよ、ヨロシクね。」 「ワイはジュゲ。へへ、天才ハニュエール!さっきのオンボロがク−ルズで、座ってたのがバーン。ワイもバーンは大好きだから、エル姉ちゃんの気持ちすごっいわかるよ。」 「うふふ」  二人は固い握手を交わしその日は別れた。    翌日、言われた時間より3時間も早くエルディナは現れた。別れ際、ジュゲがこういったからだ。トレーニングの時間は不規則で、バーンがやりたくなった時が稽古時だということ。クールズは、絶対トレーニング中に部外者を入れないので、こそっとついて来ること。そして最後に、絶対に20メートル以内に近づかないこと。この3つだった。近づいてはいけない理由を尋ねたが、ジュゲはいつも見せるあの悪戯っぽい笑みを浮かべただけで詳しくは話てくれなかった。ただ、こう言った。全ては見て、感じればわかると。  宿のほぼ正面に位置するカフェに来てから2時間が過ぎた。店内奥に位置しているので宿からは見えない筈だ。  ロビーの扉が動いた。バーンだった。そして彼女の1メートル左後方にクールズかいた。二人にはなんのオーラというか殺気というか意気込みらしきものを発する風もなく歩きだした。それはまるで買い物を思いついたお嬢様と付き人のような気軽さに見えた。  バーンは今日も凛々しく美しかった。バーンを目線で追っている内に、身体が熱くなっている自分に気づいた。心臓が高鳴り、脈が勢いよく命の鼓動をうっている。エルディナはバーンに釘付けになっている自分に初めて気づいた。そういえば、昨日はあまり寝つけなかった。眼をつぶると色々なバーンの顔が自然と浮かび出てくるのだ。4人のハンターに囲まれた時の毅然としたバーン、昨日あった時に椅子に座したバーン、自分に微笑みを送ったバーン、自分の肩を叩いたバーン。自分でもわけがわからなかった。その叩かれた肩の感触を思い出そうとしている自分に気づいては顔が赤くなった。 「違う違う!まさか、そんなことない。私は正常だ。」  そう言いながらも目が離れなかった。コップのものを飲み干し。周囲に気づかれないように深呼吸した。そして、相変わらず無愛想な店員に代金を支払い。気づかれないように店をでた。20メートル、キープしなきゃ。二人の後からジュゲは出てこなかったが気にしなかった。既に陽もくれかけている。ジュゲの様な可愛い女の子には夜の街は危険だから出してもらえないのだろうと一人納得した。昨日は必死さのあまり自分をアピールする機会を逸していたが、今日はトレーニングに乱入して自分の実力を見せるつもりだった。そうすれば絶対嫌とは言わない、言わせない自信があった。少なくても、エルディナはこの星のベストハンターズの一人である実力者だ。また、才能ある両親の遺伝子を受け継ぎ相応のトレーニングをこなし、ズバ抜けた成績を納めていた。だから絶対の自信があった。  バーンとクールズは暫く歩き、人けの無い広場で立ち止まった。エルディナに緊張が走った。そこはお世辞にも安全な場所とは言い難い地区にあったのだ。一月程前に地域の2代勢力が小競り合いの果てに瓦礫と化してしまったのだ。今では整地され見る陰もない。30メートル四方の整地だ。街頭すらなく月明かりのみが微かに辺りを照らしている。  気付くと、いつの間にかクールズの姿が見えない。 バーンも、おもむろに剣を抜き、広場を中央へ歩き進んだ。 「まさか、ここでトレーニングを始めようというの。いくらなんでもこの地区じゃ危険だ。ここのエリアは立入禁止区域なのに。」  乱入を諦め、危険を知らせようとエルディナが近くに寄ろうとした刹那、バーンの剣が光った。しかしバーン無表情だ。今度は1つ2つ3つと3度振った。恐ろしく早い。エルディナには切っ先を捉えるとこが出来ない。バーンはそうして何度も歩いては剣を振り、歩いては剣を振った。その表情は無表情というより自然といった方がいいかもしれない。不思議に思いながらも、見つからないよう距離をおきながらゆっくりと近づいた。そして、この広場となった整地の中央付近に来ると立ち止まった。まただ、今度は何度も舞うように剣を振る。早すぎて数えきれない。一体何をやっているのか?気になるのは、時折金属どおしがかすかに擦れ会うような音が聞き取れる。だがその音源を見定めることが出来ない。 「今ならバーンさん一人だ。いっそトレーニングが始まる前に私の剣筋を見てもらおう。」 そう思い、歩こうとした途端。 「踏み込み甘いなー。」 エルディナは驚きのあまり、飛びのきざまに剣を抜く。 その声の主は、ジュゲだった。何時の間に、全く全く気付かなかった。隣にいたのだ。  ジュゲは全く構う風もなく、相変わらず一人激しい演舞をしているバーンをあの悪戯っぽい笑顔を見せたままじっと見つめていた。パニックに成りそうな自分をうまく制御しつつ、ジュゲを見た。ジュゲは身の丈の2倍以上もある巨大な大剣を、地面に突き差したまま立っていた。 「またや。ほら、エル姉ちゃんもよーみてみー。踏み込み甘いやろ。」 「え?」  バーンの方を見るが相変わらず華麗な演舞に興じている。  その時だ、バーンは剣を垂直に構えると一筋の雷撃が天空より走った。ゾンデだ。その閃光が落ちた先の何かが、弾いた。 「ゾンデを弾いた!嘘!」  しかも、そこにいたのはクールズだった。 「そんのようなゾンデでは、かすり傷もつきませぬぞ!」  その瞬間にようやく全てを理解した。あの音、あの激しい演舞。既にトレーニングは始まっていた。しかも、クールズは見えない程に早い。いや、それとも。 「まいるぞよ!」  初めてバーンの表情が変わった。フォースはおろか並大抵のハンターですら出来ないような素早く大きな振りで一気にクールズとの間合いを詰めた。しかし、既にクールズは消えている。バーンは振り返りざま大きな火弾を放った。高レベルのフォイエだ。振り下ろしながら詠唱に入り、避けられるのを承知で着地と同時にフォイエを発する。神業のようなテクだ。そして、その放ったフォイエのやや左前方へ一足で踏み込み、剣を振りおろす。その瞬間バーンは大きく後方に飛ばされた。地面に叩きつけられながらも上手く回転し衝撃を和らげている。そして、回転した勢いでそのままスックと立った。顔からはまた表情が消えている。夜月に照らされ神々しい程に美しい。息をわずかに吐いた。正面5メートル程先ににクールズが仁王立ちしていた。5メートルも飛ばされていたのだ。バーンの身体が青い光に包まれている。 「デバンドで衝撃を緩和したんだ!」 思わず声に出た。声を出した自分に全く気づいてすらいない。 「怒りにまかせた剣では、スペース鼠すら斬れませぬぞ。」 厳しい口調でクールズはそう言った。 「ぎょい」 静かにバーンは返した。 「バーンさん・・・バーン・・・さん。」 消え入るような声でエルディナは呟く。 まばたきを忘れた。 呼吸も忘れた。 音も消し飛んだ。  今、エルディナは全身が目となっていた。バーンの一挙手一頭足を見逃せない思いだった。  再びバーンが動いた。 1刀1刀が必殺のような鋭さを持ちながら、1つ2つ3つ4つと立て続けに振り下ろされた。それは当初見た時よりも大きくそして鋭く美しく本当に踊っているかのように見える。 「よっしゃ、よっしゃ。いい感じにっなってきた。」  ジュゲはウキウキとした口調でそう言う。  休むことなない必殺の舞は続いている。そして、突如幾つものアイピラーが立ちのぼった。ギバータだ。周囲は季節外れの雪景色のていをなす。連続してギバータが放たれた。バーンは剣を顔正面にかかげ、度切れずにギバータを詠唱し続ける。周囲5メートルは完全に氷壁が出来上がっていた。その時、氷壁の一部が激しい音をたてて弾けとび、塊がバーンへむけ迫った。その途端バーンは空中に舞った。舞ながら詠唱している。 跳躍の頂点に達した辺りで、半径5メートルはあろうかという巨大な炎球が地面をドーム上に覆った。ラフォイエだ。  時が止まったかのような気がした。灼熱の炎球が音や時間すらも消し去ったかのようだ。一瞬遅れてすさまじい轟音が、その炎球の内部だけに轟音となって響く。炎は一瞬で消えた。そしてバーンは着地。まだ高温の炎に焼かれた大地から湯気が上がっている。月明かりでも陽炎がはっきりと見てとれる。  口が乾いていた。エルディナは辛うじて唾を飲み込む。 「参った。」 バーンが言った。 「え?」  ようやくまばたきをしたエルディナは、乾いた目をしばつかせながらバーンの首筋に光る剣をようやくみとめた。バーンの真後ろにはクールズ。そしてバーン首にはクールズの愛刀オロチアギトが突きつけられている。引けば、しぶきがまうだろう。バーンはやや息を切らしている。 「・・・」 エルディナは言葉がなかった。 「空中では姿勢は制御出来ても、落下地点は制御出来ません。空中へ舞うのは最後の最後とお考え下さい。」  オロチアギトをすっとしまうと、淡々とクールズは言った。 「ぎょい。」 全く悔しがる風もなく。バーンはまっすぐ遠方を見据えたままそういった。  クールズは片膝をつき、バーンに向かって頭を下げた。 「本日は以上これまで。」 「いえ、今1度願います。」 呼吸の整ったバーンはクールズを見ずにいった。 「御意」 その瞬間、クールズは音も無く消える。 バーンはまだ遙遠方を見ているかのように焦点が定まっていない。 「バーンもいよいよ本気や!」  全く動揺するどころか、ピョンピョンと飛び跳ねながらジュゲはオモチャを与えられた子供の様にはしゃいでいる。楽しくてたまらないようだ。放心状態のようなエルディナハそんなジュゲを見て「何言ってるだーこのボケは!」と整理の付かない感情で心内毒づいた。  バーンは今までからは想像も出来ないような危機迫る表情をしている。急に周囲の温度が2・3度下がった。急速に目に見えない何かが集まりつつあった。そして。「はあっっっっっ!」  バーンの気迫のこもった声と同時に身体が強い光に包まれた。超高威力のシフタとデバンドをほぼ同時にかけたのだ。そして、同時に横一線に剣を振る。そして、2撃3撃と先程にもまして激しい舞。明らかに間合いが延びている。もはやエルディナにはバーンの動きを追うのも無理だった。剣筋どころの騒ぎではない。そして、時折り激しく弾く音が聞こえた。その度に今まで見えなかったクールズ姿が浮かび上がった。 「よっしゃ!」  ジュゲがそう言うと、傍らに刺してあった大剣を軽々と手にとる。鈍い低音が騒音のように鳴るとその大剣の刃先全体が青く光った。ジュゲは明らかに二人の動きが見えているようだ。しかも、なにかのタイミングを待っている。  そして突如、跳びだしたかと思うとその巨大な剣を信じられない速度で横一線に振る。空気すら切れてしまったかに思えた。そしてその瞬間に電気がショートするかのような音が。クールズが初めてその姿を見せた。大剣をオロチアギトで難なく受け止めている。衝撃で、1メートルほど動いたことがその足元から見てとれた。  ジュゲの顔が別人に見える。あの悪戯っぽい子供のような笑顔は消えていた。そこへバーンが斬りかかる。 「はああああああっ!」    その永遠とも思える円舞が2時間あまり続いた。  エルディナは途中から記憶がなかった。ただ真っ白だった。そのトレーニングは想像の域すら遙に越えて余りあるものだった。 「クールズ、ちょっとは手加減なさいよー。」  バーンの声で、我に返った。バーンは笑顔でクールズの臀部を叩いている。3人も嘘のように表情が違って見える。バーンはエルディナに気づくと心配そうな顔で駆け寄った。 「大丈夫!」  そういうと両手をエリディナの頬に添え、左手で前髪を上げだ。 「たいへーん!血が出てる。」  跳石でろうか、剣圧だろうか、わずかに額が切れていた。バーン裾から自分のハンドタオルを出し、血をぬぐった。そして、エルディナの全身を眺め他に怪我がないか見て、怪我がないのを認めると心から安心したような笑顔を見せ。軽く抱きしめた。なんともいえない疲労が癒えるのを感じた。レスタをかけたのだ。 「これで、もう大丈夫ね。」  そう言うと両手をエルディナの両肩に沿え、ジッと優しい笑顔で見つめた。  エルディナは顔が赤くなったが、不思議と恥ずかしく無かった。そんな二人にクールズ近寄るとエルディナを一瞥もせず姫向かって話を続けた。 「姫、後半のザマはなんですか。あれほど感情にまかせて剣を振ってはならぬと申したではありませぬか!」 「あーもー、うるさいうるさーい。」 そう言うとそそくさと歩き出し元来た道を帰りだす。 「いーえ、今日という今日は止めませぬぞ!姫、あの時の一撃では・・・」 「あっあ−、本日は晴天なりー。もう既に真っ暗なりー。あっあー。」 普段のバーンからは想像出来ないようなおどけた声。両手で耳を塞いでいる。 「あっあー、おなかが空いて倒れそーなりー。クールズは小姑なりー。あっあー。」 「なんと申された!姫、姫!」  エルディナは二人のやり取りを笑顔で見つめていた。不思議な感動?で涙が頬をつたってた。ジュゲはエルディナの少し前で二人の会話をピョンピョン跳ねながら笑って聞いていた。 「あっはっはっはっはっ、バーンが壊れた。バーンが壊れた。ヒーッヒーッ」  エルディナはバーンに手渡されたハンドタオルで涙を拭う。 「どやった?」 ジュゲはバーン達を視線でおったまま言った。 「・・・夢みたいだった。ふふ、駄目ねーこれでもプロのハンターなのに。」  その声は全くわだかまりのない爽やかなものだった。そして、思いっきり伸びをする。 「でも、姉ちゃん最後までいたやん。初めてやで、うちらのトレーニングを最後まで逃げずに見たもんわ。」  そう言うと振り向く。その顔にはさっきとはまた違ったジュゲの顔があった。ジュゲという少女を少しだけわかったような気がした。 「でも、ぜーんぜん見えなかった・・・。」 「んじゃ、あきらめるん?」  頭の中では不可能という文字と、それでもやりたいという衝動が同時に身体の何処からか沸いて出た。一瞬間をおいてこう叫んだ。 「諦めない!」 遙彼方のバーンを見据えてから、ジュゲをみた。ジュゲはいつもの悪戯っぽい笑顔を見せている。 「ふふふ、言うたなー。」 「武士に二言ありません!」 そう言うと胸を1度ポンと叩き、すかさず剣をとった。1振り・2振り・3振り。気迫を込めて素早く振った。あの壮絶な演舞の後にもかかわらず何の恥じらいもなかった。 「今の私はこれが背一杯・・・。でも、諦めない!」    今は3人に遙に劣るものの、大いなる可能性を秘めた剣筋だった。